そーね。そうか。そうなのね。

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

13%の不運!

オジさんの科学vol.025 2018年1月号

(2018年1月に配信した文章を微修正し、2020年2月にアーカイブしました)

 

 キタサンブラックが引退した。生涯獲得賞金第一位、G1最多勝、最終戦有馬記念に優勝。と、競馬をやらないオジさんでも知っている。
 絶頂期に引退するのはスターの条件とも言える。紅白の安室ちゃんは、かっこよかったなぁ。惜しまれながら去るってことが大事なんだよね。
 ジェームズ・ディーン尾崎豊のように、不慮の事故や突然の死によって映画やCDの中でしか会えなくなったスターは伝説となる。かつて世界に君臨し、突然絶滅した恐竜も古生物界の大スターだ。

 

 6600万年前のその日、空から恐怖の大王が降ってきた。大王さまの正体は小惑星。直径10km程度と考えられている。衝突速度は約20km/秒。衝突時のエネルギーは広島型原子爆弾の約10億倍。衝突地点付近で発生した地震の規模はマグニチュード11以上、3.11の大地震の1000倍にもなる。生じた津波は高さ約300mと推定される。スカイツリーの展望デッキの足元を波が洗う。
 大王さま降臨の地は、ユカタン半島に極近いメキシコ湾だ。現在チュクシュルーブクレーターと名付けられている。直径が160~180kmもあり、世界最大級と言われる。
 そして恐竜には、博物館の骨の標本や映画のCGでしかお目にかかれなくなった。

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 2016年に東北大学気象庁の共同研究チームは、恐竜絶滅の原因が小惑星の衝突によって生じた大量の「煤(すす)」だったことを明らかにした。 
 これまでは、衝突で舞い上げられた「塵(ちり)」が日光を遮り、気温が急速に下がり環境が激変したと考えられてきた。しかし、塵は重いため数カ月もすれば落ちてくる。この場合、生き残った恐竜がいたと考えられる。
 一方で煤は軽いため、数年のあいだ空高く浮遊し続ける。煤が長期にわたり日光を遮ることにより気候変動を引き起こしたことがわかった。
 小惑星が直撃したユカタン半島は世界有数の油田地帯だった。地下の石油を含んだ層が燃えて煤をつくりだしたのだった。 

 

 さらにこのチームは昨年11月に新たな研究成果を発表した。
 計算によると衝突で約15億トンの煤が発生。そのうち3.5億トンが成層圏に舞い上がり、空を覆った。地表の平均気温は16℃も低下した。この温度差を今の東京にあてはめてみる。真夏が、今の3月頃の気温になる。冷夏どころではない。
 気温の低下は恐竜の様な大型の生物に与えるダメージが大きかった。ワニや亀などの小さな爬虫類や、小型の哺乳類は生き残った。

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 また、ユカタン半島のように石油や石炭の様なものがたくさん含まれる層があるのは、当時の地球表面の13%しかなかったことも判明した。 
 残りの87%のエリアに衝突した場合は、温度低下が0℃の可能性もあったと試算された。
 東北大学の海保教授は「衝突場所が数百kmずれていたら、恐竜は絶滅しなかったかもしれない」と話す。恐竜の絶滅確率は13%だったのだ。
 単純に地球の公転速度だけから考えても、小惑星とぶつかるタイミングが1秒ずれると、30kmほど衝突位置が変わる。十数秒ずれていただけで恐竜はセーフだったのだ。
 ちなみに現在日本があるあたりに衝突したなら恐竜は生き残った。ジュラシックパークには、本物の恐竜が出演していたかも。

 

 ついでに、恐竜絶滅のもう一つのシナリオも紹介しよう。小惑星が衝突したのは間違いない。しかしそれが無くても恐竜は絶滅していた、という説。
 恐竜絶滅の頃、インドに溶岩の塊「デカン高原」が噴出した。タムじいさん(オジさんの科学vol.008 2016年8月号)の仲間だ。流れ出た溶岩の量は250万km3。この溶岩の塊を日本全国に敷き詰めると6600mもの厚さになる。1991年に20世紀最大の噴火をしたフィリピンのピナトゥボ山の噴出物の50万倍にも達する。

ya-sooone.hatenablog.jp

 

 デカン高原では噴火によってマグマが1km以上吹きあがり、溶岩流は数百kmにおよんだ。これらの熱で大気に激しい乱気流が生じ、いくつもの巨大台風が発生した。
 酸性霧が何千kmも漂い、熱せられた堆積物から莫大な二酸化炭素と二酸化硫黄が放出される。二酸化硫黄は成層圏に達し、全世界に広がる。太陽光を反射し地球は寒冷化する。ピナトゥボ山の噴火ですら、世界の平均気温が0.5℃下がったと言われる。
 やがて腐食性の酸性雨として地上に降り注ぐ。二酸化炭素は海水に溶け込んで海洋が酸性化する。酸素が欠乏し、死の海になる。オゾン層は破壊され、陸上へは有害な紫外線が降りそそぐ。といった具合になる。
 まるでアナキンとオビワンが最後に戦った惑星ムスタファーのようだ。

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 恐竜の絶滅時を含め、地球の歴史の中で生物の大半を壊滅させた5回の絶滅を「ビックファイブ」と呼ぶ。クールファイブでは無い。ビックファイブのうち4つで、デカン高原の様な巨大噴火が確認されている。
 ちなみにデカン高原ユカタン半島の裏側。小惑星がぶつかった衝撃で、デカン高原の溶岩の噴出が増進されたという説もある。

  恐竜が絶滅していなければ、今の様な哺乳類の全盛はない。
 いつまでも年寄りが会社で幅を利かせていては、部下は成長しない。スターじゃなくても、オジさんはとっとと定年するのだ。
 惜しまれなくてもそれでいいのだ。

             

参考資料:

プレスリリース(東北大学大学院理学研究科、気象庁気象研究所平成28年7月14日

プレスリリース(東北大学大学院理学研究科、気象庁気象研究所)平成29年11月9日

Scientific Reports7 Article number:14855

日本経済新聞 2017年11月12日

ヴォイニッチの科学書 第682回

日経サイエンス2016年5月号

Wikipediaチュクシュルーブ・クレーター