オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

「ハンバーガー」と「かば焼き」 

 歳をとると肉より魚を好むようになる。と言われるが、相変わらず肉の方が好きだ。ステーキに焼き肉、ハンバーグに生姜焼き、とんかつ、ビーフシチュー。
 暑い夏が始まる。炎天下のゴルフで倒れないように、肉を食べて体力をつけよう。

 毎月29日は「肉(29)の日」。肉の特売日だ。焼き肉の牛角では、通常価格4980円のメニューを290円で各店先着1名に提供したこともあった。
 ところが今月(6月)の29日は「無(6)肉の日」だそうだ。あえて肉を食べない日らしい。
 さて、無肉の日に肉を食べたい人は、何を食べればよいのでしょうか。

  答えは「インポッシブル(ありえない)バーガー」です。
 このハンバーガーのパテは、肉の味がする植物由来の人工肉。肉汁まで出るそうだ。
 植物性のお肉と言えば、大豆の油分を絞って過熱加圧・高温乾燥させてつくる「ソイミート」(ベジミートとも呼ばれる)がある。肉の代わりと思って食べるが、やっぱり食感は全然違う。

 一方このパテは、言われなければ人工肉と気付かないそうだ。
 小麦やジャガイモのたんぱく質をベースに、こんにゃくやトウモロコシのでんぷんをつなぎとして使い、噛みごたえを出す。脂身はココナツ油や大豆のたんぱく質。そこに砂糖、アミノ酸等をくわえて味を調整している。

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そして本物の肉の味に近づける秘訣は「鉄」。鉄は赤血球に含まれるヘモグロビンの成分だ。人工肉に鉄を加えると「血の味」が感じられる。
 ほんの少し血なまぐささを醸し出すことで、脳は本物の肉の様に感じる。

 開発したのは、シリコンバレーベンチャー企業「インポッシブルフーズ社」。創業者はがん研究の専門家でスタンフォード大学の名誉教授、パットブラウンCEO。
 インポッシブルフーズには、分子生物学者など80人以上の科学者が働いている。味やにおいなどの様々なデータを分析し、5年かけて人工肉は生み出された。

 

 インポッシブルバーガーは現在ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルスの4店舗で、1個14ドル(約1600円)で売られている。人気は上々で菜食主義者だけではなく、健康志向の人々に受け入れられ始めているそうだ。もちろん狂牛病の不安もない。肉か野菜かというより、おいしいハンバーガーだから注文するという人もいるらしい。

 近く日本にも上陸が予定されているようだ。

 

 この企業にはビル・ゲイツが多額の出資をしていることでも話題になった。
 起業のきっかけは、「食料危機」と畜産による「地球温暖化」。
 牛肉1kgを生産するためには、20倍の飼料が必要になる。直接植物を食べた方がエネルギー効率はいい。
 また、牛や羊のげっぷは二酸化炭素の21倍の温室効果を持つメタンガスを発生する。世界中に30億頭以上いる牛や羊が、温室効果ガス全体の5%を排出するといわれる。これは日本の温室効果ガス全体の排出量をはるかに上回る。

 

 人工肉は肉モドキだ。そして日本でも、あるモドキ食材が注目を浴びている。

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 夏の風物詩、土用の丑の日と言えばうなぎのかば焼き。日本人は大好き、オジさんも好物だ。うなぎモドキが開発された。
 2014年にニホンウナギ絶滅危惧種に指定された。
 米国モドキ食材のきっかけが食料危機や地球温暖化だとすれば、日本では「種の保存」である。

 農水省の資料によると、2015年のウナギの生産量は1990年の1/2ほど。天然ものに至っては6.2%である。
 ウナギの生態には謎が多く、完全養殖は出来ない。養殖ウナギは、2500kmも南のマリアナ諸島あたりから日本の川に向かって泳いでくる途中の稚魚を捕まえて、池やいけすで育てたもの。稚魚が減れば手の打ちようがない。
 このままでは土用の丑の日に、うなぎのかば焼きが食べられなくなる。

 

 立ち上がったのが近大マグロで有名な近畿大学だ。
 開発したのは「うなぎ味のナマズ」。
 うなぎのかば焼きに求められるのは、香ばしく焼いた脂乗りのいい魚肉と甘辛いタレ。これを養殖魚で実現しようと考えた。
 候補をウナギと同じようにウロコがない淡水魚に絞った。そしてドジョウ、ウグイなどから脂がのりやすいナマズを選んだ。だが養殖ナマズは独特の泥臭さがある。
 まず餌を変えた。においのもととなる魚粉を減らし、植物性たんぱく質を増やした。消臭効果がある緑茶も加えた。さらに養殖場の水質管理システムや包装フィルムも工夫した。

 

 昨年(2016年)夏、近大ナマズのかば焼きが土用の丑の日にイオンやヨーカドーで限定販売された。LLCのPeachでは機内食に採用された。
 ネットによると、うなぎのかば焼きよりさっぱりしていて白身魚のようだとか。泥臭さもなく、それなりに美味しいという反応が多かったようだ。
 今年(2017年)も販売されるそうだ。
 うなぎのかば焼きも、スーパーとお店では全くの別物。近大ナマズをプロが調理したらどうなるのか興味がある。

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 肉モドキでもうなぎのパチもんでも、それなりに美味しいなら構わない。本物はものすごく高価にして「ハレの日」だけ食べるようにすればいいのだ。
 さて、今年の土用の丑の日は7月25日と8月6日。平賀源内の呪縛から逃れられるだろうか。
 ちなみに8月29日は「焼(8)き肉の日」だそうだ。

オジさんの科学vol.018  2019年6月号    2017.06.25(2019.10.29改) や・そね

 

※インポッシブルフーズの人工肉はバーガーキングに採用され、2019年春より米国で販売が開始されたそうです。日本発売はいつでしょう?

※うなぎ味のナマズは、残念ながらヒットしなかったようです。2019年も店頭で見ることはなかった。

※「土用の丑の日 平賀源内コピー説」は、どうやら都市伝説だったことを最近知りました。

(※印2019.10.29追記)