オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

台風7番勝負

 今年(2016年)の台風は変だ。1号がなかなか発生しないと思っていたら、3つも同時に来たり、Uターンしてみたり。観測史上初めて岩手県に上陸したら、続けて北海道に上陸した。
 夏から秋にかけて当たり前のように毎年発生し、大雨や強風の被害を引き起こす台風。でも、台風って何者?よく知らない。

そこで台風をいろいろな方々と競わせてみました。

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1.VS大谷翔平

 先日、プロ野球の大谷が記録した球速日本一は、時速164km(2016年当時、現在は165km)。秒速にすると45.6m(同45.8m)になる。
 台風の定義は「最大風速が秒速17.2m以上の熱帯低気圧」。
 時速に直すと61.9km。小学校低学年のピッチャークラス。大谷の足元にも及ばない。
 ところが発達するとトンデモナイ強風になる。天気予報で伝えられる「台風の強さ」は、「最大風速」で決まる。

           <最大風速>                                   <強さの表記>

    33m/秒未満                                   表現なし

    33~44m/秒                                  強い台風

    44~54m/秒                                  非常に強い台風

    54m/秒以上                                   猛烈な台風

 大谷の速球は「非常に強い台風」にランクされる。しかし猛烈な台風の風上に向かって大谷が投げても、ボールはセンターに飛んでいく。スピード勝負は台風の勝ちだ。

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 日本における過去最大風速は72.5m/秒、時速261.0km。最大瞬間風速は91.0m/秒、時速327.6km。
 ちなみに最大風速は「10分間の平均風速の最大値」、最大瞬間風速は「瞬間風速の最大値」のこと。

 

2.VSタムじいさん

「台風の大きさ」も風速が基になって表現される。風速15m/秒の「強風域円の半径」で決まる。

           <強風域の円の半径>                     <大きさの表記>

    500km未満                                     表現なし

    500~800km                                   大型(大きい)台風

    800km以上                                     超大型(非常に大きい)台風

 半径500kmの円の面積は78.5万km2、800kmでは201万km2となる。地球最大の火山タムじいさんことタム山塊(現在は複数の火山の集まりと考えられている)の面積は31万km2なので、この勝負も台風の勝ちだ。

 

3.VSマイケル・ジョーダン

 死者、行方不明者を5,000名以上出し、明治以降最大の被害をもたらした伊勢湾台風。被害の多くは高潮によるものであった。この時観測された潮位は3.89mにもなった。
 バスケットボールのスーパースター、マイケル・ジョーダンの最高到達点3.91mに匹敵する。3.05mのリングから、頭が飛び出るくらいのジャンプだ。

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 潮位は気圧が1hp(ヘクトパスカル)下がると約1cm上がる。900hpだと1m以上上昇する。これに風による吹き寄せ、潮の満ち引きの影響、海岸の地形などが重なってさらに高くなる。
 特に、台風の東側は強風が吹くので、台風が湾の西側を通る時は要注意である。
 かつて東京湾でも西側を通った台風が、大水害を引き起こした。

              

4.VS高橋尚子

 台風の移動速度は、南方海上で時速20km程度。このスピードでマラソンを走ると2時間6分35秒に記録になる。高橋の記録は2時間19分46秒。台風の方が早い。男子の日本記録、2時間6分16秒(現在は大迫傑の2時間5分50秒)とほぼ同じである。
 台風は日本に近付くと偏西風に流されてスピードアップし、時速100kmほどにもなる。そうなると瞬間最高時速44.72kmのウサイン・ボルトでさえ追いつけない。

 

5.VSスーパーコンピュータ

 台風の予報はスーパーコンピュータを駆使して行われる。
 たとえば、地球全体をシミュレートする「全球モデル」では、地球上の大気を水平方向に約20km四方、垂直方向を約800mのブロックに分割して計算する。このブロックは全部で約1億3000万個。ブロック毎に風や温度、湿度を初期値として設定する。変数は5億にも上るという。
 また、日本の「局地予測モデル」では2km四方に細分化して計算する。複数のモデルに様々な初期値を設定し、たくさんの結果を集計して予報を行う。

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 台風の進路予想図では、範囲内に70%の確率で台風の中心が位置するように予報円が描かれている。先になるほど予報円は大きくなる。
 3日先の位置予想であれば、平均300kmの誤差が生じる。時には、1,000kmも違うことがあるそうだ(現在は予想精度が20%向上したと言われる)。
 台風が発達するメカニズムは、完全にはわかっていない。海上の正確なデータが得られにくい、関連する要素が多い、予測モデルで区切ったブロックの目が粗い等々からまだまだ台風の予測は完全ではない。
 今のところ、スーパーコンピュータですら現実の台風には追いつけない。

                                           

6.VSセミさん

 セミの成虫になってからの寿命は、1週間程度と言われてきた。しかし、これは俗説らしい。セミは飼育が難しいので、広まったようだ。実際は1カ月程生きる。
 熱帯低気圧が台風になった後の寿命は、平均5.3日。ご長寿記録でも19.25日。
 よって長生き競争はセミの勝ち。

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7.VS蒙古兵

 歴史が示すように弘安の役(1281年)では、現在の暦で8月下旬に、来襲した14万の蒙古軍を台風が一掃した。神風である。

 

 地震などと比べ台風はあたりまえに感じ、侮ってしまいがちである。しかしまだまだ謎も多く、怖い存在なのである。
 平均的な台風のエネルギーでも、東日本大震災を凌ぐともいわれる。今後温暖化によって台風の発生数は減るが、大型化するとの予想もある。
オジさんたちよ、台風の日には無理をせずに大事をとって休みましょう。

 

オジさんの科学vol.009 2016年9月号                                                                                                                                 や・そね   2016.09.24(2019.07.29改)