オジさんの科学vol.117 2025年9月号
第9惑星を探せ
「三陸海岸などにみられる、海岸線が入り組んだ地形を何という?」。クイズ番組を観ていたオジさんは、すかさず「リアス式海岸」と声を上げた。ブブー。答えは「リアス海岸」。源頼朝が鎌倉幕府を作ったのは、1192(イイクニ)年ではないらしい。今は1185年なのだそうだ。オジさんの時代の常識は、ずいぶんと変わっているようだ。
太陽系の惑星も、水金地火木土天海冥と覚えた。「いやいや、今は冥王星が海王星の軌道の内側に入っているから土天冥海だよ」なんて会話をしたこともあった。どちらにしても9つ1セットだった。ところが冥王星が惑星からはずれてしまった。まるで島村ジョーはサイボーグ戦士ではない、と言われたようなものだ。
今月も引き続き太陽系外縁部の話です。(2025年8月号 「『オオルリ流星群』を読んで」を思い出してね)
冥王星が発見される前には、海王星の軌道がそれまで知られていた事実からは説明がつかず、未知の「惑星X」の重力が影響している、と考えられていました。1930年に冥王星が発見されると、惑星Xが見つかったと話題になりました。

しかし研究が進むと、冥王星は月よりもかなり小さな天体で、質量も海王星の1/8,000ほどしかないことが判ってきました。しかも実は海王星の軌道が、惑星Xを想定するほど変じゃないこともわかりました。冥王星の発見は、偶然の産物だったのです。
でも、一度9番目の惑星と認められた冥王星は、長らくその地位を保ち続けていました。ところが2005年、冥王星を含む太陽系外縁部の「エッジワース・カイパーベルト」に新天体「エリス」が発見されました。
リリスがファーストインパクトを引き起こしたように、エリスも天文学界隈に衝撃を与えました。
エリスは、冥王星より大きいと見積もられました。そこでエリスを10番目の惑星とするかどうかが議論となりました。
かつて、火星と木星の間に「セレス」と呼ばれる天体が発見されました。一時は惑星とされましたが、翌年以降よく似た軌道を持つ天体が次々と発見され、これらはまとめて小惑星と呼ばれることになりました。
冥王星も数あるカイパーベルト天体の一つと考えることが出来るのではないか。2006年8月、国際天文学連合の総会は、惑星の新しい定義を採択しました。
惑星の定義は、①太陽の周りを回り②十分な質量をもって球形を維持でき③軌道の周辺のほかの天体を一掃した天体、とされました。
その結果、冥王星は③の条件を満たせないために「準惑星」となりました。小惑星だったセレスも、①と②は満たすので準惑星になっています。
それから10年経った2016年、学術誌『アストロノミカル・ジャーナル』に「カイパーベルトの天体の奇妙な軌道に、未知の大きな惑星の重力が作用している形跡が見てとれる」と発表されました。ナショナルジオグラフィックニュースでも「太陽系に第9惑星の痕跡見つかる」と報じられました。
その根拠は、以下の様なものでした。
太陽系の8つの惑星はほぼ円形の軌道で、同じ平面状を回っています。レコード盤の上に載っているようなものです。
海王星や冥王星の更にずっと外側の太陽系外縁部で、惑星とは異なる奇妙な軌道を描くいくつかの小天体が見つかりました。極端な楕円で、惑星が回る面から約20°傾いて回っています。しかも皆似たような軌道に偏っていました。
これは奇妙だという事でシミュレーションしてみると、これらの小天体の軌道に影響を与える未知の惑星の存在が示唆されたそうです。地球の5~10倍の質量を持ち、奇妙な小天体たちの軌道の反対側を公転していると予測されました。宇宙の深淵に潜み、陰で小天体たちを重力によって操るラスボス、第9惑星です。
それから約10年。今年、日経サイエンスの2025年5月号に「発見なるか太陽系の新惑星 辺境に巨大天体?積み上がる傍証」という見出しで記事が掲載され、「太陽系に未知の惑星が隠れている可能性が大きい」と取り上げられました。
そんな中、今年7月に国立天文台などの国際研究チームは、「すばる望遠鏡による観測で、太陽系外縁部を特異な軌道で公転する天体を新たに発⾒した」と発表しました。
さて皆さん、「新惑星が発見されたのか」と思ったでしょ。でもそんなことがあったら大ニュースです。違うんだなぁ。

発見された天体「アンモナイト」は、奇妙な小天体たちの反対側を回っていました。2016年の発表で予想された未知の惑星の軌道とよく似ていました。しかし直径は、220~380kmと想定され、小天体たちと同じかそれより小さかったのです。さらに約45億年も安定した軌道を回り続けていることが判りました。
これらのことから、研究チームは「アンモナイトの発見は、第9惑星の可能性を低くした」と言っています。
小天体たちが、偏って見えたのはたまたま。夜中に懐中電灯をつけたら、天井にまっくろくろすけがかたまって見えた。まっくろくろすけは天井が好きなんだ、と思いながら部屋の明かりをつけたらそこかしこに居た。という事かもしれません。
アンモナイトは、日本のすばる望遠鏡の超広視野焦点カメラによって発見されました。すばるは世界最大級の広い視野をもっていました。
そして今年6月に、すばるの5倍もの視野を持つ望遠鏡が稼働しました。南米チリのベラ・ルービン天文台です。(ベラ・ルービンは、暗黒物質の存在を示した女性科学者の名前です。2022年9月号 「暗黒物質はじめて物語 その1 どうやって発見されたのか」を見てね)
この広い視野を用いて全天をくまなく観測します。これによって、カイパーベルト天体の数は、現在の10倍に増えるとの予想もあります。第9惑星が存在するか否かは、数年で決着するかも知れません。
第9惑星が発見され、ルービンの名前がついたら「水金地火木土天海ルー」となる。

<参考資料>
すばる望遠鏡が見つけた太陽系の「化石」 2025年7月14日 すばる望遠鏡プレスリリース
すばる望遠鏡が見つけた太陽系の「化石」 2025年7月15日 国⽴天⽂台、台湾 中央研究院天⽂及天⽂物理研究所、近畿⼤学、千葉⼯業⼤学、神⼾⼤学、⽇本スペースガード協会プレスリリース
すばる望遠鏡が見つけた太陽系の「化石」 2025年7月15日 千葉工業大学惑星探査研究センタープレスリリース
日経サイエンス2007年4月号「惑星って何だ? 冥王星騒動の顛末」
日経サイエンス2025年5月号「発見なるかプラネット・ナイン」
ナショナルジオグラフィックNews2016年1月21日「太陽系に第9惑星の証拠見つかる」