オジさんの科学vol.111 2025年3月号
なぜクマノミは、イソギンチャクに守ってもらえるのか
オジさんが会社に入った頃は、ハラスメントという言葉など無かった。女子を怒鳴りつける上司、ひきつけを起こす女子、駆けつける救急車。電話で「ぶっ殺す」を連発する先輩。潰れるまで呑ませる局長。酔うと股間に手を伸ばしてくる部長。「きれいな髪だね」と後ろから触ってくる隣の部のディレクター。
自分の身は、自分で守る。危ない人とは、距離感が大事。危険を察知すると、強い先輩の陰に隠れた。彼は、少林寺拳法の学生チャンピオンだった。
自然界には、ハラスメント相談室も公益通報者保護制度もありません。そこで生き物たちは、様々な手を使って身を守っています。
ディズニーアニメ『ファインディング・ニモ』のモデルとなった「クマノミ」の仲間は、外敵に襲われると有毒な触手を持つ「イソギンチャク」の中に逃げ込みます。この共生関係は、とても有名ではあるものの、なぜ成り立っているのか、なぜクマノミはイソギンチャクに刺されないのか、100年以上も謎でした。
沖縄科学技術大学院大学とフランス国立科学研究センターの共同研究チームは、この謎を解き、今年2月に発表しました。
研究チームは、イソギンチャクが「シアル酸」という物質に反応して刺すことを突き止めました。シアル酸は、ほとんどの生物に存在する重要な糖の一種です。イソギンチャクは、間違って自分を刺さないように皮膚の粘膜にシアル酸を持ちません。そして、クマノミの体表を保護する粘膜にも、シアル酸はほとんど存在しないそうです。
子供のクマノミは、イソギンチャクと共生する準備ができていないため、シアル酸の値が他の魚と同じように高く、刺されてしまうそうです。
逆にミツボシクロスズメダイは、幼魚の間だけイソギンチャクと共生できるそうです。ミツボシクロスズメダイの幼魚もシアル酸の値が低いことが判りました。
クマノミがシアル酸の値をどうやって維持しているのか、2つの仮説があるそうです。一つは、粘液をつくる細胞がシアル酸を切断する酵素を多く作っているという説。もう一つが、粘膜にいる細菌がシアル酸を分解しているという説です。後者はクマノミと細菌の共生関係とも言えます。
クマノミは、イソギンチャクによって守ってもらえます。では、イソギンチャクにはどんなメリットがあるのでしょうか。
イソギンチャクの触手を食べるチョウチョウウオなどをクマノミが追い払う。クマノミが泳ぎ回ることでイソギンチャクが掃除される。クマノミの排泄物がイソギンチャクの体内に共生するプランクトンの栄養分になり、プランクトンがイソギンチャクに栄養を提供する、等々言われてきました。

今年2月に大阪公立大学の研究チームは、「クマノミがイソギンチャクにエサを与え成長させる」と発表しました。
研究は、クマノミにエサを与えた際に、イソギンチャクの触手にそのエサをつける行動を目撃したことから始まったそうです。研究チームは、8ヶ月間にわたり海中で実験と観察を行いました。その結果、次のことが確認されました。
クマノミは雑食性、イソギンチャクは肉食の生き物です。クマノミにオキアミやイカ、魚、エビ、貝などを与えると、自分の口に入る小さなエサは食べていまい、大きい場合はイソギンチャクに与えました。
小さな海藻などを与えた場合も、クマノミは食べました。しかし大きな海藻は、イソギンチャクには与えず捨ててしまいました。
また、小さなオキアミを繰り返し与えた場合でも、クマノミは満腹になるとイソギンチャクに与えるようになったそうです。
研究チームが3ヶ月間クマノミにエサを与え続けたところ、クマノミがいるイソギンチャクは他と比べて大きく育ったそうです。
イソギンチャクが大きくなるということは、クマノミを守ってくれる空間が拡大することを意味します。クマノミは、自ら安全な環境を作り上げていたのです。
サラリーマンがハラスメントに立ち向かう時も、仲間が必要だ。いざという時のために、日頃から関係を強化し、備えなければならない。だからオジさんたちは、夜な夜な飲み屋で対策会議を開くのであった。

や・そね
<参考資料>
「解き明かされた海の謎:クマノミはなぜ宿主イソギンチャクに刺されないのか」 2025年2月15日
沖縄科学技術大学院大学プレスリリース
「クマノミが選んだエサの積極的給餌はイソギンチャクの成長を支える」
2025年2月21日
大阪公立大学プレスリリース
ナショナル ジオグラフィック日本語版WEBサイト
2017年12月6日 Photo of the Day「持ちつ持たれつ」
動物大図鑑「クマノミ」(2025年3月21日閲覧)