オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

旧石器時代最先端技術博レポート

 (2017年の)正月早々、川崎市市民ミュージアムに「かながわ最初の現代人~旧石器時代のヒトと社会~」展を観に行った。

 

 すると数日後「旧石器時代最先端技術博覧会」の案内が送られてきた。テーマは「自然の技術的活用」だそうだ。横浜開催だったので、ちょっと2万年前まで行ってみることにした。
 会場には大勢の人が集まっていた。さすがに地上の氷河が最も拡大した時代だけあって、寒い。平均気温で21世紀より4、5度低い。仙台よりも寒いかも。冬らしく空は真っ青に晴れ渡っていた。海水面が130mも低下しているので、東京湾が無くなり千葉の方まで地続きだ。

 では、トピックスをご紹介します。

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【落とし穴】

 ウェルカムゲートをくぐると地面に穴が掘られていた。
「最新土木テクノロジーを駆使した狩猟技術『落とし穴』」というパネルが穴の横に立っている。

 詳細はこちら。
 直径         :1.4m
 深さ         :1.4m
 狩猟対象  :イノシシ、シカなど

  使用方法 :

①追い込み法。複数名で狩猟チームを作ります。チームは獲物を落とし穴に向けて追い立てます。この時大声を出したり鳴り物を使用すると、より効果的です。驚いた獲物を穴に落とせば成功です。

待ち伏せ法。獲物が落とし穴に掛かるのを寝て待つだけです。また、落とし穴をカモフラージュするために木の枝や枯葉などを活用しましょう。

 旧石器時代の落とし穴は日本でしか見つかっていない。落とし穴は定住化への一歩だったのかもしれない。

 

【礫(れき)群調理法】

 隣のブースでは、最新の調理実演をやっていた。コンパニオンの前にはたくさんの石(礫)が積み上げられている。
「まず、こぶし大から子どもの頭ほどの石を集めます。数は調理する量に応じて、十数個から数百個をご用意ください」コンパニオンは石を焚火の中に入れ始めた。
「石は赤くなるまで焼いてください」
 焼けた石を並べ、上にたくさんの草を敷き詰めた。草に含まれた水分で蒸気が立ち始めてきた。
「今日の食材は、鹿肉とドングリ、お芋です」食材を何かの葉っぱで包み、草の上に並べ、さらに草をかぶせた。
「このまま数十分から数時間蒸し焼きにします」
「200万年前からの焼くだけの調理法と違い、お芋などのデンプンを多く含んだ食材も上手に調理できます。また、硬い食べ物もとっても柔らかくなるんですよ」
「さて、こちらに3時間前から蒸しておいたものがあります」コンパニオンが包んだ葉っぱを開くと、湯気が上がる。
 塩味が効いたお肉は柔らかく、お芋はホクホクと蒸しあがっていた。デザートについたスモモもおいしかった。

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【細石刃(さいせきじん)】

 次は、今回のイベントの目玉だ。最新狩猟ギアを試してみようと、旧石器時代のオジさんたちがたくさん群がっている。
 槍が展示されている。
 動物の骨の様なもので出来た穂先の左右に、長さ3cm程度、幅5mmほどの薄い石の刃が連続して埋め込まれている。この小さな薄い刃を「細石刃」と呼ぶ。穂先全体を石で作るのではないため、材料が少なくて済む。 

f:id:ya-sone:20190816154559j:plain また、最大の特徴は「細石刃は替刃」だということである。一つの刃が欠けてもそれを取り換えれば、再び使用が可能になる。これまでの打製石器の狩猟用具は、砥ぐ技術が無いため、刃先が欠けると使い物にならなくなった。
 21世紀のオジさんが、ヒゲそりの切れ味が悪くなると新しい替刃にチェンジするのと同じだ。
 壊れても繰り返し使用可能で、且つ素材の岩石も少量で済む。再生可能&省資源の思想で作られている。
 ヘッドが軽くなるので槍の飛距離が伸びるのか?旧石器時代のオジさんたちは熱心にグリップやバランスを確かめていた。

 

神津島の黒曜石】

 会場を一回りした後に、伝統技術功労者の表彰式を見に行った。
 まっ黒に日焼けした男たちが照れくさそうに壇上に上る。授賞理由は「外洋航海術の継承と技術発展への貢献」。彼らは海洋採掘師。伊豆諸島の神津島まで黒曜石を採りに行く仕事だ。
 黒曜石は様々な打製石器の原材料となる。真黒なガラスのような岩石で、薄く尖った形に割れるため、切れ味鋭い刃物となる。産地は、信州八ヶ岳伊豆半島、そして神津島などだ。

 神津島伊豆半島の南、約50kmにある。丸木舟で外洋の荒波を越えて行くのだから、命がけだ。
 ここの黒曜石は1万8千年(現代からは3万8千年)も前から採取されている。片道ではなく、往復航海ってところが凄い。そして黒曜石はこの時代になって、細石刃として脚光を浴びるようになった。世界最古の航海術が最新技術を可能にした。男たちの首にメノウのメダルが掛けられた。

 ニュージーランドに人類が到達したのは13世紀になってからだ。3万8千年も前に外洋航路を持っていたなんて、日本の旧石器時代人は凄い。

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 人類の知能は数万年前から現代人と変わっていないと言われる。2万年前に生まれた赤ちゃんを現代に連れて来たら、現代人と全く変わらなく育つ。スマホも使えるし、インスタに投稿もするだろう。

 2万年前の人々も様々な工夫により、豊かな生活をつくりあげてきたようだ。

 

オジさんの科学vol.013 2017年1月号

                                                                      2017.01.29(2019.08.16改) や・そね