オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

謎解きDNA

雪男のDNA

 オジさんが子供だった頃、少年マガジンや少年サンデーには、毎週のように世界の謎や怪奇現象特集が載っていた。
 その中に未確認生物ネタもたくさんあった。ネッシー、吸血鬼、狼男、ツチコノ、クラーケン、雪男、河童、人魚、ビッグフット、ヒバゴン等々。
 中でも有名なのが雪男だ。ヒマラヤでは19世紀から目撃証言があるようだ。立ち上がると5mにもなるといわれる。

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 先月(2016年11月)刊行されたナショナルジオグラフィック別冊「科学で解き明かす超常現象 ナショジオが挑む55の謎」によると雪男の正体は判っていた。

 オックスフォード大学の人類遺伝学者ブライアン・サイクス教授のチームは、DNA分析の技術を使い雪男に迫った。
 チームは、50年前までのものならば標本の状態がどんなに悪くてもDNAを抽出できる技術を開発し、世界各地の博物館や個人が所有する未確認生物の標本30点のDNA分析をした。
 そのほとんどがありふれた動物の体毛である事が判った。
 北米のビッグフットの毛とされていた標本のうち3点は牛で、羊、アライグマ、ヤマアラシの毛もあった。テキサス州で見つかったモノは普通の人間のものにすぎなかった。
 スマトラ島の謎の類人猿オランペンデクとされる資料は、バクのものだった。
 ロシアで見つかった獣人アルマスティの標本3点は、馬の毛であった。中にはアメリカクロクマやアライグマの毛もあった。どちらもロシアには生息していない。人間のもあった。

 

 雪男とされる標本の一つは、フランスの登山家が1970年代にインドのラダック地方で手に入れたもの。もう一つは、10年ほど前に、ラダックから1290km離れたブータンで見つかった1本の毛だった。
 2012年のサイクス教授の発表によると、この2種類の標本と12万年前のホッキョクグマのDNAが一致したそうだ。
 ホッキョクグマは現在、北極海を取り巻く地域にしか生息していない。身長は最大は3.4mにもおよぶ。地上最大の肉食動物だ。
 古代のホッキョクグマの子孫がヒマラヤの地で生きながらえていたのかもしれない。

 f:id:ya-sone:20190808115743j:plain雪男はなんと白クマさん?
 サイクス教授のDNA分析はそう物語っている。

 日本にも人魚や河童のミイラと呼ばれるモノが存在する。DNA分析をしたら、どんな結果が出るのだろうか。 
 未知の生物は見つかるのだろうか。

 

 

アダムとイヴのDNA

 ナショジオでサイクス教授の名前を見た時に「おやっ?」と思った。
 ベストセラーになった「イヴの7人の娘たち」と「アダムの呪い」の著者ではないか。久しぶりの再会だ。
 サイクス教授はヒトのDNA分析のさきがけ的存在。2000年代前半にまだヒトの全DNAが解読される前に、教授はDNA解析の手法で様々な事を解き明かした。

 

 動物のDNAは、細胞の中の核に染色体という形で格納されている。また、細胞の中でエネルギーを生産するミトコンドリアにもDNAはある。
 ミトコンドリアDNAは母親からしか受け継がない。これを調べると母系がたどれる。自分のミトコンドリアDNAは、お母さんから受け継いだもの。お母さんは、おばあちゃんから受け継いでいる。
 オジさんのミトコンドリアDNAは、子供に伝わらない。

 

 「イヴの7人の娘たち」(2001年)によると、現代欧米人のミトコンドリアDNAを遡ると、95%は7人の女性にたどり着く。
 さらに遡ると全人類が一人の女性にたどり着く。彼女は「ミトコンドリアのイヴ」と呼ばれる。
 12~20万年前にアフリカに住んでいたと推測されている。
 ただし、最初の女性が一人だったというわけではない。息子しか生まなかった女性のミトコンドリアDNAは後世に伝わらないだけだ。

 

 例えばこういうことと同じである。
 ある島に100組の夫婦が移住し、100の姓があったと想像して欲しい。この島では子供同士が結婚すると母方の姓を名乗る風習だったとする。すると息子しかいない夫婦の姓は、消えてしまう。世代を追うごとに島の姓は減っていき最後は一人の女性の姓になってしまう。

 

 同じ事を男性でたどる事もできる。男性しか持たないY染色体は、息子だけに受け継がれる。娘しかいない父親のY染色体のDNAはそこで途絶えてしまう。
Y染色体のアダム」も十数万年前にアフリカで暮らしていたといわれている。

 

f:id:ya-sone:20190808120605j:plain サイクス教授の「アダムの呪い」(2004年)の中にこんな話がある。
 東アジアからカスピ海までの広範囲に分布しているY染色体がある。その持ち主は、推定で1600万人にのぼる。
 そして、このY染色体の起源は約千年前の男性にあるとわかった。
 千年ほど前にアジアの広い範囲で活躍した男性といえばチンギスハーンしかいない。
 彼らは子孫の可能性が高い。

 

 DNAがチンギスハーンの子孫であることの証明になる。皇族の血筋だなどと偽のDNA鑑定書を持った「DNA詐欺師」なんて出てきそうだ。
 そのうち動物の血統書にDNA鑑定が付くようになるかも。

             

オジさんの科学vol.012 2016年12月号    2016.12.18(2019.08.08改) や・そね