オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

宇宙人が見つからない訳

オジさんの科学vol.051 2020年3月号 

(2020年3月に配信した文章を微修正し、2022年2月に掲載しました)

 

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 地球外文明とのファーストコンタクトを扱った中国のSF小説『三体』は、SFの歴史を塗り替えたと言われています。世界最大のSF賞とも言われるヒューゴー賞長編小説部門を翻訳本で初めて受賞し、オバマ大統領やザッカーバークも読んでいる、と話題になりました。

 三体人が住む惑星は、我々の太陽系に最も近い恒星「ケンタウルス座のアルファー星」系にあるという設定です。空には太陽が3つも浮かぶ世界です。

 

 実際の「ケンタウルス座のアルファー星」も三重星です。大きさが太陽と同じくらいの二つの恒星が、お互いの周りをぐるぐると回っています。さらにその外側を太陽の1/8程度の「赤色矮星」と呼ばれる小さな恒星が回っています。

『三体』が発表されたのちに、その赤色矮星に惑星「プロキシマb」が発見されました。プロキシマbには、生命の誕生に不可欠な「液体の水」が存在するのではないかと考えられています。

 2019年6月に放送されたNHKスペシャル「シリーズ スペース・スペクタクル 第1集 宇宙人の星を見つけ出せ」では、みずがめ座の赤色矮星「トラピスト1」を回る惑星が紹介されました。
 その惑星には液体の水が存在し、そこに棲む様々な生物たちのリアルなCG動画が流れました。
 赤色矮星は、太陽よりもずっと小さく温度も低い恒星です。そのため、液体の水がある惑星は恒星の近くを周っています。

 本当に、赤色矮星を回る惑星には、生命が存在するのでしょうか。

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 2019年7月に「生命が居住可能な系外惑星へのスーパーフレアの影響を算出」という研究成果が発表されました。系外惑星とは、我々の太陽以外の恒星を回る惑星のことです。
 発表したのは京都大学国立天文台コロラド大学、日本原子力研究開発機構ライデン大学などの国際共同研究グループです。

 

 研究グループは、これまでの観測を基にした恒星からの放射線量や、惑星の大気組成や磁場の有無による被ばく量の計算式をつくりました。それらを、京都大学が開発した系外惑星データベース「EXOKyoto」に組み込み、世界で初めて系外惑星における放射線の影響を算定しました。

 

 惑星に十分な大気があれば放射線は遮られます。また、磁場が発達していればそこに捉えられ地表に達する量はさらに減ります。
 しかしプロキシマbやトラピスト1の惑星は、赤色矮星からの距離が近すぎるため、大気が散逸してしまい、高エネルギー宇宙放射線が惑星表面に直接到達してしまうと推定されました。
 したがって、生命の存在が可能であると評価することは困難である、と発表されました。

 

 

 そもそも、地球外生命は、どの位の確率で存在するのでしょうか。

 2020年2月に東京大学の戸谷友則教授は、生命科学宇宙論から生命が存在する星の数を推定しました。

 

 生命とは何か、という条件の一つに自己複製があります。我々人間の遺伝情報はDNAによって複製、継承されます。また、DNAには、RNAという兄弟がいます。RNAも遺伝子としての機能も持っており、DNAより先に誕生したと考えられています。

 ちなみに、コロナウイルスの遺伝子はRNAです。

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 RNAが自己複製するためには、最初に遺伝情報の基となる高分子が40単位から100単位程つながらなけれならないと言われています。それが出来れば、そこから進化が始まると考えられるのです。

 ところが、これまでにこれだけの長さのRNAが、無生物から自動的に作られる具体的な仕組みや化学反応は発見されていません。

 偶然に長いRNAができる確率は、あまりにも低いので現実には起こりえないと言われてきました。「猿がタイプライターを打って、偶然、シェイクスピアの小説が出来上がるようなもの※」と例えられました。
 しかし、現実に我々は存在しています。
 だから、我々の知らない何かがきっとあると考えられてきました。仕組みなのか化学反応なのか。それを神と言う人もいます。

 

 今回の研究は、未知の何かに頼ることなく偶然に生命が誕生する可能性を考えたものです。
 原始の地球型惑星において分子がランダムに結合して偶然にできるRNAの長さと、生命を育むために必要な太陽のような星の数を結びつける方程式がつくられました。

 方程式によれば、40単位の長さのRNAが偶然生まれるためには、太陽のような星が10の40乗個ほど必要になることが判りました。

 

 太陽のような星は、我々の銀河系には約1千億個存在します。我々が見ることのできる半径138億光年の範囲の宇宙には、約10の22乗個(1兆の百億倍)あります。

 つまり宇宙の広さが、見える範囲の10の(40-22)乗倍(10億の10億倍)あれば偶然生命が生まれてもおかしくないという事になります。最新の宇宙論によると、宇宙は138億光年のはるか先まで広がっていると考えられており、理論的にはあり得るそうです。

 100単位なら10の180乗個の星が必要になるそうです。それでも可能性は十分あり得ます。

 

 今回の方程式には、様々な不確定要因が存在します。しかしながら不確定要因が仮に一万倍あるいは一億倍で間違っていても結論にはほとんど影響しない、と戸谷教授は語ります。

「このシナリオに基づけば、生命を育む惑星は太陽系や銀河系どころか、我々が観測できる半径138億光年の宇宙に中で、この地球ひとつだけとなります」と言っています。

 

 宇宙人が、なかなか見つからない訳ですねぇ。

                                                                          や・そね

 

※「無限の猿定理」と言うそうです。

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 タイプライターのキーは約100個あります。わかり易くするために、ちょうど100個あるとします。例えば「monkey」という1単語は全部で6文字あるので、ランダムにキーを叩いて、「monkey」とタイプされる確率は1/100×1/100×1/100×1/100×1/100×1/100=1/1,000,000,000,000(1兆分の1)となります。

偶然できるには、1秒間に1回叩いたとすると 3万年ちょっとかかります。

これが「I am a monkey」だとスペースを入れて13文字になります。300京年以上かかります。1,000兆年の3,000倍以上。100億匹の猿でやると3億年ちょっとで出来ます。しかしこれだけでは、まだ物語になりませんねぇ。

 

 

 <参考資料>

プレスリリース

『ESO Observations Show First Interstellar Asteroid is Like Nothing Seen Before』

2017年11月20日

 

『生命が居住可能な系外惑星へのスーパーフレアの影響を算出―ハビタブル惑星における宇宙線被ばくの定量化に成功』京都大学国立天文台アメリカ航空宇宙局コロラド大学、日本原子力研究開発機構ライデン大学 2019年7月16日

 

『宇宙における生命~どのように生まれたのか、そして命の星はいくつあるのか』東京大学

2020年2月4日

 

書籍

『三体』劉慈欣 早川書房 2019年7月15日

 

日経サイエンス」2020年3月号

 

テレビ番組

NHKスペシャル「シリーズ スペース・スペクタクル 第1集 宇宙人の星を見つけ出せ」2019年6月23日