オジさんの科学vol.114 2025年6月号
ミケの遺伝子、みっけ。
ウチのネコ、小鈴が19歳で永眠してからもうすぐ3年になる。近くの公園で見つかった保護ネコで、生後1~2ヶ月ほどのようだった。保護された時、一緒にいた兄弟は、息が無かったという。当時は、掌に乗るほど小さかった。
ネコなど飼ったことが無かった。茶色(オレンジ色と表現される場合もある)がベースの毛並みに黒い毛が混じっていた。顔の真ん中があざの様に黒く、最初は不細工なネコだと思った。しかしよく見ると全体として顔立ちも整っていて結構美人なことに気がついた。薄緑目のメスで、サビ猫(錆び猫)だと教わった。

毛の色が茶色と黒のサビ猫や、茶色と黒と白のミケ猫(三毛猫)のほとんどはメスです。
メスは、性別を決める性染色体として、X染色体を2本(XX)持っています。一方オスは、X染色体とY染色体が1本ずつ(XY)持っています。これは、ほとんどのホニュウ類で共通です。ヒトも同じです。
茶色や黒の毛の色を決める「オレンジ遺伝子」と呼ばれる遺伝子がX染色体にあるらしいと、120年以上前から言われていました。
その後、今から60年以上前に、メスの細胞では2つのX染色体のうちどちらか一方がランダムに働かなくなり、残った片方の遺伝子のみが機能するという説が提唱されました。
茶色だの黒だのオレンジだのややこしいですが、オレンジ遺伝子には2種類あって茶色の毛をつくるタイプと、黒毛をつくるタイプがあると考えてください。そして一つのX染色体には、そのうちのどちらか一方しかありません。
2つあるX染色体の一方に茶色の毛を作るタイプのオレンジ遺伝子を持ち、もう一方が黒い毛を作るタイプのオレンジ遺伝子を持っていた場合に、それぞれの細胞においてどちらか一方がランダムに働き、茶色と黒が混じった毛並みになると考えられてきました。しかし、60年経ってもオレンジ遺伝子の正体やその働きについては、判っていませんでした。
ちなみに、2本のX染色体が両方とも茶色、両方とも黒のタイプの遺伝子を持つ場合は、ミケ猫やサビ猫にはなりません。
2023年、九州大学の佐々木裕之名誉教授を中心として集まったネコ好きの研究者や獣医師たちの「三毛猫遺伝子探索プロジェクト」チームは、「三毛猫の毛色をつかさどる遺伝子を解明したい!〜60年間の謎に挑む〜」というクラウドファンディングを立ち上げました。
500万円の目標に対し、1,000万円以上寄付が619人から集まりました。中には50万円を寄付した人もいたようです。ネコ好き、たくさんいますねーー。

その研究成果が、今年5月16日に発表されました。
プロジェクトチームは、オレンジ遺伝子の正体が「ARHGAP36」であることを突き止めました。これが何なのかオジさんにもさっぱりわかりませんが、とにかくオレンジ遺伝子が判ったという事です。
この遺伝子が正常な場合は黒いメラニン色素がつくられ、黒毛になるそうです。一方異常があると、黒い色素を作る働きが抑えられて茶色のメラニン色素がつくられ、茶色の毛になるようです。サビ猫やミケ猫は、正常タイプ遺伝子のX染色体と異常タイプ遺伝子のX染色体の両方を持つということの様です。
研究には、福岡市内から様々な毛色を持つ18匹のネコが参加しました。チームは、彼らのDNAを解析しました。その結果茶色の毛を持つネコは、ARHGAP36遺伝子の一部が欠けていることが判りました。これが異常タイプということです。
さらに50匹以上のネコで検証したところ、茶色の毛を持つすべてのネコで遺伝子が欠けていました。また、海外のデータも参照したところ、この遺伝子の欠失の有無と茶色い毛の有無が完全に当てはまったそうです。

ちなみに、サビ猫やミケ猫はほとんどがメスだと言いました。ほとんどという事は、稀にオスもいるという事です。X染色体が1本しかないオスでも黒毛と茶色い毛ができるとすると、今回の研究成果以外のメカニズムがあることなります。
実は、オスのサビ猫やミケ猫はクラインフェルター症候群という染色体異常で、X染色体とY染色体のペアに加えてもう1本のX染色体(XXY)を持っているのです。 非常
に珍しく1/30,000の確率とも言われます。
さて、サビ猫とミケ猫の違いです。ミケ猫は、白い毛を作る遺伝子を持っています。この遺伝子が働いている部分は、メラニン色素の生成を抑えるので、オレンジ遺伝子がどちらのタイプであれ白い毛になるようです。
ネコの毛色を決める遺伝子は、他にもあります。これらが複雑に機能して毛色が決まるようです。遺伝子が同じでも、どの色が現れるかは、細胞ごとにランダムに決まります。だから亡くなったネコの細胞からクローンを作っても同じ模様にはなりません。
我が家には、未だに小鈴の気配が残っている。帰宅した時には思わず「ただいまー。鈴」と言ってしまう。
や・そね
<参考資料>
「三毛猫の毛色を決める遺伝子をついに発見 ~60年間の謎だった三毛猫の毛色の仕組みを解明~」 2025年5月16日 九州大学、国立遺伝学研究所、国際基督教大学、東京大学、近畿大学、anicom medical、麻布大学プレスリリース
九州大学クラウドファンディング 「三毛猫の毛色をつかさどる遺伝子を解明したい!〜60年間の謎に挑む〜」 https://readyfor.jp/projects/calico60
Newton2024年7月号 「世界のネコ図鑑 毛色と模様はどのように決まるのか」