オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

かば焼きまでの長い道のり

オジさんの科学vol.43 2019年7月号

※2019年7月に作成し配信した文書を、2020年8月に微修正しアーカイブしました。

 

f:id:ya-sone:20200810133520j:plain もうすぐ、土用の丑の日です。今年(2019年)は7月27日(土)ですよ。うなぎ屋はもとより、スーパーやファミレスでもポスターやのぼりをみかける。「うなぎ」は好きだが、近年ますます高い。ワンコインでうな 丼を食べられた昔が懐かしいなぁ。今年はうな次郎になるかもしれないなぁ。

 

 先月、世界初そして最も高価なうな重の試食会が東京であった。会場は、霞が関農林水産省水産研究・教育機構増殖研究所で人工孵化した「ウナギ」が使われていた。味も食感も普通のかば焼きと全く変わらなく、美味しかったそうだ。

「完全養殖」間近と各メディアが取り上げた。

 ボクたちが食べているのは、ほぼ100%養殖。ウナギの養殖とは、シラスウナギと呼ばれる稚魚を大人になるまで育てること、を指す。

 シラスウナギは、手持ちの網や小さな定置網で採捕する。ときは12月から翌年の4月までの間、特に新月の夜。ところは全国の河川や海岸線。ここで捕れた天然のシラスウナギが養鰻場に集められ、育てられる。

 シラスウナギが激減し、2014年ニホンウナギ絶滅危惧種に指定された。シラスウナギは貴重な資源なのだ。

 

 あっ、いまシラスおろしに伸ばした手をひっこめたおトウさん、それは大丈夫。釜揚げシラスだの、生シラスだの言われているのはカタクチイワシの稚魚だから。

 

 アユの塩焼きと言えば山間の村の民宿をイメージする。一方、海鮮丼といえば港町の食堂のメニューだ。

 ところがうなぎは両方で食べられる。小江戸と呼ばれる埼玉県の川越市は内陸の町、うなぎが名物だ。静岡県三島市は、海辺にある。そして、ここもウナギで有名だ。

 

 川や沼にいるウナギは、大人になると秋から冬にかけて海に下り、大海原で産卵する。孵化した仔魚はシラスウナギに育ち巡ってくる。

 川で産卵し海で育つサケとは、逆パターンの回遊魚なのだ。しかし、ウナギの生態は長い間謎だらけだった。

 

 太平洋のまっただ中のどこかで、オスとメスがめぐり逢っているはず。1930年代に始まった産卵場探しは遅々として進まなかった。

 特定されたのは2011年だった。80年近くかかった。日本から約2,000km以上離れたマリアナ諸島の西の海域だった。

 

 生まれた仔魚は半年から1年かけて、透明な笹かまぼこのような姿のレプトセファルスを経て、6cm程のシラスウナギになる。この間、北赤道海流に乗ってフィリピン近くまで西行し、そこからさらに黒潮に乗り換えて北上する。行きつく先はフィリピンや中国、台湾、韓国そして日本などだ。日本からだと一周6〜7,000kmの大回遊になる。先日、クラウドファウンディングで成功した「3万年前の航海徹底検証プロジェクト」もびっくりだ。

 

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 サケは、川に戻ってきた成魚を捕まえて人工授精させることができる。

 海で産卵するウナギは、ホルモン剤を使って人工的に性成熟させた。1961年に精子の獲得に、1973年に人工孵化に成功した。

 だが、エサが判らず生まれた仔魚はすべて死んだ。深海ザメの一種のアブラツノザメの卵の粉末を口にしたのは1994年だった。

 ところが今度は、エサで水槽が濁って死んでしまう。海水がふんだんに流れている遠洋とは、環境が違いすぎた。これを克服し24匹のシラスウナギまで育てたのが2002年。

 そのシラスウナギを大きくし、産卵、受精させ、仔魚を孵化させサイクルを一周した「完全養殖」に成功したのは2010年だった。

 しかしこれでは、研究室で試作品ができたようなもの。商品化されないと、世間は完全養殖とは言ってくれないようだ。商品化には、まだまだ課題が多い。

 

 現在、年間で生産できる人工シラスウナギは数千匹程度、国内の養殖に必要といわれる1億匹には程遠い。受精卵がシラスウナギになる生存率は1%程しかない。

 さらに、エサの主原料となるアブラツノザメの卵が、手に入りにくい。このサメ自体が希少種だからだ。

 

f:id:ya-sone:20200810134053j:plain 2018年、シラスウナギ約300匹が、初めて民間の養鰻業者に提供された。今年これが食べられるほどになり、試食会が開催された。

 原価計算するとシラスウナギ1匹あたり、5~6,000円になるという。天然のシラスウナギは数百円程度。だから世界一高いうな重になる。

絶滅危惧種を食べていいのか、という議論はある。ウナギが減少した理由は複数あるようだ。

シラスウナギの採りすぎ。採りすぎないように、シラスウナギの採捕は都道府県知事の許可制になっている。

②レプトセファルスを運ぶ海流の変化。

③ウナギが暮らす川の環境変化。ダムや堰が増えたため、ウナギが川を遡上できなくなった。隠れる隙間がある砂利や石が多い川床が少なくなったことも、減少の要因として考えられる。

 

 食べなくてもウナギは絶滅しそうなのである。逆においしいから、様々な研究が行われているとも言える。自然界のウナギは激減し、人工飼育でしか繁殖できないようになるかもしれない。人も研究費も増額し、商品化を目指して欲しい。クラウドファウンディングがあれば、参加します。

 旨いうなぎのためだから「食らうぞファウンディング」かも。

                                 や・そね

 

 

<参考資料>

雑誌

  ・日経サイエンス2010年8月号『旅するウナギの謎』

  ・日経サイエンス2019年8月号『ウナギ絶滅回避なるか 間近に迫る完全養殖』

 

プレスリリース

  ・『「うなぎの寝床」の環境を科学的に解明』 九州大学 2019年7月19日

 

新聞

日本経済新聞電子版2019年6月10日
 『ウナギ「完全養殖」へ前進 人工ふ化の稚魚育成』                

朝日新聞DIGITAL2019年6月21日
 『人工孵化ウナギ実用化「光見えた」 食卓にうな重戻るか』

朝日新聞DIGITAL 2011年2月2日  
 『天然ウナギの卵発見 世界初、完全養殖実用化へ期待』

 

ポッドキャスト

・ヴォイニッチの科学書第765号2019年7月6日『水産庁が人工ふ化ウナギに成功』

 

WEB

ウィキペディアニホンウナギ』 

 

官公庁資料

 

・『ウナギをめぐる状況と対策について』水産庁HP 令和元年7月 

http://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/pdf/meguru.pdf

・『養殖技術の最前線(5) 世界初、ウナギの完全養殖を達成』農林水産省HP                 http://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1303/spe1_05.html                                  

                               以上