オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

ヒトのカラダは倹約上手

 収入が支出を上回れば、貯蓄は増える。マイナスならば減っていく。
 食べたエネルギーが使ったエネルギーを上回れば、脂肪として蓄積される。逆ならダイエットできるはずだ。
 結構歩いたりして運動しているのに全然体重が落ちない。食べ過ぎてもいないはずだ。
「運動してもやせない不思議」に関する記事が、日経サイエンス2017年4月号に掲載された。タイトルは「運動のパラドクス なぜやせられないのか」。

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  ボクはfitbit(フィットビット)の「活動量計」を使っている。一見腕時計。加速度センサーや気圧計が内蔵されており、歩数や昇った階数、脈拍、睡眠状態、消費エネルギーなども記録される高機能万歩計である。もちろん時計としても使える。 

 2月の平均歩数は14,400歩/日、消費エネルギーは2,992kcal(キロカロリー)/日(①)だった。
 厚生労働省の国民健康・栄養調査(2015年)によると、50代男性の平均は8,071歩/日、摂取エネルギーは2,186kcal/日(②)だった。
 比べると平均の1.78倍歩いており、1.37倍食べても大丈夫ということになる。
 食べるごはんの量は平均より少ない方だと思っている。お昼ごはんを一緒に食べる同年代の仲間達と比べても小食な方だ。ご飯は半膳~一膳、間食はしない。甘いものは嫌い。酒は週に2~3日。

 仮に他人(ひと)並み、②並みのエネルギーを摂っているとしよう。①と②の差は1日当たり約800kcal、1カ月で約24,000kcal多く消費していることになる。
 不足エネルギーは、体脂肪1gを使って7.2kcal補える。筋肉の場合は1~2kcalのようだ。全て脂肪で補っても、3kg以上減量するはずだ。
 ところが一向にやせない。経験的には、1日平均18,000歩を3カ月続けると、ちょっと体重が落ちる。

 

 さて、日経サイエンスの記事だ。
 ニューヨーク市立大学の人類学者ポンツァーたちは、300人以上の人に、「活動量計」を常時装着してもらった。同時に、酸素の消費量を測定する「二重標識水法」で毎日のエネルギー消費を計測した。
 その結果、活動量とエネルギー消費量の関係は薄いことがわかった。

 

 これまでは、身体をよく動かしている人はより多くのエネルギーを使っている、と思われてきた。
 この研究によると、1日中ゴロゴロしているカウチポテト族の消費エネルギーは、普通に活動的な人と比べ1日当たり約200kcal少ないだけだった。これは、ご飯1杯分程度のエネルギー。1日の全消費エネルギーの1/10以下しかない。
 さらに、普通に活動的な人と激しく体を動かす人の消費エネルギーは、変わりが無かった。つまり超グータラな人以外はほとんど同じという結果だった。

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 タンザニアのハッザ族は狩猟採取民だ。手製の弓矢を携えて1日中獲物を追う。獲物が少ない日には10mを超す木に登り蜂蜜を採る。ポンツァーたちが二重標識水法で調べるとハッザ族と欧米人のエネルギー消費量はほぼ同じだった。身体の大きさや年齢などの要素を補正しても結果は同じだった。
 明らかに動いている量に違いがあるのに、エネルギー消費量は変わらない。

 

 この不思議な現象のメカニズムはわかっていない。

 ポンツァーたちは、エネルギーを節約するためにちょっとした行動の違いがあるかもしれないと考えた。例えば立つのではなく座るとか熟睡するなどだ。
 しかしこれだけでは不十分だという。細胞や臓器が日常費やしているエネルギーを何らかの形で節約しているのかもしれない。

 

 元々ヒトはエネルギーを大量に必要とする脳を持っているために、ゴリラやチンパンジーなどの類人猿よりも燃費が悪い。身体の大きさなどを補正しても、1日当たり数百kcalも多くエネルギーを必要とする。
 無駄な支出は極力避けなければならない。コツコツと倹約するカラダに進化したのだ。
 遠くまで狩りに出かけたりして、エネルギー出費があっても他でちゃんとカバーするメカニズムを構築してきたらしい。

 1日中動きまわり、エネルギーをじゃんじゃん使っているように見えても、実はこっそりと倹約している。ヒトのカラダは隠れケチなのだ。
 ヒトが食料を余らせるほど得られるようになったのは、ここ数十年、長く見積もっても数百年だ。未だに飢餓に苦しんでいる地域だってある。
 消化しやすいように火を使うことにより、食べられるモノを増やしてきた。
 農業によって生産性を向上させた。

 

f:id:ya-sone:20191009120758j:plain そして飢餓に備えて、脂肪を蓄えるようにも進化した。人間の標準からみれば細身のハッザ族でさえ、動物園でゆったりと暮らしているチンパンジーの2倍の脂肪を身に付けている。
 最近ちょっと収入が増えたからと言って、派手な生活をしたりはしないのだ。増えた分は貯蓄に回す。
 余ったエネルギーは体内に貯える。

 

 飽食の時代は、今この時だけなのかもしれない。この先どうなるのかわからない。人口の増加に食料の増産が追い付くのか。大災害が起こるかもしれない。
 食糧難の時代が、またすぐに訪れるかもしれないのだ。その時は、再び倹約上手なカラダに感謝しなければならない。

 

日経サイエンス2019年4月号に「運動しなければならない進化上の理由」というタイトルで、再びポンツァーの記事が載っている。そこにはこんなことが書いてある。

 おそらく運動では、減量は実現できない。しかし、人間は体を正常に機能させるためには、高いレベルの身体活動を必要とするように進化した。
 つまり、病気にならないために、運動しなければならないらしい。

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オジさんの科学vol.015 2017年3月号

                                                                      2017.03.20(2019.10.09改) や・そね