オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

シジュウカラは、言葉をあやつる。その2

オジさんの科学vol.101 2024年5月号

シジュウカラは、言葉をあやつる。その2

 

自分にダメだし

「岡目八目」。囲碁の言葉で、対局中の当事者よりも傍で見ている人のほうが、正しく判断できるというたとえ。つまり自分の事は、なかなかわかりません。

 自分の文章に赤を入れるために、オジさんはこんなことをしています。パソコン上で何度か見直します。ある程度でき上ったら、プリントアウトします。他人の文章だと思って読めば、あらまぁこれは変だわ、と見えてきます。これを繰り返します。声に出して読んでみます。字面が良くても、読みにくい文章はダメです。一晩寝かします。翌日になると、違う表現が見えてきたりします。最後に、カミさんに読んでもらい、反応を覗います。

 

 シジュウカラは、「ピーツピ・ヂヂヂヂ(警戒して、集まれ)」には反応しても、「ヂヂヂヂ・ピーツピ」には無反応でした。この実験によって、動物で初めて文法能力が確認された、と注目が集まった小鳥博士の鈴木さん。しかし、これだけでは文法の証明にはならないのではないか、と自ら考えを改めました。2017年の事です。

 

ルー語がヒント

 ヒトは、初めて聞いたり、読んだりした文章でも、文法が守られていれば、理解できます。外国語などが混じっても、内容を類推したり、理解することができます。このような能力は、これまでヒト以外の動物では確認されていませんでした。

 ルー大柴が好きだった鈴木さんに、ある日突然アイディアが舞い降りたそうです。ルー語を応用してみよう。「寝耳にウォーター」や「藪からスティック」。この奇妙な文章を初めて聞いても、ヒトは理解できます。これを、シジュウカラで確かめました。

 

 鈴木さんがフィールドワークをしているのは、軽井沢。シジュウカラは、冬になるとコガラという別の鳥と一緒に群れをつくります。シジュウカラは、コガラ語も聞き取れるそうです。コガラが発する警戒音を聞くと、シジュウカラも一緒に逃げ出すそうです。

日本人とアメリカ人が一緒に暮らしているようなものかも。喋れなくとも聞き取りができれば、コミュニケーションがとれます。

 

「集まれ」は、シジュウカラ語だと「ヂヂヂヂ」ですが、コガラ語では「ディーディー」になるそうです。コガラの「ディーディー」を聞くとシジュウカラも集まってきます。鈴木さんは、鳥版のルー語を作りました。「ピーツピ(シジュウカラ語:警戒して)・ディーディー(コガラ語:集まれ)」。文法的には正しいのですが、こんな風に鳴く鳥はいません。

 

 56羽のシジュウカラに聞かせたところ、ほとんどが「ピーツピ・ヂヂヂヂ」と同じように警戒しながら集まりました。逆に文法的に間違っている「ディーディー・ピーツピ」を聞かせても無反応でした。「この実験から、シジュウカラも人間のように、文法を頼りにコミュニケーションをとっていることがわかりました」と鈴木さんは言います。

 

ダメ押しの実験

 鈴木さんの実験は、まだまだ続きます。それは、2022年に発表されました。

 言語学では「2つの語を1つのまとまりとして認識する能力」を「併合」と呼びます。これこそが、ヒトだけが持つ複雑な文章を生み出す核だという仮説があるそうです。「赤いリンゴ」は「赤い」と「リンゴ」を単に正しい語順で並べているだけでなく「赤いリンゴ」という一つの表現として、ヒトは理解します。シジュウカラは、「ピーツピ・ヂヂヂヂ」を別々の2語として認識しているのか、1語と捉えているのか確かめました。

 

 鈴木さんは2つのスピーカーとモズの剥製を用意しました。まず1つのスピーカーから「ピーツピ・ヂヂヂヂ」と流しました。するとシジュウカラたちは「警戒して・集まれ」と認識し、モズの剥製を威嚇し始めました。

 次に片方のスピーカーから「ピーツピ」と流し、その後続けてもう一方のスピーカーから「ヂヂヂヂ」を流してみました。シジュウカラたちはモズを追い払いに行かなかったそうです。つまり「警戒しろ」と「集まれ」の別々なメッセージが流されたと認識されたということになります。合計16の群れで実験し、確認されました。

 

 シジュウカラは2つの言葉から1つのユニットを作ることができることがわかりました。ヒトだけが持つとされていた能力が、シジュウカラにもあることが証明されたのです。


 しかし、ヒトの場合は、これが何階層も組み合わされて、長い文章を作ることができます。残念ながらシジュウカラの鳴き声では今のところ、階層を重ねられるのは見つかっていないそうです。

          



階層にもほどがある

 オジさんの周りには、階層を幾重にも組み上げて話す人がいます。「昨日の会議は、いろいろな意見がでて、使えそうなアイディアもあったけど、全く無理なことを繰り返す部長のおかげで、途中から寝ている奴もいたので、多数決を採ろうにもそれぞれの意見の論点が整理できず、収拾する人がいなかったので、それを決めるためにも差し迫った納期の確認が先だということになり、いつものことだが君に音頭を取ってもらおうということになったので、ヨロシク!」って言われても。自分が何を言っているのか、わかっているのかしら。

 

 さて、シジュウカラは何を思ってコミュニケーションをとっているのでしょうか。続きは、その3で。

 

<参考資料>

山極寿一 鈴木俊貴 『動物たちは何をしゃべっているのか』  集英社

            https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-790115-3

「文章は操るシジュウカラは初めて聞いた文章も正しく理解できる」 2017年7月28日 京都大学プレスリリース

            https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/embed/jaresearchresearch_results2017documents170728_101.pd

シジュウカラに言語の核:2語を1つにまとめる力(併合)を確認」 2022年9月29日 京都大学プレスリリース

https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2022-09/220929_suzuki-17b695c581f255ad84021f16f4900d2d.pdf

「東大助教を辞め、5年任期の教員に・・・シジュウカラにすべてを捧げる『小鳥博士』の壮大すぎる野望」 2022年5月28日PRESIDENT Online

            https://president.jp/articles/-/57657?page=1