オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

指で潰せる最強生物

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最強の生物と言えば?

 子供の頃、映画館で観たキングギドラだろうか。反重力光線は凄かった。ゴジラモスララドン連合ですら倒すことができなかった。

 そしてウルトラマンに勝ったゼットン

 悟空より強いフリーザ。いやいや魔人ブウの方が強い。

 キメラアントの王メルエムも無茶強い。

 

 

 架空のキャラクターではなく、実存の生物では何が最強なのか。NAVERまとめの最強生物ベストテンをみる。

 1位、アフリカゾウ
 2位、サイ。
 3位、マッコウクジラ
 4位、シャチ。
 5位、カバ。
 と続く。

 ライオンとアフリカゾウでは明らかにゾウが勝つらしいが、ここにあるほとんどの生き物は生息するところが違う。どっちが勝つなんて本当は判らない。マッコウクジラは一生アフリカゾウには会わない。
 普通は強いと言うと、体がでかい生き物を思い浮かべるよね。

 

 ところが最近、小さいのに最強と言われる生き物がいる。
クマムシ」だ。
「あたっかいんだから~」のお笑いコンビの名前の由来ともなった生き物。
 体長は0.05~1.7mm。「緩(かん)歩(ぽ)動物」と呼ばれるエビやカニなどの節足動物に近い8本脚の生き物だ。1,000種以上もいて、陸も海も世界中のあらゆるところに住んでいる。庭の苔の中からも採取できるそうだ。

 

 クマに似ているからクマムシというらしいが、宇宙怪獣みたいなのやら、ボンレスハムに脚がついてるようなのやら。なかなか変わった見てくれの連中である。
 最強と言われるが、広島大学大学院生物圏科学研究科の長沼毅先生は「死なないやつら」(BLUE BACKS 講談社)という本の中で「指で潰せば、簡単に死にます」と書いている。    
 指で潰せるのに最強なのは、クマムシが非常に過酷な環境でも生き延びることができるからだ。
 お笑いのクマムシは「過酷な環境の中でも生きていけるクマムシのように、厳しい芸能界を生き抜いていけるように」と名付けたそうだ。

 

 クマムシは150℃でも死にません。ボクは45℃のお風呂が限界かな。
 絶対零度、マイナス273℃近くまで温度を下げても大丈夫。ボクはマイナス40℃の冷凍庫に入って鼻毛が凍りました。
 5,700シーベルトもの放射線を浴びても大丈夫。人間の致死量の千倍以上。ボクは・・・・・。
 真空から75,000気圧まで耐えられます。水深1万メートルを超えるマリアナ海溝の水圧の数十倍までOKってことだ。ボボ・・・・・。
 地球上のどんな所でも生き延びることができる。

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 ただし、このクマムシの能力はある特殊な状態じゃないと発揮されない。
 体の水分を出しまくって、通常85%ほどある水分率を0.05%まで減らした「乾眠」という状態になった時だ。この状態を「樽」という。クマムシは危機的な状況になると水分を減らし、代わりにトレハロースという糖分を体内に増やす。これによって細胞を保護する。樽のクマムシ代謝が止まり、仮死状態になっている。

 

 かつお節のなかでも最も高級で硬いといわれる本枯節でさえ、水分率は13~15%。樽のクマムシはとってもカラカラの乾物なのだ。
 干しアワビや干しシイタケは水で戻して使う。クマムシも水分を補ってやると復活する。
 この年末から年始にかけてクマムシ最強説をさらに補強するようなニュースが2つ流れた。

 

「30年前のクマムシが復活」

 国立極地研究所の辻本惠特任研究員のグループが、南極で30年前に採取されたコケを解凍、給水したところ、2匹のクマムシが見つかった。
 しばらくすると動き出し、そのうちの1匹は卵まで産んだ。
 同時にクマムシの卵も見つかり、給水後6日目で孵化。クロレラを食べて成長し、子孫も残した。

 クマムシの寿命は1ヶ月から1年。これが乾眠状態になるとずっと伸びる。これまでの最長は9年だったが、今回の30年はこの記録を大幅に塗り替えた。
 乾物の賞味期限はせいぜい数年だそうです。そして水で戻しても干しアワビは動いたりしない。

 

クマムシの遺伝子の6分の1以上は、他人の遺伝子」

 ノースカロライナ大学の研究チームが、クマムシの遺伝子の17.5%は他の生物からの遺伝子(外来遺伝子)と発表した。多くの生物の外来遺伝子は数パーセント以下らしい。
 クマムシは、様々な能力を他の生物から獲得したのではないかとのことだ。

 その外来遺伝子の9割以上は細菌からのもの。研究チームは「乾眠から戻る時のクマムシは、急速に水分を吸収するスポンジのようなもの。この時に細菌などの遺伝子を取り込むのではないか」と言っている。
 この研究結果が本当ならまさにクマムシ恐るべし。

 

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 たとえ体は小さくとも「時が来るまでじっと待つ忍耐力」や「周囲の役に立つものを積極的に吸収する柔軟性」。それが最強の条件かもしれない。
 これってサラリーマンの世界でも言えそうだなぁ。

           

 

オジさんの科学vol.003 2016年3月号                                            2016.02.26 や・そね