オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

夢を操るはなし

 初夢は何を見ましたか?
 ボクは、残念ながら見られませんでした。富士山も鷹、茄子(なすび)も出てきませんでした。
 昔は七福神などが描かれた枕絵を敷いて寝たそうです。なんとか工夫してよい夢を見ようとしたのです。
 そこで夢を操るはなしを二つしましょう。

~夢をオン・オフしたら、記憶にかかわっていることがわかった~

 なぜ夢を見るのか。いろいろな人がいろいろな説を唱えていたようだ。

 あのフロイトは、夢は抑圧された無意識の願望だと言ったとか。DNAの二重らせんを発見したクリックは、不要な記憶を削除する際に夢が生み出されると考えたとか。平安時代の貴族は、恋人が自分を想うと夢に登場すると思っていたとか。

 

 夢を見る眠りを「レム睡眠」という。レム睡眠のレム(REM)はRapid(急な) Eye(目)の Movement(運動)の略。夢を見ている時には目がキョロキョロと動いているそうだ。
 瞼の下の目の動きをどうやって確認したのか気になるが・・・話を進めよう。
 逆に夢を見ない深い眠りをノンレム睡眠という。

 

 昨年10月、つくば大学と理化学研究所の合同チームが夢と記憶に関する発表をした。
 チームは世界で初めてレム睡眠を増やしたりしたり、無くしたり出来るマウスを遺伝子操作技術で作成した。たくさん夢を見させたり、逆に夢を見ないようにするスイッチをつけたマウスが生まれた。もっとも本当にマウスが夢を見ているかは、本人に聞いてみないとわからないと思うけど。
 その結果、世界で初めて「夢が学習や記憶の形成に関係している」らしいことがわかった。

 

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 これまでも「眠りが記憶に関係している」ことはわかっていた。同じ勉強をさせて、その後睡眠をとったチームと、とらなかったチームに分けてテストをしたら、眠った方が良いという結果が出た。
 また刺激を与えてレム睡眠を無くす実験もあった。でもこれでは対象者にストレスがかかりすぎる。ある結果が夢を見なかったからなのか無理矢理起こされてイライラしたからなのか、わからなかったようだ。
 今回世界で初めてレム睡眠が関与していることが確認された。

 

 合同チームは、夢を見る眠りから見ない眠りへ切り替えるスイッチの役目をする神経細胞を発見。マウスのこの細胞を自由に操作できるようにした。
 マウスに夢を見せないようにすると、脳の神経細胞のつながりが強化され、記憶や学習と関係する脳波が弱くなった。逆に夢を見る眠りを増やしてやると、この脳波が強くなることわかった。
 まだまだこれだけでは、夢と記憶の関係は詳しくはわからない。夢を見たマウスが学習したことをどれだけ覚えているか、どんな行動をとるかなどなど、次の実験の結果が待たれるところ。

 

 人間に遺伝子操作を加えるわけにはいかないけど、夢を見せる神経細胞の働きを調節する薬ができたら、本当に記憶増強剤になるかもしれない。スポーツ選手のように受験生のドーピングテストが必要になる時代がくるかもしれない。

 

~夢のストーリーに自ら関与する明晰夢

 そもそも夢は、曖昧で奇妙で一貫性や脈絡がない。そのくせ夢の中ではそれをおかしいと思わない。死んだ親父と話したり、空を飛んでも不思議じゃない。そして夢のストーリーはどんどん進んでいく。夢の中では夢じゃないかとは思わない。夢じゃないかとほっぺたをつねるのは現実の世界だけだ。

 

 ところが夢の中で夢だと気づき、時には自分で意思を持って行動したり、ストーリーに影響を及ぼす夢を見ることがある。これを明晰夢と呼ぶ。
 多くの人は生涯に一度くらいは見ると言われている。一方で100回以上見ている人もいるようだ。明晰夢マスターを名乗っている人も居るそうな。

 ボクはこれまで二度見ている。一度は意思を持って動いてみた。
 夢の途中で「あっ、これは明晰夢だ」と気づいた。薄暗かったので夜だったと思う。周りをぐるりと見渡してみた。工場地帯のようで道がまっすぐのびていた。後ろは大きな十字路。矢印と行き先が書いている大きな案内標識を注視し、地名を読んだ。夜なのに読めるのだから夢なのだ。数日憶えていたのだが、今は忘れてしまった。

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 「明晰夢を見るには」というコラムが日経サイエンスに載っていた。

要約すると、

①毎日何度も「自分は今目覚めているのか」と問いかける習慣をつける。

②「現実性の確認」の手段として鏡をのぞき込んだり、短い文を繰り返し読むことに努める。夢ではこれらが極めて難しいらしい。ボクは案内標識が読めたのだから、確かに明晰夢だったのだ。

③起きたらすぐ夢の内容を書き留める。

④寝る前に夢で経験したいことを詳しく集中的に空想する。

ネットにも明晰夢をみるコツがいろいろ書いてある。明晰夢の達人は夢の内容まで操れるようだ。

 

 さあ明晰夢をみよう。あこがれの彼女とデートして、ワールドカップに出場して、空を飛ぶ。夢だからなんでもOK。明晰夢だから好きなようにコントロールできるはず。
 アスリートの皆さん、夢の中でも練習ができますよ。まさにイメージトレーニングです。効果ありそうだ。

 

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 眠りや夢の研究がさらに進めば、いろいろなことができるかもしれない。
 時差ぼけ解消薬、徹夜でも眠くならない薬。アインシュタインが日本語で物理を教えてくれる睡眠学習法。時間がない映画ファンのための夢中映画とかどうだろう。
 他人(ひと)の夢を解析する実験が進んでいると聞く。夢がスクリーンに投影される日が来るかもしれない。逆に言えば、夢をアウトプットできることになる。そうなれば明晰夢で、夢を演出できる。カメラも絵筆もいらない夢クリエイターの誕生だ。
 夢は広がる。

 

オジさんの科学 vol.002 2016年2月号                  2016.01.30 や・そね