オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

がんばれベテルギウス

 真冬の夜空は、乾いているから星がよく見える。
 冬の星座の代表格はオリオン座だ。2月の午後8時頃には、南側ほぼ真上に見える。きれいに並んだ三つ星が目印だ。
 三つ星の左上、肩のところで赤く明るく光る星が「ベテルギウス」だ。
 赤い彗星シャア・アズナブル。赤い恒星はベテルギウス。赤色超巨星と呼ばれる大物だ。

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 ベテルギウスには「超新星爆発」が迫っているという。
 既に存在する星なのに「新星」というのは、急に明るくなるので新しい星が出現したかのように見えるから。しかもとてつもなく明るくなるので「超新星」と呼ばれる。
 ウィキペディアには「大質量の恒星が、その一生を終えるときに起こす大規模な爆発現象」とある。
 今日、明日起こっても不思議ではないらしい。しかも人類が未だかつて見たことも無い明るさの星になるという。

 天文学者はワクワク、天文ファンもウキウキだ。
 大物ベテルギウスに対して不謹慎な気もするが・・・。

 ベテルギウスの質量は太陽の約20倍。
 直径は太陽の約1,000倍、14億kmと想定されている。太陽系に当てはめると、木星の軌道近くまでになる。地球からの距離は640光年。
 宇宙的スケール感では近くて、でかい。
 太陽を除くと見かけが最も大きい恒星だ。東京から見た甲子園球場の野球ボールくらいの大きさだ。

 

 ベテルギウス超新星爆発を起こす兆候があるという記事は、2009年から2010年にかけて掲載された。そして2011年になると、2012年までに起こるという噂が流れた。「ベテルギウス超新星爆発」(幻冬舎新書2011年)によると、いくつかの欧米の研究成果がベースになっていたようだ。
 ベテルギウスの大きさが15年間で15%縮小している。
 表面から3方向にガスとチリが放出されている。
 表面に白い模様が見える。

 

 ドイツのマックスプランク電波天文研究所の大仲圭一博士たちのグループも、ベテルギウスの一部が瘤(こぶ)のように盛り上がっていると発表した。丸くない恒星・・・なんか起こっている感じがする。
 結局2012年には何も起こらなかったし、今でも起こっていない。 
 大物ベテルギウスはこらえている。顔が変形しても耐えている。爆発しそうなのを我慢している。 

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 でも、天文学者素粒子学者はワクワク待っている。超新星爆発では、いろいろなモノが撒き散らかされる。
 ニュートリノという素粒子もその一つ。途中のさまざまな物質をすり抜け、ほぼ光速でやってくる。これを観測することにより星の一生や物理学の基本理論が検証されるらしい。
 東京大学の小柴教授は、1987年に世界で初めて超新星ニュートリノを検出することに成功。ノーベル賞に輝いた。
 お弟子さんの梶田教授も、ニュートリノに質量があることを発見してノーベル賞を受賞した。

 

 われわれ一般人に難しいことはわからない。でも人類がかつて見たことも無い明るい星を見られる、と思うとワクワクする。しかも、目の前でベテルギウスがみるみる明るくなる瞬間に出くわす可能性だってあるのだ。

 

 これまでも超新星が現れたことは、さまざまな記録に残っている。
 有名なのは、1054年7月4日に現れたおうし座の超新星。マイナス6等星になった。全天で最も明るい金星の3倍以上の明るさ。23日間は、日中でも見えるほど輝いた。653日間見えたそうだ。
 この星の記録が藤原定家の「明月記」に残っている。
 中国では「宋史」に客星が現れたと記されているという。
 ネイティブ・アメリカンのミンブレス族やアナサジ族の壁画にも記録されているらしい。 

 

 ベテルギウスは、この星の約1/10の距離にある。そして同程度の爆発が起こると仮定してみる。明るさは距離の二乗に反比例するので、この時の100倍の明るさになる。
 等級で言うとマイナス11等星。満月の明るさのマイナス12等星に近い。ベテルギウスの光による影ができ、昼までもはっきりと見えるはずだ。

 

「星の最期」と呼ばれる超新星爆発。星を構成するさまざまな元素が燃え尽きて、最後に大爆発する。
 しかし、星の周りを吹き飛ばした後に、中心部は残る。現在1054年超新星爆発の場所には「かに星雲」がある。その中心に「中性子星」が残っている。
 中性子星とは、外側を吹き飛ばした反動で中心部が凝縮し、とてつもなく密度が高い星。1cmの角砂糖ほどで1億トン、富士山くらいの重さがある。

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 中性子星は激しく回転している。大きな星が急に小さくなったので「角運動量保存の法則」によるものだ。フィギュアスケート羽生結弦選手がスピンする時、伸ばした手を縮めると回転が増すのと同じ原理だ。
 激しく回転すると電磁波が発生する。電磁波=パルスを発生させるので中性子星はパルサーとも呼ばれる。

 

 ベテルギウスは近々超新星爆発を起こすだろう。しかしそれは星の死ではない。外側を吹き飛ばして中性子星となる。

 ベテルギウスよ、我慢しないで、爆発しちゃいなさい。
 超新星爆発は赤色超巨星の定年なのだから。
 現役時代のように光り輝くわけではない。
 しかし、引退後もパルスを発信し続ける。
ベテルギウスお疲れ様」
 そして、これからもがんばれ。
 ワクワクでもウキウキでもない。フレフレ、ベテルギウスと言いたい。

 

※2019年現在も、ベテルギウスは爆発せずに現役を続けています。

 

オジさんの科学vol.014 2017年2月号

                                                        2017.02.19(2019.09.13改)や・そね