オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

ミツバチさんも現場判断

オジさんの科学vol.124 2026年4月号

ミツバチさんも現場判断
~四角い土台で、どう巣をつくる~

 

 イベントでは、たくさんの現場判断が必要になります。本番前日、深夜のトラブル。上司も得意先も連絡つかず。その場で判断して、「ありもの」を使って、何とかするしかありません。グルングルン、頭フル回転です。

 現場判断をするのは、ヒトだけではないようです。4月1日に山梨大学は、「ミツバチの現場判断力を発見した」と発表しました。

 

 ミツバチの巣は、きれいに六角形が並んでいます。立体的に考えると六角柱の空間が隙間なく立っている状態です。「ハニカム構造」といい、少ない材料で最大限の強度が実現できます。
 では、ミツバチはいったいどのようにして、こんなに見事に六角形をつくることができるのしょうか。
 材料は、ミツバチが腹部から分泌する蜜蝋(ミツロウ)。保水力や防水性に優れ、殺菌性もあるため、革製品のワックスやハンドクリームなどにも使われます。食べても害はないそうですが、消化されません。

 

 六角形の巣穴ができるメカニズムとして、これまで主に2つの仮説がありました。1つ目は、ミツバチが円筒状のたくさんの部屋(短いストローの束の様なもの)を作ると、ミツバチの体温によって蜜蝋が柔らかくなり、その表面張力で自動的に六角形に変形するという「表面張力説」。
 2つ目は、ミツバチが蜜蝋の特性を活かして作り上げるという「建築家説」です。

 

 表面張力説に対しては、ミツバチの体温では蜜蝋が十分に柔らかくならないために六角形への変形は起こらない、という反論もあります。
 一方、山口大学などの研究によって「ミツバチは、蜜蝋を付着させるだけではなく、掘削も行い、六角形を作り上げている」というモデルが提唱されています。また、神戸大学などの研究から、「六角形が規則正しく並べられない時に、ミツバチは五角形と七角形の部屋を作ることで解決している」ということも判っています。

 

 建築家説が有力になっていました。そこで、さらに今回の研究では、「六角形が作りにくい環境を用意したら、どんな巣が出来るのだろうか」という意地悪な実験をしました。

 

 通常、養蜂を行う時には、巣作りの土台となる「巣礎(スソ)シート」を用意します。巣礎シートは、蜜蝋で作られており、規則正しく六角形の土手が並んでいます。六角形の一辺の長さは約3mm、1mm程盛り上がりがあり、ミツバチはこの上に巣をつくります。

 

 ところが研究チームが用意したのは、正方形が並んだ巣礎シートでした。「図面の間取りと違う基礎工事をしちゃったけど、さあどうする?」って感じです。
 蜜蝋の土手の幅は1mm、凹んだ正方形の一辺の長さが2.4mm、4mm、6mmのシートを用意しました。また正方形が互い違いに並んだ「レンガ状」と、「格子状」に並んだものの2種類の計6種類で実験しました。

 

 その結果、2.4mmと4mmの場合、ミツバチは「こんなもん使えん!」と巣礎シートの蜜蝋の土台を全て取り壊し、シートを更地にしてから壁を建て始め、通常の六角形の巣を作り上げました。
 一方6mmの場合は、「しょうがないなぁ」と正方形の土台を利用して巣作りしました。レンガ状の土台の場合は、丸みを帯びた巣穴がレンガ状に(つまり通常の六角形の様に互い違いに)並びました。
 格子状の土台の時は、わずかに角ばった六角形の様な巣穴が碁盤の目の様につくられました。巣穴どうしの角にひし形の様な隙間が出来て、蜜蝋の薄い膜で覆われていました。

 ミツバチは、用意された巣礎シートの正方形の凹みが小さすぎて中で作業できないと考えた場合は、更地にした。凹みがある程度大きければ、少々居心地が悪くても妥協して巣をつくった。研究チームは、このように推論しました。
 「この建築方針の切り替えは、巣作りにおける労力対効果(タイムパフォーマンス・スペースパフォーマンス)を、ミツバチが意識した結果なのかもしれません」と研究チームは言っています。ミツバチは、現場で時間・体力・材料を検討し、判断した可能性があるようです。
 ミツバチは本能で動く作業員ではなく「柔軟で知的な建築家」である、とも言っています。

 

 イベントでは、多くの場合、「現場判断を間違うこと」より「現場判断が遅れる方」がリスクだと考えます。少々不格好でも実施できないよりはマシなのです。現場判断には瞬発力も必要なんですよねぇ。エイヤー。

や・そね

 

<参考資料>

「ミツバチは『考えて』巣を作る? その驚異的現場判断力を発見」2026年4月1日 山梨大学プレスリリース

「ミツバチはどのようにして細緻な巣をつくるのか?-ミツロウの付着と掘削に着目したハニカム構造への学際的アプローチ-」2018年10月25日 山口大学、関西学院大学、神戸大学プレスリリース

「ミツバチと社会性カリバチは数学的に同じ方法で巣作り上の難問を解くことを発見」2023年8月2日 神戸大学プレスリリース