オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

シジュウカラは、言葉をあやつる。その3

オジさんの科学vol.102 2024年6月号

シジュウカラは、言葉をあやつる。その3

想像を想像する。

 文章を書く時には、読み手を考えます。こちらの意図したことを想像できるか、違ったことを想像していないか考えます。

 科学ジャーナリスト塾の塾生だった時の話です。「DNAが束になった繊維は染色体を形づくる時、教科書で教えられているほど整然としていないことが判った」というニュースを記事にしました。

 その中で、繊維がモジャモジャ、グチャグチャとした状態をわかりやすく伝えようと「毛玉のように」という表現を使いました。毛玉とは、セーターなどの糸が寄り集まって丸くなったもの、あるいはイヌやネコの毛が絡み合ったもの。 ピッタリでわかりやすい表現だと思いました。

するとある塾生から「毛玉」はおかしい、と言われました。まったく間違った表現だと。

 後で思いつきました。その人は「毛糸玉」を想像していたのだろうと。そこで「綿菓子のように」という表現に変えました。

 

シジュウカラも想像する

 私たちは「ヘビ」という言葉を聞くと、にょろにょろとした生き物を想像します。一方、動物のコミュニケーションは、話し手が聞き手の行動を機械的に操作する「命令」であると考えられてきました。

 はたして、シジュウカラが「ジャージャー(シジュウカラ語のヘビ)」と聞いた時には、機械的にヘビがいそうな地面を見まわしたり、茂みに確認に行ったりしているのでしょうか。それとも私たちと同じ様にヘビの姿を想像しているのでしょうか。

 

 小鳥博士の鈴木俊貴さんは、シジュウカラがヘビをイメージしているかどうか、明らかにしようと考えました。そして2018年、言葉からその指示対象をイメージする能力は、ヒト以外の動物にもあることを、初めて明らかにしました。

 

 私たちは、見間違いをします。ただの影でも「顔が写った心霊写真だ」と言われると顔が見えてきたりします。「ヘビだっっ!」とおもちゃのヘビを急に突き付けられれば驚きます。「顔」や「ヘビ」といった言葉によって、視覚的なイメージが呼び起こされるからです。

 シジュウカラにも同じような現象が起きるなら、鳴き声をシンボルとしてとらえ、イメージを浮かべていると考えられます。

 

 鈴木さんは20cmほどの木の枝を用意しました。ただの枝です。普通ならシジュウカラとてヘビに見間違える訳は無い様なものだそうです。心霊写真の例えでいうと、何も言われなければただの影。

 その枝にひもを付けて木の幹沿いに引き上げながら「ジャージャー」を聞かせると、シジュウカラはほぼ確実に見間違えるそうです。びっくりして枝を確認しに行くとのこと。同じ枝で、地面を這わせた実験でも同様の結果となりました。


 また、同じ枝を木の幹で揺らして、ヘビには見えない動きをさせた時は、「ジャージャー」を聞いても反応しなかったそうです。

 

 同じ枝を見せながら、モズやフクロウに対する鳴き声を聞かせたり、仲間を呼ぶときの「ヂヂヂヂ」を流しても、見間違えたりしないそうです。

「つまり、『ジャージャー』という音声がヘビの視覚的イメージを呼び起こしているらしいんです」と鈴木さんは、語っています。

 

凄いシジュウカラコミュ力

 ウソをつくこともできるようです。シジュウカラは、コガラだけでなくいろいろな鳥と群れをつくります。大きな鳥と群れをつくった時、エサをめぐる競争で不利になることがあります。すると「タカが来たぞ!」と鳴くことがあるそうです。他の鳥がびっくりして逃げ出したスキにエサを手に入れる。落語のネタの様な話です。

 

 東京大学に准教授として移った鈴木さんは、今年、シジュウカラジェスチャーによるコミュニケーションをしている、と発表しました。これは、ヒトや類人猿などごく限られた動物でしか見つかっていない能力です。

 シジュウカラは、一夫一妻制で協力して子育てします。2羽が同時にエサを咥えて来た時、メスが翼をパタパタと震わせることがあるそうです。するとオスが先に巣に入ります。オスが巣に入ると、メスは動きを止めます。 単独で帰ってきた場合には、パタパタは全くありません。

翼をパタパタと震わせる動きが、「お先にどうぞ」という特定のメッセージを伝えるジェスチャーになっていると考えられます。

 鬱蒼とした見通しの悪い森に棲むシジュウカラ。ヘビが来たとか、エサがあるとか、自分の周囲で起きていることを伝えるために、言葉を発達させたのではないか、と鈴木さんは考えているそうです。

 安全でエサにも困らない鳥かごの中では、全然鳴かなくなるそうです。

 

むずかしいことをやさしく

 メスがパタパタとジェスチャーする割合は約1/2のようです。メスのパタパタがあった場合は、ほぼすべてオスが先に巣に入ります。逆にパタパタがない場合は、ほぼ確実にオスより先にメスが入ります。

 鈴木さんの発表では、「お先にどうぞ」というメッセージだと表現しています。しかし、「先に入れ」と、メスが指図している様にも捉えられます。

 前者の表現と後者の書き方では、印象がだいぶ変わります。奥ゆかしいのか、かかあ天下か。わかりやすい表現は、むずかしいのです。

 

 今回のシリーズ冒頭で紹介した井上ひさしさんの言葉、「むずかしいことをやさしく」書くこと。これには続きがあります。

  むずかしいことをやさしく

  やさしいことをふかく

  ふかいことをゆかいに

  ゆかいなことまじめに

  書くこと

 一行目すら上手く出来ませんが、座右の銘としています。

 

や・そね

 

<参考資料>

山極寿一 鈴木俊貴 『動物たちは何をしゃべっているのか』  集英社

            https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-790115-3

シジュウカラの音声言語、単語から指示対象をイメージする能力を確認」 2018年1月30日 京都大学プレスリリース

            https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/embed/jaresearchresearch_results2017documents180130_101.pdf

シジュウカラジェスチャーを使うー翼をパタパタ『お先にどうぞ』―」 2024年3月25日 東京大学プレスリリース

            https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/release/20240325.html

シジュウカラは、言葉をあやつる。その2

オジさんの科学vol.101 2024年5月号

シジュウカラは、言葉をあやつる。その2

 

自分にダメだし

「岡目八目」。囲碁の言葉で、対局中の当事者よりも傍で見ている人のほうが、正しく判断できるというたとえ。つまり自分の事は、なかなかわかりません。

 自分の文章に赤を入れるために、オジさんはこんなことをしています。パソコン上で何度か見直します。ある程度でき上ったら、プリントアウトします。他人の文章だと思って読めば、あらまぁこれは変だわ、と見えてきます。これを繰り返します。声に出して読んでみます。字面が良くても、読みにくい文章はダメです。一晩寝かします。翌日になると、違う表現が見えてきたりします。最後に、カミさんに読んでもらい、反応を覗います。

 

 シジュウカラは、「ピーツピ・ヂヂヂヂ(警戒して、集まれ)」には反応しても、「ヂヂヂヂ・ピーツピ」には無反応でした。この実験によって、動物で初めて文法能力が確認された、と注目が集まった小鳥博士の鈴木さん。しかし、これだけでは文法の証明にはならないのではないか、と自ら考えを改めました。2017年の事です。

 

ルー語がヒント

 ヒトは、初めて聞いたり、読んだりした文章でも、文法が守られていれば、理解できます。外国語などが混じっても、内容を類推したり、理解することができます。このような能力は、これまでヒト以外の動物では確認されていませんでした。

 ルー大柴が好きだった鈴木さんに、ある日突然アイディアが舞い降りたそうです。ルー語を応用してみよう。「寝耳にウォーター」や「藪からスティック」。この奇妙な文章を初めて聞いても、ヒトは理解できます。これを、シジュウカラで確かめました。

 

 鈴木さんがフィールドワークをしているのは、軽井沢。シジュウカラは、冬になるとコガラという別の鳥と一緒に群れをつくります。シジュウカラは、コガラ語も聞き取れるそうです。コガラが発する警戒音を聞くと、シジュウカラも一緒に逃げ出すそうです。

日本人とアメリカ人が一緒に暮らしているようなものかも。喋れなくとも聞き取りができれば、コミュニケーションがとれます。

 

「集まれ」は、シジュウカラ語だと「ヂヂヂヂ」ですが、コガラ語では「ディーディー」になるそうです。コガラの「ディーディー」を聞くとシジュウカラも集まってきます。鈴木さんは、鳥版のルー語を作りました。「ピーツピ(シジュウカラ語:警戒して)・ディーディー(コガラ語:集まれ)」。文法的には正しいのですが、こんな風に鳴く鳥はいません。

 

 56羽のシジュウカラに聞かせたところ、ほとんどが「ピーツピ・ヂヂヂヂ」と同じように警戒しながら集まりました。逆に文法的に間違っている「ディーディー・ピーツピ」を聞かせても無反応でした。「この実験から、シジュウカラも人間のように、文法を頼りにコミュニケーションをとっていることがわかりました」と鈴木さんは言います。

 

ダメ押しの実験

 鈴木さんの実験は、まだまだ続きます。それは、2022年に発表されました。

 言語学では「2つの語を1つのまとまりとして認識する能力」を「併合」と呼びます。これこそが、ヒトだけが持つ複雑な文章を生み出す核だという仮説があるそうです。「赤いリンゴ」は「赤い」と「リンゴ」を単に正しい語順で並べているだけでなく「赤いリンゴ」という一つの表現として、ヒトは理解します。シジュウカラは、「ピーツピ・ヂヂヂヂ」を別々の2語として認識しているのか、1語と捉えているのか確かめました。

 

 鈴木さんは2つのスピーカーとモズの剥製を用意しました。まず1つのスピーカーから「ピーツピ・ヂヂヂヂ」と流しました。するとシジュウカラたちは「警戒して・集まれ」と認識し、モズの剥製を威嚇し始めました。

 次に片方のスピーカーから「ピーツピ」と流し、その後続けてもう一方のスピーカーから「ヂヂヂヂ」を流してみました。シジュウカラたちはモズを追い払いに行かなかったそうです。つまり「警戒しろ」と「集まれ」の別々なメッセージが流されたと認識されたということになります。合計16の群れで実験し、確認されました。

 

 シジュウカラは2つの言葉から1つのユニットを作ることができることがわかりました。ヒトだけが持つとされていた能力が、シジュウカラにもあることが証明されたのです。


 しかし、ヒトの場合は、これが何階層も組み合わされて、長い文章を作ることができます。残念ながらシジュウカラの鳴き声では今のところ、階層を重ねられるのは見つかっていないそうです。

          



階層にもほどがある

 オジさんの周りには、階層を幾重にも組み上げて話す人がいます。「昨日の会議は、いろいろな意見がでて、使えそうなアイディアもあったけど、全く無理なことを繰り返す部長のおかげで、途中から寝ている奴もいたので、多数決を採ろうにもそれぞれの意見の論点が整理できず、収拾する人がいなかったので、それを決めるためにも差し迫った納期の確認が先だということになり、いつものことだが君に音頭を取ってもらおうということになったので、ヨロシク!」って言われても。自分が何を言っているのか、わかっているのかしら。

 

 さて、シジュウカラは何を思ってコミュニケーションをとっているのでしょうか。続きは、その3で。

 

<参考資料>

山極寿一 鈴木俊貴 『動物たちは何をしゃべっているのか』  集英社

            https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-790115-3

「文章は操るシジュウカラは初めて聞いた文章も正しく理解できる」 2017年7月28日 京都大学プレスリリース

            https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/embed/jaresearchresearch_results2017documents170728_101.pd

シジュウカラに言語の核:2語を1つにまとめる力(併合)を確認」 2022年9月29日 京都大学プレスリリース

https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2022-09/220929_suzuki-17b695c581f255ad84021f16f4900d2d.pdf

「東大助教を辞め、5年任期の教員に・・・シジュウカラにすべてを捧げる『小鳥博士』の壮大すぎる野望」 2022年5月28日PRESIDENT Online

            https://president.jp/articles/-/57657?page=1

 

シジュウカラは、言葉をあやつる。その1

オジさんの科学vol.100 2024年4月号

 


オジさんは、ゴジュウカラ始めた。

 定年後のボケ防止のために始めたこの連載に、毎月お付き合いいただき、ありがとうございます。お陰様で、一度も空けることなく100号に達することができました。

 定年が見え始めた頃、五十の手習いで科学ジャーナリスト塾に入りました。そこで、「むずかしいことをやさしく」書くこと、と教わりました。偶然にも高校の先輩にあたる井上ひさしさんの言葉でした。

 

 塾へは、3年ほど通いました。新聞社やテレビ局、出版社の科学担当者やフリーのジャーナリストの方々が講師でした。座学が1年、演習で2年間記事づくりを学びました。添削を受け、何度も書き直しました。推敲を重ねれば重ねるほど、やさしくわかりやすい文章になることを知りました。

 

 伝えたいテーマや意見はもちろん重要ですが、使う言葉や語順を変えるだけで、伝わり方や意味が大きく変わります。きちんと並べないと意味が分からなくなったりもします。

 例えば「きれいなお姉さんの服」と言ったとします。きれいなのは「お姉さん」でしょうか、「お姉さんの服」でしょうか。運動会に「走って、来て」と、運動会に「来て、走って」では、全く違う行動になります。

 

語順によって意味が変わってしまうような「文法」は、ヒトだけが操れると考えられてきました。文法があるから「走って、来て」と「来て、走って」の意味の違いを理解できます。

 ヒト以外の生き物は、特定の鳴き声(単語)に対して特定の反応を返しているだけだ、と思われてきました。

 これを覆したのが、小鳥博士とも呼ばれる鈴木俊貴さんです。シジュウカラが文法を使っていることを発見。世界で初めて、人間以外も文法を用いることを証明しました。

 

シジュウカラは、いろいろな言葉を持っている。

 シジュウカラは、200種類ほどの鳴き声を使い分けるそうです。いろいろな鳴き声で仲間とコミュニケーションをとっているのです。

 

 例えば、天敵に応じた異なる言葉があるそうです。タカが来ると「ヒヒヒ」と鳴き、ヘビに対しては「ジャージャー」という警戒音を発します。これは天敵によって対処法が違うからだ、と鈴木さんは言っています。「タカが来たら隠れればいいけど、青大将が木を登ってきているのにじっとしていたら食べられてしまう。だから天敵の種類も伝えるのです」。

 

 タカに対する鳴き声を聞いた他のシジュウカラは、茂みの中に居たなら上空を警戒していれば大丈夫。でも、開けた場所にいたなら、直ちに身を隠さないと襲われてしまう。「ヒヒヒ」に対して柔軟な行動をとれる個体が生き残ったと考えられます。

 

 これを確認するために、鈴木さんは、まずシジュウカラがどういう天敵に対してどういう鳴き声を出すか調べました。ヘビやタカ、モズといった天敵の剝製を巣箱やエサ台のそばにおいて、それを見たシジュウカラの鳴き声を録音しました。すると、特定の天敵にしか出さない鳴き声があることがわかったそうです。

 

 次に、シジュウカラに聞こえるように、録音した鳴き声をスピーカーから流しました。「ジャージャー」を流すと、ヘビがいそうな地面を見まわして探したり、茂みを確認しに行きました。「ヒヒヒ」だと上空を警戒して空を見上げました。

 

シジュウカラには、文法がある。

 さらに、鈴木さんは、シジュウカラは文法を持っていることを実験で確かめました。

 

「ピーツピ・ヂヂヂヂ」これは、シジュウカラが集団でタカやモズなどの天敵を追う払う際に、発する鳴き声です。「ピーツピ」は「警戒しろ!」という意味。天敵が来た時に使います。「ヂヂヂヂ」は「集まれ!」。エサを見つけた個体が仲間を呼ぶときなどに発するそうです。

 鈴木さんは、「ピーツピ・ヂヂヂヂ」は「警戒して・集まれ」ではないかと考えました。

 

「走って、来て」と「来て、走って」は意味が違います。鈴木さんは録音した「ピーツピ・ヂヂヂヂ」をパソコンで編集し「ヂヂヂヂ・ピーツピ」を作って聞かせました。

「ピーツピ・ヂヂヂヂ」を流すと、シジュウカラたちは警戒しながらスピーカーに集まってきたそうです。ところが「ヂヂヂヂ・ピーツピ」では反応しませんでした。

         



 2016年に当時、総合研究大学院大学研究員だった鈴木さんがこの論文を発表すると、ヒト以外の動物で初めて文法能力が確認されたと、注目が集まりました。

 

オジさんも、語順には気を遣う。

 世のオジさんたちが社内を生き抜くのは、大変です。上司の動きには常に「ピーツピ」です。「ヂヂヂヂ」と言っても、部下は簡単には集まってくれません。言葉の順番にも細心の注意を払います。

「お誘いいただき大変光栄ですが、今回はご遠慮させていただきます」。

「良く出来た企画書だね。後はもう少し具体案を考えればいいね」。

 先ず感謝の言葉や誉め言葉、その後にさり気なく言いたいことを付け加えます。


 2017年、京都大学の研究員となった鈴木さんは、前年発表した実験だけでは、文法の証明にはならないのではないか、と自ら考えを改めました。

シジュウカラは、言葉をあやつる。その2に続く。

 

 

<参考資料>

山極寿一 鈴木俊貴 『動物たちは何をしゃべっているのか』  集英社

            https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-790115-3

鈴木俊貴監修 『にんじゃシジュウカラのすけ』 世界文化社

            https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/23823.html

「単語から文をつくる鳥類の発見」 2016年4月 総合研究大学院大学ニューズレター

https://www.soken.ac.jp/outline/pr/publicity/newsletter/file/30ebf62bf6c509fea79ce9a19cc8e142.pdf

「東大助教を辞め、5年任期の教員に・・・シジュウカラにすべてを捧げる『小鳥博士』の壮大すぎる野望」 2022年5月28日PRESIDENT Online

            https://president.jp/articles/-/57657?page=1

ドキドキが少ない話

オジさんの科学vol.099 2024年3月号

 


 緊張した時、怖い時、怒った時、不安な時にはドキドキします。運動すると、ちょっと速足で歩いただけでも心拍数は増大します。自律神経と酸素消費量によって簡単に左右されます。

 

 先日のゴルフで、崖下の林に打ち込んでしまいました。急いで駆け下りてボールを探し、ドキドキのままで打ったら、立ち木に当たり、より奥に入ってしまいました。

 また打とうと思ったら、後から林に打ち込んでやって来た隣のホールのおじさんが訳の分からない文句を言い始めました。「エッなに?」小心者の心拍数は、さらに上がりました。もちろん二度目も脱出に失敗しました。

 動物も、危険を察知した時や敵から逃げる時、獲物を追う時には、心拍数が増加すると思います。でも今回は、逆に心拍数が少なくなる時のお話です。

 

 東京大学の研究チームが、「潜水中のウミガメの心拍数は2回/分まで低下する」という発表を行った。研究チームは、アカウミガメの甲羅に、特殊な電極を張り付けた心拍数計と行動記録計を取り付けた。夏の三陸沖の海を自由に泳ぐアカウミガメの心拍数と潜水行動を計測した。

 

 海には、様々な肺呼吸生物が生息する。クジラやアザラシ、ペンギン、ウミガメなどは、息を止めた状態で深く長く潜水することができる。クジラの仲間には3時間を超える潜水を行うものがおり、アザラシの仲間は2時間、ペンギンも20分程度息を止めていられるようだ。これまで海生の哺乳類や鳥類については、潜水中の心拍数が調べられてきた。ところが、爬虫類であるウミガメは、甲羅が邪魔でセンサーが使えず、ほとんど研究されていなかった。

 

 今回の研究で、アカウミガメは数分から63分の間で潜水し、最大153mの深さに達していた。海面で呼吸するときの心拍数は、1分間に約21回であったが、潜水すると約13回に減少した。深く潜るほど低下し、140mより深く潜ったときには、1分間に2回になった。

 

 海生の哺乳類や鳥類では、深く潜るほど心拍数が下がることが知られていた。シロナガスクジラの場合、海面では25~37回だった心拍数が、最低2回まで下がった。今回、爬虫類でも同様なことが判った。潜水するときの心拍数の低下は、肺呼吸動物に共通の生理的な仕組みだと考えられる、と研究チームは語っている。

 

 では、ヒトではどうなのだろうか。同様に、潜水時には心拍数が低下し、深くなるほど少なくなるようだ。潜水反射と呼ばれ、心拍数を減らすことにより酸素の消費を減らし、心臓や脳など生きていくために必須な臓器中心に血液を送るそうだ。

 

 

       


 ヒトの場合、様々な感情や状態によっても心拍数は変化する。早稲田大学の研究チームは、「眼前の友人の存在は心拍数の減少を引き起こす」と発表した。他者の存在は、ヒトの気持ちを変化させると同時に、心拍数などの生理的反応も変化させる。

特に他者とコミュニケーションを取るとき、快適だと感じる空間がある。この空間は、「パーソナルスペース」と呼ばれる。

 今回の研究は、親しい友人が近しい距離内でどのような位置にいるときに、副交感神経活動が活性化し、心拍数が減るかを明らかにした。

 

 研究には、親しい間柄の友人16組が参加した。2人が様々な位置に立ったときの心拍数を心電図で確認した。立ち位置の条件は8つ設定された。「正面から友人の顔を見ている」「友人の右横顔を見ている」「友人の左横顔を見ている」「友人の背中を見ている」「友人に右横顔を見られている」「友人に左横顔を見られている」「友人に背中を見られている」「背中合わせに立つ」だ。

 

 その結果、正面から友人の顔を見ているときは、心拍数が減ることが判った。この場合、両者が向かい合っているのだから、双方ともに心拍数が減っていることなる。

 また、正面ほどではないが、友人の右横顔を見ているときと友人に右横顔を見られているときも心拍数が低下した。この場合も、見ている側も見られている側も双方低下していることになる。この結果は、利き手と関係しているかもしれないと研究チームは言っているが、検証には至っていないようだ。

 その他の場合には、心拍数は変化しなかった。

 

 親しい人とおしゃべりする時や食事をする時には、向かい合って座るのが良いようだ。友人の右顔が見える位置に座るのも良いが、この場合友人には、ずっと正面を向いていてもらわないといけない。

 

 世の中ドキドキするようなニュースや出来事が多すぎます。たまには、深い海をゆったりと泳ぐウミガメに思いをはせたり、親しい人の横顔をそっと眺めてみたりするのは如何でしょうか。

 

<参考資料>

「潜水中のウミガメの心拍数は2回/分まで低下する ―アカウミガメが海を深く潜るときの驚くべき心拍数―」2024年3月6日 東京大学プレスリリース

 

「眼前の友人の存在は心拍数の減少を引き起こす」 2024年3月6日 早稲田大学プレスリリース

 

ナショナルジオグラフィックニュース2013年6月17日「海生哺乳類が長く潜水できる理由」

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8078/

 

ナショナルジオグラフィックニュース2014年3月28日「哺乳類最強の潜水能力?アカボウクジラ」

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9077/?utm_source=pocket_saves

 

ニューズウィーク日本版2020年9月29日「3時間42分にわたって潜水するクジラが確認される」

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/09/342-1.php?utm_source=pocket_saves

 

日経グッディ2016年3月7日「大きく分厚い“スポーツ心臓” それって病気?激しい運動を続けると、心臓が大きく、安静時心拍数が少なくなることも」

 

本川達夫 「動物の時間から人間の寿命を考える」 日本人間ドック学会誌vol.13 1999年

 

彭 恒 「息こらえ潜水における循環応答に関する研究」 早稲田大学審査学位論文 2023年

 

オジさんの科学vol.055「夏ですが、冬眠の話です。」2020年7月0

            https://note.com/kosuzu_kouchan/n/n9b82560f9bfb

 

 

ドキドキが少ない話

オジさんの科学vol.099 2024年3月号

 

 緊張した時、怖い時、怒った時、不安な時にはドキドキします。運動すると、ちょっと速足で歩いただけでも心拍数は増大します。自律神経と酸素消費量によって簡単に左右されます。

 

 先日のゴルフで、崖下の林に打ち込んでしまいました。急いで駆け下りてボールを探し、ドキドキのままで打ったら、立ち木に当たり、より奥に入ってしまいました。

 また打とうと思ったら、後から林に打ち込んでやって来た隣のホールのおじさんが訳の分からない文句を言い始めました。「エッなに?」小心者の心拍数は、さらに上がりました。もちろん二度目も脱出に失敗しました。

 動物も、危険を察知した時や敵から逃げる時、獲物を追う時には、心拍数が増加すると思います。でも今回は、逆に心拍数が少なくなる時のお話です。

 

 東京大学の研究チームが、「潜水中のウミガメの心拍数は2回/分まで低下する」という発表を行った。研究チームは、アカウミガメの甲羅に、特殊な電極を張り付けた心拍数計と行動記録計を取り付けた。夏の三陸沖の海を自由に泳ぐアカウミガメの心拍数と潜水行動を計測した。

 

 海には、様々な肺呼吸生物が生息する。クジラやアザラシ、ペンギン、ウミガメなどは、息を止めた状態で深く長く潜水することができる。クジラの仲間には3時間を超える潜水を行うものがおり、アザラシの仲間は2時間、ペンギンも20分程度息を止めていられるようだ。これまで海生の哺乳類や鳥類については、潜水中の心拍数が調べられてきた。ところが、爬虫類であるウミガメは、甲羅が邪魔でセンサーが使えず、ほとんど研究されていなかった。

 

 今回の研究で、アカウミガメは数分から63分の間で潜水し、最大153mの深さに達していた。海面で呼吸するときの心拍数は、1分間に約21回であったが、潜水すると約13回に減少した。深く潜るほど低下し、140mより深く潜ったときには、1分間に2回になった。

 

 海生の哺乳類や鳥類では、深く潜るほど心拍数が下がることが知られていた。シロナガスクジラの場合、海面では25~37回だった心拍数が、最低2回まで下がった。今回、爬虫類でも同様なことが判った。潜水するときの心拍数の低下は、肺呼吸動物に共通の生理的な仕組みだと考えられる、と研究チームは語っている。

 

 では、ヒトではどうなのだろうか。同様に、潜水時には心拍数が低下し、深くなるほど少なくなるようだ。潜水反射と呼ばれ、心拍数を減らすことにより酸素の消費を減らし、心臓や脳など生きていくために必須な臓器中心に血液を送るそうだ。

 

 

       


 ヒトの場合、様々な感情や状態によっても心拍数は変化する。早稲田大学の研究チームは、「眼前の友人の存在は心拍数の減少を引き起こす」と発表した。他者の存在は、ヒトの気持ちを変化させると同時に、心拍数などの生理的反応も変化させる。

特に他者とコミュニケーションを取るとき、快適だと感じる空間がある。この空間は、「パーソナルスペース」と呼ばれる。

 今回の研究は、親しい友人が近しい距離内でどのような位置にいるときに、副交感神経活動が活性化し、心拍数が減るかを明らかにした。

 

 研究には、親しい間柄の友人16組が参加した。2人が様々な位置に立ったときの心拍数を心電図で確認した。立ち位置の条件は8つ設定された。「正面から友人の顔を見ている」「友人の右横顔を見ている」「友人の左横顔を見ている」「友人の背中を見ている」「友人に右横顔を見られている」「友人に左横顔を見られている」「友人に背中を見られている」「背中合わせに立つ」だ。

 

 その結果、正面から友人の顔を見ているときは、心拍数が減ることが判った。この場合、両者が向かい合っているのだから、双方ともに心拍数が減っていることなる。

 また、正面ほどではないが、友人の右横顔を見ているときと友人に右横顔を見られているときも心拍数が低下した。この場合も、見ている側も見られている側も双方低下していることになる。この結果は、利き手と関係しているかもしれないと研究チームは言っているが、検証には至っていないようだ。

 その他の場合には、心拍数は変化しなかった。

 

 親しい人とおしゃべりする時や食事をする時には、向かい合って座るのが良いようだ。友人の右顔が見える位置に座るのも良いが、この場合友人には、ずっと正面を向いていてもらわないといけない。

 

 世の中ドキドキするようなニュースや出来事が多すぎます。たまには、深い海をゆったりと泳ぐウミガメに思いをはせたり、親しい人の横顔をそっと眺めてみたりするのは如何でしょうか。

 

<参考資料>

「潜水中のウミガメの心拍数は2回/分まで低下する ―アカウミガメが海を深く潜るときの驚くべき心拍数―」2024年3月6日 東京大学プレスリリース

 

「眼前の友人の存在は心拍数の減少を引き起こす」 2024年3月6日 早稲田大学プレスリリース

 

ナショナルジオグラフィックニュース2013年6月17日「海生哺乳類が長く潜水できる理由」

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8078/

 

ナショナルジオグラフィックニュース2014年3月28日「哺乳類最強の潜水能力?アカボウクジラ」

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9077/?utm_source=pocket_saves

 

ニューズウィーク日本版2020年9月29日「3時間42分にわたって潜水するクジラが確認される」

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/09/342-1.php?utm_source=pocket_saves

 

日経グッディ2016年3月7日「大きく分厚い“スポーツ心臓” それって病気?激しい運動を続けると、心臓が大きく、安静時心拍数が少なくなることも」

 

本川達夫 「動物の時間から人間の寿命を考える」 日本人間ドック学会誌vol.13 1999年

 

彭 恒 「息こらえ潜水における循環応答に関する研究」 早稲田大学審査学位論文 2023年

 

オジさんの科学vol.055「夏ですが、冬眠の話です。」2020年7月0

            https://note.com/kosuzu_kouchan/n/n9b82560f9bfb

 

 

白くて丸くて寒い

オジさんの科学vol.098 2024年2月号

 暖冬と言われる。地球温暖化と騒がれる。雪を待っているうちに、オープンできなかったスキー場もあるらしい。オジさんが子供の頃は、もっと寒かったし雪も多かった。

 

 学生時代は、ヒッチハイクやら野宿やらで、フラフラしていた。大学1年の冬、同期とフラフラ真冬の北海道に行った。ヒッチハイクはできないので周遊券を買った。さすがに野宿をする勇気はなかった。贅沢なユースホステル泊りは稀。列車や無人駅に泊まった。ある日、オホーツク海沿岸の無人駅に泊まろうと雪のホームに降り立った。ところが4畳半もない駅舎は、窓ガラスが無く、吹きっ晒し。手持ちのシートで窓を塞ぎ、シュラフにもぐり込んだ。翌朝、目を開くと真っ白だった。シートは吹っ飛び、顔に雪が積もっていた。ラジオは、最低気温がマイナス17℃だったと告げていた。

 

 かつて地球全体が、ずっと寒かった時期がある。今から2万年ほど前、いわゆる氷河期には、年間平均気温が今より5~6℃も低かった。マンモスがいて、人類の祖先はベーリング海峡を歩いてアメリカ大陸に渡った。

 しかし最近、氷河期も比較にならない程の寒い時期があったことが判ってきた。赤道付近の年間平均気温が、マイナス30℃以下だったと考えられている。

 

 学部のフィールドワークで塩釜漁港の冷凍倉庫に入った。マイナス30℃。あっという間に鼻毛が凍る。息をすると痛い。

 ちなみに、南極の昭和基地が観測以来記録した最低気温は、マイナス45.3℃。年間平均気温は、マイナス10℃だそうだ。



 海もすべて凍った状態になる。全体が氷で覆われた地球を宇宙から見ると、白く輝いていたはずだ。「スノーボールアース」と名付けられた。日本語では「全球凍結」「全地球凍結」などと呼ばれる。

 スノーボールアース仮説は、1992年米国カルフォルニア工科大学のジョセフ・カーシュビンク博士によって提唱された。

 

 地層に残る磁気を分析すると、地層が形成された時の緯度が判る。古地磁気学という分野だ。1986年、「南オーストラリアにある6~7億年万の氷河性堆積物の地層ができた時の緯度は、5度であることが判った」という論文が発表された。ほぼ赤道直下である。

 

 古地磁気学の専門家のカーシュビンク博士は、これを信じなかった。きちんと検証すれば、誤りを証明できると考えた。地層の褶曲による影響なども考慮し、調べなおした。すると間違いではないことが判った。なんと赤道直下に南極の様な氷床があったことを、自ら証明してしまったのだ。博士は、非常に複雑な心境になったそうだ。そしてある日、博士はベッドに横たわっているときに素晴らしいアイディアを思いついた。それがスノーボールアース仮説だった。

 

 スノーボールアース仮説は、様々な議論や反論を呼んだ。1998年に米国ハーバード大学のポール・ホフマン教授が、科学誌『Science』にスノーボールアースの決定的な証拠を発見したと発表した。世界各地で見られる6~7億年前の氷河系堆積物に付随してみられる地層の様々な特徴や謎をスノーボールアースによって説明できると言った。

 

 現在でも、詳細については議論が続いている。しかし大枠では受け入れられているようだ。では、なぜスノーボールアースになったのか。

 地球の気温は、「太陽からのエネルギー供給」、「地表の反射率」「大気の温室効果」の3つによって決まる。雲や塵で太陽が隠されると、光が地表に届かなくなり気温は下がる。地面が白い雪や氷におおわれると、反射率が増して気温が下がる。大気中の二酸化炭素などが減ると、温室効果が低下し気温が下がる。しかし、何が原因でこれらのどれが起こったのか、残念ながら確定していない。

 

 2月9日、学術誌『Science Advances』に新説が発表された。小惑星の衝突だ。衝突によって巻き上げられた塵がどのような影響を及ぼすか、様々なシミュレーションが行われた。恐竜を絶滅させた時の様な、暖かい時期には凍りつくことはなかった。一方、すでに気候が寒冷になっている場合は、スノーボール状態になる可能性が示された。


 スノーボール状態は、数百万年続いたと推測されている。では、そこからどのように脱出したのだろうか。ざっくりいうと「超温室効果」。スノーボールアースをよく見ると、ところどころにニキビが見えたはずだ。火山だ。火山活動は、気温には影響されない。

 スノーボールアースの大気は、水分がすべて凍ってしまっているため、冷たく乾いている。雨がないので火山から放出されたCO2が除去されない。COはどんどん溜まり、激しい温室効果を発揮し、気温を上昇させたと考えられている。

          



 6~7億年前のスノーボールアースは、2回あったと推測されている。さらに昔、22億年前にも起こったのではないかと考えられている。そして両方ともその前後に、地球上の酸素が急激に増大した。

 また、生物の爆発的な進化が、スノーボールアース直後に起こったとも言われる。

 大きな試練が、生物進化の引き金になったのかもしれない。オジさんも、いろいろな寒さを経験した。酔って寝込んだ雪の中からカミさんに救出してもらったこともある。社内の冷たい視線や世間の風当たりの強さにも耐え忍んだ。だから、・・・・・・・。

 

<参考資料>

書籍

『凍った地球 スノーボールアースと生物進化の物語』 田近英一 新潮社選書

『地球46億年気候変動』 横山祐典 BLUE BACKS

 

雑誌

日経サイエンス』2000年4月号 氷に閉ざされた地球

 

WEB

ナショナルジオグラフィックニュース2024.02.16

 「スノーボールアース」、小惑星の衝突が引き金だった、新説

            https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/24/021500093/

 

気象庁ホームページ 昭和基地

https://www.data.jma.go.jp/env/ghg_obs/station/station_syowa.html

 

国立極地研究所ホームページ 研究成果 

『最終氷期南極大陸の気温低下と氷床高度の見積もりを刷新』

https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20210617-3.html

あったら飲むか?ノンアルビール。

オジさんの科学vol.097 2024年1月号

あったら飲むか?ノンアルビール。

 

 先日、人間ドックに行ってきた。速報値では、とりあえず特に大きな異常はなかった。内視鏡検査で胃に腫瘍が見つかったが、「去年と同じですね」と言われたので、OK。長年居座っている良性の腫瘍だ。

 人間ドックの前に1ヶ月ほど禁酒をする先輩がいた。検査が終わった日から残りの11ヶ月は、浴びるように飲んでいた。体に良いのか悪いのか。入社前の健康診断の前の日に酒を飲み、血液検査の結果に響いて、入社が危うくなった後輩もいた。

 

 人間ドックや健康診断直前の2、3日はお酒を飲まないことにしている。今回は、前日、前々日とノンアルコールビールにした。飲みたい気分だが飲んじゃいけない時は、ノンアルコール飲料やアルコールテイスト飲料(以下合わせてノンアル飲料と呼ぶ)の出番だ。

 人間ドックの結果次第では、アルコールを控えるように言われる人もいるだろう。肝機能値が高かったり、糖尿病の気があったり。肥満気味の人もそうかも。とは言われても、なかなか減らないのがアルコール。ノンアル飲料は、代替になるのだろうか。

 

 昨年の11月に厚生労働省から、生活習慣病のリスクを高めるアルコール摂取量のガイドライン案が発表された。男性で1日当たり40g以上、女性の場合は20g以上とされた。なぜ男性が女性より多いのか、よくわからないが。

 

 過剰なアルコールの摂取は、世界的な課題の一つ。SDGsの中にも含まれている。過剰なアルコール摂取を減らす対策としてノンアル飲料の利用が考えられているそうだ。しかしこれまで、ノンアル飲料が飲酒量に与える影響に関するデータがなかった。

 

 筑波大学などの研究チームは、「ノンアルコール飲料の提供で飲酒量が減少することを世界で初めて実証」と発表した。

 ノンアル飲料を提供することで、飲酒量が減少することが分かった。アルコール飲料からノンアル飲料への置き換わりが起こったと考えられる。

 

 今回の研究は、アルコール依存症の患者、妊娠中や授乳中の人、過去に肝臓の病気と言われた人を除いた健康な男女を対象に行った。参加条件は、20歳以上で、週に4回以上飲酒し、飲酒日のアルコールの量が、男性で40g、女性で20g以上の人(厚生労働省ガイドライン案と同じだ)。かつノンアル飲料は、月1回以下しか飲まないこと。

 残念ながら、オジさんは条件から外れてしまう。定年し、コロナ禍になり、回数も酒量もだいぶ減ってしまったのだ。

 

 女性が69名、男性は54名の計123名が参加した。年齢分布は22歳から72歳までで、平均が47.5歳だった。

参加者は、無作為に次の2つのグループに分けられた。ノンアル飲料を無料で提供されるグループ(ノンアルGと呼ぶ)と何も提供されないグループ(アルコールGと呼ぶ)。

 ノンアルGには、12週間にわたってノンアル飲料が提供された。2021年の購入ランキングでビールテイスト商品の上位6品目とカクテルテイスト16商品の上位16品目の中から、提供商品を自由に選ぶことが出来た。でも、飲むか飲まないかは自由。

 アルコールGは、何もなし。

 

 


両グループともに、アルコール飲料の入手や飲酒に関して制約は設けなかった。お酒は勝手に飲んでよね、とした訳だ。

 参加者には、20週目までアルコール飲料ノンアルコール飲料の摂取量を記録してもらい、4週毎に集計した。

 

 ノンアルGは、実験が開始されるとアルコールの摂取量が減少し、ノンアル飲料が消費された(ちなみに、参加条件からわかるように、参加者はこれまでノンアル飲料をほとんど飲んでいない)。

 ノンアル飲料の提供が終る12週目の時点で、ノンアルGの1日のアルコール量摂取量は、平均11.5g減少していた。ビールに換算すると287.5mlに相当する。ちなみにその時点において、ノンアルコール飲料は1日平均314.3ml消費されていた。

 さらに、ノンアルGは、ノンアル飲料の提供終了後の13~20週においても、アルコールGよりもアルコール摂取量がずっと少なかった。

 

 研究チームは、ノンアルGについて、さらに詳しく分析した。

 男女ともにアルコールGと比較したアルコールの摂取量は減少しており、男女間での差はなかった。

 飲酒頻度を見ると男性は、最初の4週で若干の減少があったものの、それ以降はアルコールGの男性と差はなかった。ところがノンアルGの女性は、明らかに減っていた。

 逆に、飲酒した日のアルコール量を見ると、男性は減っていたにもかかわらず、女性の方は変化がなかった。

 男性は、ノンアル飲料とアルコール飲料をチャンポンで飲んでいたということなのか。一方で、女性は、飲む時は今までと変わらない量のアルコールを飲むが、ノンアルコール飲料休肝日を作っていたということだろうか。

 

 現役時代のオジさんも、に最初の1杯だけノンアルビールにしていたことを思い出した。とりあえずのビールは、ノンアルでも良いかも。

 つまみにもよるかもしれない。餃子にはビールと言われるが、これはノンアルビールでも良いかも。のどごしの良さがあれば問題ないと思う。揚げ物もOKかも。ノンアルチューハイも1~2杯なら代替できそうだ。ノンアルワインは、赤も白もイマイチだった。鍋の時は、やっぱり熱燗じゃないとなぁ。

 


や・そね

 

 

 

〈参考資料〉

プレスリリース

ノンアルコール飲料の提供で飲酒量が減少することを世界で初めて実証』

2023年10月5日 筑波大学

ノンアルコール飲料提供による飲酒量減少プロセスに性差あり』

2024年1月15日 筑波大学

 

ホームページ

アルコール健康医学協会 

https://www.arukenkyo.or.jp/health/base/index.html