オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

イワナのあくび、ジュゴンもあくび。

 オジさんの科学vol.086 2023年2月号

 

 九州や四国では、春一番が吹きました。もうすぐ春です。待ち遠しいです。ポカポカした陽だまりでお昼寝をしたいです。考えただけで、あくびが出そうです。あくびって気持ちイイですよね。
 てなことで、今回は「あくび」についてのお話です。

 

 


さて、あくびが出るのは、どんな時でしょう。
 まず「眠い時」。受験勉強やプレゼンの準備で徹夜した時は、あくびが止まりません。
 次に「退屈な時、つまらない時」。部長の話が長い時や発言を求められない会議では、あくびをかみ殺すのに一苦労です。
「極度に緊張した時」というのもありそうです。
 そして「隣の人があくびした時」。あくびは伝染(うつ)る、と言われます。なぜか、つられてしまうんですよねぇ。

 

 あくびについては、よくわかっていないことが多いそうです。確実に分かってるのは、「あくびをすると覚醒の脳波が出る」ということ。
 眠気を醒まそうとしているのですね。寝てはいけない時に出るあくびは、頑張ろうと言う気持ちの表れなのです。つまらない話でも頑張って聴こうと思っている、ということ。でも、つまらないと思っていることを悟られまいと、かみ殺すんですね。
 覚醒を促して緊張を解く行動とも考えられるそうです。99期もタイトルを保持した将棋の羽生九段も、タイトル戦ではよくあくびをしていたそうです。

 

 脳の奥にあるあくびの中枢が指令を発すると、脳内のいろいろな部署に伝わります。 
 深く息を吸い込みます。そしてほぼ最大になるまで口を開きます。目を細めたり、閉じたりします。あごは上がりがちです。背筋や手足を伸ばす場合もあります。声が出てしまう時さえあります。一瞬、間をおいて短く息を吐きます。この一連の動作にかかる時間は、平均5.9秒だそうです。

 

 このような動作により、あくびは酸素をたくさん取り込んで覚醒を促す、と言われてきました。しかし今では、この説は否定されています。高酸素濃度の環境や、逆に二酸化炭素が多い部屋で実験してもあくびの頻度に変わりはないそうです。あくびで血中の酸素濃度は変化しないそうです。
 血流を良くして脳を冷却する、と言う説もあります。しかし、必ずしも定説になっている訳ではなさそうです。風邪をひいて高熱が出ても、あくびを多発するということはありません。

 

 春の陽が差し込む窓際などで、うちの光ちゃん(イヌ)も小鈴(ネコ)も、よくあくびをしていました。多くの動物たちも、あくびをすることが知られています。
 三重大学の研究チームは、2021年に、イルカが水中であくびをすることを発見しました。完全な水中生活動物のあくびの発見は、世界で初めてでした。続いて2022年に、ジュゴンも水の中であくびをすると報告しました。
 ご存じのようにイルカもジュゴンも哺乳類です。水中では呼吸できません。このことから、あくびには呼吸を伴わなくてもよいことが判りました。少なくとも彼らのあくびでは、絶対に酸素を取り込むことはできません。

 

 生理的なあくびの機能を理解するために、様々な動物のあくびが研究されています。地球上で最初にあくびをしたのは、魚だと言われています。


 先月、北海道大学の研究チームが、「イワナは、泳ぎだす前にあくびをする」という研究成果を発表しました。静的な状態から動的な状態に移る前に、あくびをすることによって覚醒を促し、活発な行動変化を引き起こすのではないか、とのことです。
「ウ~~ン、仕事するかぁ~~」と背伸びをする時と似ているような気がします。

 

 あくびは、なぜ伝染(うつ)るのでしょうか。あくびの伝染は、チンパンジーやイヌでも確認されているそうです。いずれも高い社会性を持った動物です。同じグループ内の方が伝染りやすかったり、仲が良いほど多く伝染したりするそうです。
 一方2011年のイグ・ノーベル賞生理学賞は、「カメのあくびは伝染しない」と言う研究でした。仲間のカメのあくびを見ても、被験者のカメは何の関心も示さなかったそうです。

 

 ヒトの場合は、見知らぬ人よりも知人、友人、家族など相手との社会的な関係が深いほど伝染りやすいそうです。また、共感性や社会的なコミュニケーション能力が高いほど伝わるそうです。
「あくびは、眠気を催していることや退屈に感じていること、心理的ストレスを感じていることなどの生理的な状態や心理的な状態を、他者に伝えるための信号である」という説があります。これに共感すると、あくびが伝染る、ということなのでしょうか。

 

 顔のどこの動きによって、あくびの伝染が起きるのかを調べた研究があります。あくびをしている「顔全体」「口なしの顔」「目なしの顔」「口のみの顔」「目のみの顔」の動画を見せて、どれだけの人に伝染るか、どれだけの回数伝染るか、を調べました。顔全体と同じようにあくびが伝染ったのは、口なしの顔でした。
 つまり書類で口を隠してあくびをしても、つまらないと思っていることは部長に伝わっていたのですね。

 

 対面の場合、つまらない話を聞けば、あくびが出てしまいます。顔の動画の実験から推測すると、リモートでも顔出ししていればバレる、と言ことになります。
 一方で、いくらつまらなくてもメール等の文字情報の場合は、相手の反応が判りません。メルマガやブログの良いところは、つまらないことを書いても発信者が傷つかないということです。
 だから、これを読んで何回あくびした、とかの報告は要りません。

や・そね

 

 

<参考資料>

・「イルカは水の中であくびする⁈ 完全水中生活をする哺乳類のあくびを世界で初めて発見

 ―イルカのあくびが、従来のあくびの定義を覆す―」2021年7月13日 三重大学プレスリリース

・「ジュゴンも水中であくびする! イルカに続いて、完全水中生活をする哺乳類のあくび確認2例目」

2024年2月28日 三重大学プレスリリース

・「イワナは泳ぐ前にあくびする ~世界で初めて魚類の状態変化仮説を実証~」

2023年1月18日 北海道大学プレスリリース

・大原貴弘(2015)「あくびの動作パタンの生理的・社会的機能」 

いわき明星大学人文学部研究紀要 第28号 166-177

日経サイエンス 2012年2月号「かめのあくび」

日本経済新聞 2010年8月7日「なぜあくびが出る?」

日本経済新聞 2015年9月27日「かめのあくび うつらない」

・日経Gooday 2015年3月11日「あくびはなぜうつるのか?」

・日経Gooday 2015年10月5日「あくびは何のためにするの?」

・日経Gooday 2016年2月13日「あくびが出るのはどんなとき?」