オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

ネコの人工血液が出来たんだニャ~。

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オジさんの科学vol.028 2018年4月号

(この文章は、2018年4月に配信したもの2020年3月に微修正したものです)

 

  安倍ちゃんと加計君のおかげで「獣医学科」に注目が集まっている。全国の獣医さんはどう思っているのだろうか。

 先月、獣医さんたちが喜んだに違いない発表が、中央大学JAXA宇宙航空研究開発機構)からあった。

 中央大学理工学部の小松教授の研究チームが、「ネコの人工血液」の合成に成功したというニュースだ。

 

 イヌやネコは、人間の長いお友だちだ。彼らだって病気になるし、怪我もする。獣医さんに手術をしてもらうこともある。当然輸血も必要になる。人間には日本赤十字社の血液センターがあるが、猫十字社はマンガ家なので血液は供給しない。

では、どうするのか。

 大きな動物病院には、献血をしてくれる「供血犬」や「供血猫」が飼われているそうだ。  

 飼いイヌやネコに、ドナー登録をしてもらっている病院もあるようだ。でも、一般的には獣医さんが飼い主や病院のネットワークを通じて、その都度献血を呼び掛けることが多いらしい。

 手術が重なったり、血液型(イヌはいっぱい、ネコには3種ある)が違ったりすると対応できないこともあるらしい。

 

f:id:ya-sone:20200308145140j:plain 血液が足りないと全身が酸素不足に陥り、スグに死んでしまう。

 酸素は血液中の「ヘモグロビン」というタンパク質によって運ばれる。ヘモグロビンは血液細胞「赤血球」の中に入っている。

 赤血球は直径が1/100mm以下、ソファーの丸いクッションの様な形をしている。1個の中に2億5000万個ものヘモグロビンが詰っている。クッションの中のビーズより細かい。

 

 これまでヘモグロビンを使った「人工酸素運搬体」を作ろうと、様々な研究がなされてきた。ヘモグロビンは小さすぎて、直接投与すると血管から漏れてしまう。人工的なカプセルに詰め込む方法もうまくいなかった。

 2013年に小松教授のグループは、ヘモグロビンと血液中にあるタンパク質のアルブミンを結合させる方法を編み出し「ヘモアクト」と名付けた。アルブミンは血管を通り抜けにくい。

 さらにヘモアクトは血液型が決まる赤血球に入っていないので、すべての血液型で拒絶反応が起こらない。ウイルス感染の心配も無い。粉末にもでき、長期保存や簡単に持ち運べる。

 

 ヘモグロビンは他の動物のモノでも問題ない。しかし、アルブミンはそれぞれの動物特有のモノが必要になる。そのためグループは遺伝子組換え技術を使って、人工的にネコ用のアルブミンを作りだした。

 ヘモグロビンはウシのモノを使った。

 

 発表者にJAXAが入っていた。国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」の無重力状態の中で、人工ネコ用アルブミンの結晶を作ったのだ。無重力状態で作ると綺麗な結晶が出来るためX線による構造解析に適している。そして今回の人工ネコ用アルブミンが、生きたネコのアルブミンと同一のものであることが判明した。

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 ペットフード協会の2017年の推計によると、日本で飼われているイヌとネコの総数は1845万匹。15歳未満の人間の子供の人口1559万人よりずっと多く、沖縄を含めた九州と四国の総人口1831万人も超えている。彼らは、お友だちどころか家族の一員だ。ボクの家も子どもはとっくに独立、ネコが夫婦の会話の中心だ。

 内訳はイヌが892万匹、ネコが953万匹。2017年に初めてネコ派がイヌ派を上回った。

 世界的にもネコの方が圧倒的に多い。ペットとして飼われている数は、6億2500万匹と推定されている。一方のイヌは4億2500万匹だ。

ネコの人工血液の市場は世界的なのだ。

 

 と、ここまで読んでイヌ派の皆さんは、「イヌはどうした」と呟いていませんか。

「最近、ネコばっかりに注目が集まってるんじゃねぇかぁ」とか思っていませんか。

 いえいえ、実はイヌ用の方が先に出来ているのです。

 ヘモアクトは2013年にまずラットで成功し、2015年にイヌ用の開発がおこなわれた。現在実用化に向けた開発がすすんでいる。

 獣医さん、もうすぐですよ。

 

 人工血液の最終目標はヒト用の開発だ。

 この冬、アメリカではインフルエンザの流行で献血者が減り、輸血用の血液不足に陥ったそうだ。

 日本でも今後、手術を受ける高齢者は増えていく。一方で献血できる年代の人口は減っていく。年金制度と同じ構造だ。

 そして、懸念されるのが災害時の血液不足だ。人口集中地域での直下型地震や、交通の便が遮断された地域などで人工血液は威力を発揮する。

 

 ヘモアクトには脳外科医も注目している。赤血球の1/1000と小さい。脳梗塞を起こしたラットの投与すると血の塊が詰まった血管の隙間を通り抜けた。このため酸素不足で死滅する脳細胞を減らすことが出来る。また、アルブミンには組織に障害を引き起こす活性酸素を取り除く作用がある。

 

 お友だち政府の機能障害を改善する特効薬の開発も急がれる。

参考資料

・プレスリリース「ネコ用人工血液を開発=動物医療に貢献、市場は世界規模=」(中央大

 学、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)平成30年3月20日

・プレスリリース「平成29年(2017年)全国犬猫飼育実態調査 結果」(一般社団法人

 ペットフード協会)2017年12月22日

・知の回廊 第117回「人工血液~開発の最前線を探る~」 YouTube

・専門家監修猫情報サイト「にゃんペディア」

総務省人口推計(平成29年(2017年)10月確定値,平成30年(2018年)3月概算値) 

 

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