オジさんの科学vol.120 2025年12月号
暗黒物質が尻尾を出した?

朝ドラの『ばけばけ』が面白い。トキ役の高石あかりが上手い。『御上先生』では、不正入学した女生徒をシリアスに演じたが、コメディーの才能もあるようだ。トキは、『怪談』を書いた小泉八雲の妻がモデル。彼女は、見えないナニカや得体の知れないモノたちについて語った。
「暗黒物質(ダークマター)」も確かに存在するのだが、全く見えない。正体も判っていない。
ところが、最近「暗黒物質がついに見えた!?」というプレスリリースが出ました。11月26日に東京大学は、大学院理学系研究科の戸谷友則教授が暗黒物質のシグナルと考えられるガンマ線を捉えた、と発表しました。
戸谷教授は、NASAのガンマ線観測衛星「フェルミ」の15年分のデータを解析しました。その結果、私たちの「天の川銀河」の中心をぼんやりと球状に取り囲んだ「ハロー」と呼ばれる領域から、ガンマ線が放射されていることが判りました。それが、暗黒物質に起因するものかもしれないとのことです。「これが事実であれば、人類は初めて暗黒物質を『見た』ことになる」とリリースは言っています。
暗黒物質は、私たちや星々を形作る「通常の物質」とは反応せず、すり抜けてしまいます。また光や電磁波も発せず、反応もしないため観測することが出来ません。しかし質量を持っているため、重力によって通常の物質に影響を与えます。天体の運動や光の屈折に関与することで、存在が知られることになりました。
※詳しくは、オジさんの科学「暗黒物質はじめて物語」の、その1とその2をご覧ください。
https://note.com/kosuzu_kouchan/n/na419576fed05 https://note.com/kosuzu_kouchan/n/n3d7d411ac7b4

暗黒物質の総量は宇宙の物質の約85%を占め、通常の物質の5倍以上あると推定されています。居ることは判っているが、誰だかわからない。遊んでいる子供のまわりに座敷童が5人いるようなもの。
暗黒物質が無ければ、宇宙全体で重力が足りないために、物質が集まらずに星は出来にくくなり、生まれた星々も散り散りになっていたと考えられています。そしてほぼ確実に生命も誕生していなかったでしょう。座敷童がもたらしてくれる幸せのようなものです。
暗黒物質には、様々な候補があります。その中の有力な候補として、未知の素粒子「WIMP(ウィンプ)」があります。WIMP同士が衝突し消滅(対消滅)するとガンマ線を出します。
ハローの領域にぼんやり広がった球状のガンマ線放射は、想定される暗黒物質の分布とよく一致していました。

しかし、パルサーと呼ばれる中性子星や超新星の残骸などからも、強力なガンマ線が発せられます。その他にもブラックホールや星間物質、そして太陽の様な恒星からも放出されています。今回の研究では、これら既に知られている発生源からのノイズを、丁寧に取り除きました。
解析は、ガンマ線を発する多くの天体が存在する天の川銀河の中心部を除いて行いました。図の真ん中にあるグレーの帯が除いた領域です。
これが今回の研究の肝だったようです。ガンマ線の強い領域を隠すことによって、球状の放射が浮かび上がってきました。明るすぎると幽霊も出てきません。
これまでも、暗黒物質が多く存在する天の川銀河の中心部からのガンマ線を使った研究があったそうです。しかし、そこにはたくさんの天体があり、ノイズも多いため、本当に暗黒物質によるガンマ線かどうか、と反論されたそうです。
また、今回解析されたガンマ線のエネルギー領域は、WIMPが対消滅する時に出すガンマ線にとてもよく似ていました。特定の領域で非常に強く、それよりエネルギーが低かったり高かったりすると急激に弱くなりました。一般に、天体から発せられるガンマ線は様々なエネルギーで比較的均等に放射され、このような特定の領域のみで強くなることは無いそうです。
このガンマ線の強さから、WIMP粒子の質量も推定されました。
これまでの暗黒物質候補の粒子の質量は、最小から最大まで10の90乗もの幅がありました。WIMPだけでも100倍(10の2乗)以上もの範囲が想定されていました。
今回の結果は、陽子の500倍程度の質量をもつWIMPの対消滅から予想されるガンマ線と、よく合致したそうです。

これまで暗黒物質を検出するために様々な観測や実験が行われてきました。極端に言うと下手な鉄砲を数打ってきた様なものかもしれません。
今回の研究によって暗黒物質の尻尾を掴めたのかもしれません。化けの皮を剥がすには、今後さらなる研究や検証により、これが本当に暗黒物質からのガンマ線であることを立証することが重要です。
すでに世界中の研究者が、今回の研究の検証を始めているそうです。また、理論的な補強も発表され始めています。
リリースでは、「今後の検証で、本当に暗黒物質からのガンマ線であることが確定すれば、天文学・物理学における最大の難問の一つがついに解明されることになります」と言っています。
「暗黒物質の正体見たり」と本当に言える日が待ち遠しい。
や・そね
<参考資料>
「暗黒物質がついに見えた!? ー天の川銀河のハローから高エネルギーガンマ線放射を発見ー」
2025年11月26日 東京大学プレスリリース
日経サイエンス2025年7月号「特集 どうなる暗黒物質 有力粒子WIMPが見つからないダークホースはどこにいる」
東洋経済オンライン2025年12月3日「ついに!東大教授がダークマターの観測に成功か?【約5分で読める】宇宙の謎解明の期待かかる研究成果を東大生が解説」