オジさんの科学vol.122 2026年2月号
都会の鳥は恐れない

オジさんは、鳥が苦手。近寄れない。ハトの群れが道を塞いでいると通れない。片側3車線の幹線道路の歩道を引き返し、横断歩道を渡り、反対側から回り込んで通ったこともある。話に夢中で、気がついたら足元にハトがいた。うわっっ# と声が漏れた。一緒にいた友達は、オジさんに驚いた。
本来、野生の生き物は、人間に無防備に近づいたりしないはず。ハトの方に逃げて欲しい。
都会の鳥は、人が近づいてもなかなか逃げないと言われます。本当はどうなのか。
今年1月、国立科学博物館が、東京の都心に住む鳥は、田舎の鳥に比べて人間に対する警戒心が低く、危険を避けようとしない傾向がある、と発表しました。
人が作り出した都市は、自然を大きく改変しています。生き物にとっての本来の生息地とは、大きく環境が異なります。
都市環境における鳥の警戒心について、ヨーロッパでは多くの研究がなされてきました。都会の鳥は、本来の生息環境に近い田舎よりも、警戒心が低いという結果が多く出ていました。一方で逆に警戒心が高いという研究結果もありました。
ヨーロッパの都市は、日本と比べ長い時間をかけて発展しました。また、田舎と景観や環境の違いがはっきりしているという特徴もあるそうです。日本でもヨーロッパと同様の傾向があるのか、今回初めて研究がなされました。
調査は、東京23区内の12ヶ所の緑地と茨城県南部の農村地帯18ヶ所で行われました。
対象とした鳥は、東京都心で繁殖しているスズメ、ハシブトガラス、ムクドリ、キジバト、シジュウカラ、ヒヨドリ、ハクセキレイの7種です。
学習途上にある幼鳥を排除し、成鳥のみからデータを得るために、繁殖期の初めにあたる3月中旬から5月上旬に実施されました。
人がゆっくり歩いて接近した時に、飛び立って逃げる距離(逃避開始距離)を調べました。さらに、鳥が何羽一緒にいたのか、どこにいたのか(地上高)、逃げ込む場所(やぶ、高木、建物など)までどれだけあったかなども考慮し、統計的に解析しました。
結果として、東京の鳥は人が近づいてもなかなか逃げないことが判りました。スズメの場合、茨城で調べた115羽の逃避開始距離の平均は11.1mでした。一部は20m以上離れているのに逃げてしまいました。一方東京の82羽の平均は4.2mでした。10mを超えた例はほとんど無かったそうです。
7種全てにおいて、東京の方が短く、半分かそれ以下の距離を示しました。

この距離の差は、ヨーロッパの事例に比較して大きいそうです。東京の鳥はヨーロッパの都市に棲む鳥よりも警戒心の低下が激しいことが判りました。
対象とした7種の鳥のうち、スズメやハシブトガラス、ムクドリは、少なくとも100年程前には既に東京に生息していました。キジバトは1950年代、シジュウカラは1960年代、ヒヨドリは1970年代前半、ハクセキレイは1970年代後半に東京に定着、繁殖するようになったそうです。
このことから、東京に定着してからの時間と、警戒心の間に相関はみられないことが判りました。研究チームは、「警戒心の低下は比較的短期に起こったもので、世代を経て獲得された遺伝的な変化ではないことが示唆された」と言っています。
人から逃げるという行為には、鳥にとってエネルギーを消費し、他の行動を中止しなけらばならないなどのコストを伴います。捕食されるなどの危険を回避し、安全を確保するというメリットが十分になければ、なかなか逃げないと考えられます。
東京の鳥が、なかなか逃げない理由には次の二つが考えられます。ひとつは、人が近づいてきても襲われるリスクは少ないと学習したという事。もう一つは、少々のリスクをとっても、エサにありつけるというメリットを優先したという可能性です。今後、鳥の警戒心を下げている直接の要因を明らかにしたい、研究チームは言っています。
さらに、人以外の捕食動物に対する都会の鳥の警戒心全般は、下がっているのか。学習による後天的な警戒心の変化と共に、都市に生息する動物集団の遺伝的な進化は起こっているのか。などなど新しい課題もみえてきました。
アーバンベアに対しても、同様のことが言えます。人と野生動物の関わり方や距離感を考えなければならない時、東京の鳥からも様々な知見が得られると期待されています。
しかしながら、オジさんの鳥に対する警戒心が高い理由は、自分でもわからない。生理的にダメなのだ。焼き鳥は大丈夫なのに。

や・そね
<参考資料>
「都市の鳥はリスク回避しない傾向を持つ~大都市東京で野性鳥類の警戒性の低下を実証」
2026年1月8日 国立科学博物館プレスリリース