オジさんの科学vol.113 2025年5月号
地下の山が首都直下型の地震を起こしていた。
意外なものが、思いもよらない所から見つかることがある。
絶対にあるはずのものが、いくら探しても見つからない時、我が家では「小人さんが隠した」と言う。しばらくすると、小人さんは返してくれる。2、3日の場合もあるし、数ヶ月かかる時もある。プリンターの下からネックウォーマーが出てきたり、クローゼットの奥にサングラスがあったりする。
お守りと一緒に記憶にない諭吉さんを見つけた時は、心の中で「小人さんありがとう」と呟いた。

今回紹介する研究では、東京湾の地下に山が見つかりました。
今年4月に東京科学大学の中島淳一教授は、「東京湾北部で起こる首都圏直下型地震の巣は、太平洋プレート上の海山が原因である」と発表しました。
どういうことなのか、ご説明します。
その前に「東京科学大学」についてひとこと。国立の超難関校ですが、名前を聞いたことが無い方も多いのではないでしょうか。この大学は、2024年10月に誕生したばかりなのです。東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して出来ました。
では始めましょう。
今回の研究で対象とした「東京湾北部」とは、東京都との境に近い千葉県の北西部を指します。具体的には、千葉市、習志野市、船橋市の沿岸部辺りのことです。このエリアの地下60~70kmには、「地震の巣」があると言われています。体に感じない小さな地震も含めると、月に100回ほど発生しているそうです。
有感地震も多く、数年に一度はマグニチュード(M)5.0以上の地震が起こっています。過去100年の間、東京23区で震度5以上を感じた地震は3回ありました。そのうち2回は、このエリアを震源としています。残りの1回は東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)です。
1894年にはM7.0の地震が発生したと考えられています。ちなみにMの値が2つ増えると、放出されるエネルギーは約1,000倍になります。
このエリアの地下は複雑なのですが、超ざっくりいうと東日本大震災が発生したエリアと同じように、東から太平洋プレート(海洋プレート)が沈み込んでいます。
研究では、2000年から2023年までの間に東京湾北部で約8,000回発生したM2以上の地震を精査しました。すると次のことが判りました。
地震の巣は、沈み込む太平洋プレートの上にある。
地震は半径10kmほどの円の中で発生している。
地震は立体的に分布しており、並べるとプレートが沈み込む面から盛り上がっている。
これらの結果から、沈み込む太平洋プレートの上に何らかの構造があると推定されました。研究では、これが「海山」であると考えました。
海山とは海原雄山の略、ではありません。海底火山、あるいは火山島が浸食を受けて海に没した地形です。つまり海底の山です。これが並んで列をなしていると「海山列」と呼ばれます。
有名なのは北太平洋の「天皇海山列」。カムチャッカ半島の根元から南に連なり、途中で南東方向に折れ曲がって「ハワイ海山列」になります。一番端は、ハワイ諸島で海面に顔を出しています。天皇海山列の海山には、多くの天皇の名前が付けられています。
関東地方の東約300kmの沖合には、「常磐海山列」があります。その一番西にある「第一鹿島海山」は、日本海溝の淵にあります。太平洋プレートとともに、落ち込もうとしています。
これらの海山の大きさは半径5~20km、高さは1,000~3,000mです。
東京湾北部の盛り上がりは、半径約10km、高さは2,000m以下と推測されました。常磐海山列にあってもおかしくない大きさです。
そこで、この大きさの海山が太平洋プレートに載ったまま、地中に沈み込んだと仮定しました。その上でシミュレーションを行うと、観測された地震活動と類似した地震発生のパターンを示すことが判りました。
このことから地震の巣は、沈み込んだ海山が原因である可能性が高いと結論付けました。

従来、海山はプレートの沈み込みに伴って削られ、山の形を保てないと考えられてきました。しかし本研究の結果は、地下60~70kmにおいても海山の形状を保ち、地震活動の原因となっていることを強く示唆しました。
東京湾北部の地下の海山は、その大きさから今後もM7クラスの地震を引き起こす可能性があるそうです。
またこの研究では、関東地方にある他の地震の巣16ヶ所についても調査しました。その結果、全ての地震の巣の大きさが、海山の大きさの範囲内にあることが確認されました。地中に沈み込んだたくさんの海山が、地震を引き起こしている可能性が高いと考えられます。
遠い未来にハワイの島々が日本列島の下に沈み込み、地震の巣となるかもしれません。

思いがけなく見つかった地下の海山。今後、地震発生のメカニズムの理解が進むと思われる。
一方、我が家の小人さん出現のメカニズムは、解明が進んでいない。ボケの始まりでないことだけは確かなのだが・・・。
や・そね
<参考資料>
「関東地方下の地震の巣は海山の沈み込みが原因だった~首都直下地震の地震像の解明に向けて~」 2025年4月17日 東京科学大学プレスリリース