オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

見えてます。

閃輝暗点

 先日、突然目の前に先が尖ったCの字の様な、上下に潰れた三日月の様なものが出現した。そこだけ虹色に滲んでいて、プリズムを通しているみたいだった。
 目線に沿って動くので、眼鏡の油汚れかと思った。だが眼鏡を外しても見える。
 次は眼に異常が生じたと思った。どちらか確かめようと、片目ずつ瞑ってみた。同じ様に見える。つまり眼ではない。

「脳の中で何かが起こっている」。

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  面白い、凄い、綺麗だ。でも、「来週はゴルフ。ボールが見づらいなぁ」と思った。
 ネットで検索すると「閃輝暗点」に間違いない。
同じように検索していたカミさんに「面白がっていないで、病院に行きなさい」と言われた。
 通常、閃輝暗点片頭痛発作の前兆現象として現れるそうだ。片頭痛患者の三3割が経験するらしい。片頭痛にならない場合は、脳腫瘍、脳梗塞が疑われると書いてあった。
 15分ほどで三日月は消えた。頭痛は起こらなかった。

 

~ブラインドサイト~

 無いものが見えることもあれば、見えないはずなのに見える人もいる。
 盲目なのに、廊下の障害物を上手に避けて歩く。本人は障害物があることも、それを避けていることも意識にない。あたかも見えているようなこの能力を「ブラインドサイト」という。
 物の形や色、動き、明るさ、線の向きや縞模様を言い当てることができる。スクリーンに映った光の点を指せる人もいる。
 本人は当てずっぽうに答えているつもりが、正解する。
 顔の表情から相手の感情だけを読み取る人もいる。

 

 眼から入った情報は大脳の「視覚野」で映像化される。脳卒中などで視覚野が傷つくと、目が見えなくなる。
 しかし情報は視覚野とは別経路で処理されているらしい。映像化して見るよりも反応が速く、無意識に体は動く。
 ブラインドサイトは映像が無い第2の視覚だ。侵入者にセンサーが反応し、自動的にライトが点灯する家がある。モニターに映したりせずに対応するこの仕組みに似ている。

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 脳の無い貝類は、生き物の影などが原始的な眼に相当する部分を横切ると「反射」的に貝殻を閉じたり、逃げだしたりする。
 鳥類や魚類など大脳が発達していない生物は、ブラインドサイトで危険を察知し、獲物を見つけるようだ。

  健常人でもこの第2の視覚が、機能している可能性がある。
 プロ野球のバッターは、ピッチャーの投げたボールのスピード、球種、軌道などに、すばやく反応しスイングする。ところが、ホームランを打った後のお立ち台で「どんなボールだったか覚えていません」と答えることがある。
 ブラインドサイトに似た機能が働いているのかもしれない。

 

サブリミナル効果

 本人が見たと意識しないにもかかわらず無意識に反応する、と言えば「サブリミナル効果」を思い出す。日経サイエンスの2014年2月号に「サブリミナル効果の真実」という記事が載っていた。
 1957年の夏、「米国ニュージャージー州の映画館で、5秒ごとに3/1,000秒間『ポップコーンを食べろ』と『コカコーラを飲め』というメッセージを6週間にわたって流した結果、炭酸飲料の売上が18%、ポップコーンは58%伸びた」と発表された。
 これを機に多くの研究者たちが再現実験を繰り返したが、誰一人として成功しなかった。そして5年後、「イカサマ」であったことが判った。

 

 その後ずっと、科学者たちは「サブリミナル効果には根拠が無い」とみなしてきた。
 ところが、2001年以降何らかの影響を及ぼすことわかってきた。
 注意力テスト中のディスプレイに「コーラ」と「飲み物」という単語を一瞬明滅させる実験。アニメ番組「ザ・シンプソンズ」の中に「のどが渇いた」という言葉と「コカコーラの映像」を仕込んだ実験。
 いずれも仕掛けられた人は、渇きを感じた。しかしコーラを手に取った人は増えなかった。

 コーラ以外に、リプトンアイスティーが実験材料として選ばれた。
「リプトンは好きだがしょっちゅう飲んではいない人で、実験の時にのどが渇いていた人だけ、リプトンを飲みたくなる」ことが判った。リプトンが大好きでよく飲んでいる、と答えた人には影響が無かった。
 実験対象の米国の大学生は、コカコーラが大好きなので影響が出なかったようだ。
 その他の研究からも「サブリミナル効果は非常に小さく、その人の身体の状態や習慣などに左右される」ことが明らかになった。

 

 サブリミナル効果が本当にあると信じていた人、全くのインチキで効果なんかないと思っていた人、どちらも違っていたようです。詳しい研究はこれからです。
 でも、サブリミナル効果はタブー視されており、なかなか研究費がつかないようです。

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~ふたたび閃輝暗点

 わが主治医は、「腹痛と同じであくまでも症状、現象。それだけで何かを判断する事は出来ない」という。他の症状が出なければ、特に対処法もないそうだ。経過観察となった。
 翌週のゴルフも問題なしだ。

 

 稀にグリーン上でパッティングラインが見える時がある。
「右へカップ2つ曲がるスライスライン」。
 読めた。打った。外した。
 オジさんの場合、見えても体が反応しないのだ。

 

オジさんの科学vol.010 2016年10月号         2016.10.23(2019.08.01改) や・そね