オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

ハダカで足を引っ張るやつ

オジさんの科学vol.038 2019年2月号

(この文章は2019年2月に作成・配信し、2020年6月に微修正・アーカイブしました)

 

 会社には、仕事の邪魔をする人たちがいます。

 例えば、仕事に集中させてくれない人たち。「ちょっといいですか?」企画書を書いているのに、隣で悩みを語り始める後輩。朝から大声で電話に説教をしているオジさん。山のように届く無関係なメールの原因は、やたらとccをつける同僚。

 仕事の効率化が図れない人たち。話が長くて、要領を得ない上司。仕事が遅いうえに間違いが多く、負担を増やす部下。反対はするけど対案を出さないオバさん。

 自分も知らず知らずのうちに同じようなことをやっているかもしれない。胸に手を当て考えてみよう(^_^;)
 でも一番性質が悪いのは、意図的に足を引っ張る人たちだ。 

 

f:id:ya-sone:20200629132113p:plain ハチやアリなどの社会を構築する生き物は、互いに協力するように進化した。
 ところが理化学研究所総合研究大学院大学などの研究チームは、社会を構築しながらも足の引っ張り合いをする動物を世界で初めてみつけた、と1月に発表した。
 はい、それはハダカデバネズミです。オジさんの科学、2度目の登場です。略して「デバ」と呼びます。

 デバたちは、東アフリカの乾燥地帯で地中にトンネルを掘って棲むげっ歯類。女王様を中心に社会を作る。一つの巣に、数十から二百匹程度で共同生活を営んでいる。
 デバの社会は、ハチやアリほどきっちりしたものではなく、中小企業の様なものらしい。
 子どもを産むのは一匹の女王様だけ。一番大きく、力で勝ち取ったデバ商事の社長。
 その他に女王のお相手の繁殖オス(王様?)、兵隊デバ、巣穴の整備や食料集めをする働きデバなどの役職がある。働きデバの中には、体温でこども達を温める肉ぶとん係もいるそうだ。

 デバ商事では、身体の重い方が序列は上になる。つまり上司だ。通路で上司とすれ違う時には、「ピュウ」と挨拶をしなければいけない。人間よりも礼儀正しい。
 きびきびと働くデバもいれば、マイペースなやつもいる。社長の女王は、巣中を巡回し、サボっているデバを叱りつける。

 

 過去の実験で、デバたちは協力して巣の掃除をすることが判っている。彼らを複数の部屋がある飼育器の中に入れ、各部屋にプラスチックストローの切れ端を敷き詰める。するとひとつの部屋だけ、ストローが運び出され女王の休憩場所としてきれいに片付けられる。     

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 ところが、この研究を詳細に分析すると、他のデバの作業を邪魔する者がいることが判った。
 仕事をしてるデバちゃんに、別のデバ君が背後から近づく。デバ君はデバちゃんの尻尾をくわえて、後ろに引っ張ったのだ。尻尾を引っ張って足を引っ張るというややこしいことをした。引きずって別の部屋に連れていった。

 

 今回の実験には31匹のデバが参加した。4つの部屋を連結した飼育スペースにデバを4匹ずついれた。一回の実験は90分間で、全ての行動がビデオ撮影された。デバには個人情報保護法は適用されない。
 実験は、女王、お相手、働きデバの組み合わせを変えて、50回繰り返された。そして合計75時間のあいだに、138回の妨害行動が観察された。

 

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 力のある者がない者の邪魔をすればパワハラだ。
 実験ではパワハラだけでなく、上司を邪魔する行為も見られた。あろうことか女王の邪魔をする働きデバもいた。社長室に押し掛けて仕事の邪魔をするようなものだ。
 妨害行動は、お互いが休息している時よりも仕事中に多く起きていた。仲良くお昼を食べたり飲みに行ったりしているのに、仕事となると足を引っ張るやつみたいだ。

 

 引きずられて連れて行かれる別の部屋は、特に決まってはいなかったそうだ。説教部屋がある訳ではなさそうである。
 妨害行動があった後、やられたデバちゃんも、仕掛けたデバ君もそれまでと変わらず仕事をしていたそうだ。デバちゃんが報復したとは報告されていない。上司に相談もしていないようだ。同僚に愚痴ったかどうかは、判らない。

 

 ハダカデバネズミは、働いている仲間を妨害して、その仕事を奪ったと考えられる。団塊の世代のオジさんたちのようです。足を引っ張ったというより、他人を押しのけて仕事したのだった。 
 本来、ひとつの目的を達成するために協力して労働する方が効率的だ。仕事の奪い合いが、デバ商事のためになるとは考えられない。無駄な行動を進化的に説明することは極めて難しい。

 

 そこで、研究チームはひとつの可能性を示した。
 ハダカデバネズミは、自分のためにではなく他のみんなのために働く。仕事をすることは、良いことなのである。そのために、妨害行動をしてでも仕事をしてしまう様になったのではないか、ということだ。

 

 みんなのために仕事していたはずなのに、いつのまにか仕事自体が目的になってしまったのですね。本来家族を養うためなのに、仕事のし過ぎで家庭崩壊させるサラリーマンのようです。

 

 解明のためには、さらなる研究が必要だとチームは言っています。
 迷惑な人間たちの行動原理も、誰か解明してください。

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<参考資料>

プレスリリース
・「ハダカデバネズミは尾を引っ張り、仲間の労働を妨害する 集団的意思決定に背く

  行為の発見」理化学研究所 総合研究大学院大学 2019年1月17日

 

書籍
・岩波科学ライブラリー『ハダカデバネズミ』 吉田重人・岡ノ谷一夫

 

WEB
ウィキペディアハダカデバネズミ