オジさんの科学vol.121 2026年1月号
湖底に眠る宿場町
「宝の山よ」と謡われる福島県の会津「磐梯山」。麓に大学の研究所だったか合宿所だったがあった。そこに同期10人で寝泊まりしてフィールドワークの実習(巡検)をした。猪苗代スキー場にも何度か行った。子供が小学生だった頃に、家族で裏磐梯の五色沼のハイキングコースを歩いたこともある。五色沼には、赤や青、緑などの様々な色の沼や小さな湖が点在する。
海洋研究開発機構(JAMSTEC/ジャムステック)などの研究チームは、昨年12月に「湖底に眠る宿場町を地球科学的手法で3D復元」したと発表しました。
湖底に眠る宿場町とは、五色沼の隣にある「桧原湖」の底にある「桧原宿」のことです。まるでドラクエに出てくるような設定です。

桧原湖や五色沼は、1888年(明治21年)の磐梯山の噴火によってできました。山がごっそりと崩れ去り(山体崩壊)、土石流で河川がせき止められ、つくられました。桧原湖は、約10㎢の細長い湖です。
そして桧原宿は、この時に水没しました。江戸時代に会津若松と米沢を結んだ米沢街道の、会津領の国境近くに位置した宿場町でした。
研究チームは、「マルチビーム音響測深」という技術を使い、130年以上も前に沈んだ湖底の街並みを3次元的に再現し、立体図を作成しました。船に搭載したソナーから音波を発射して、水深を測定します。多数の音波を扇状に放射することで、複雑な地形や水中の構造物を高精度・広範囲に計測しました。
立体図と、水没前の明治初期に作られた地籍図を照合すると、町割り、道路、水路と思われる構造が見えました。
現在、桧原湖の湖面には、頭を出した二の鳥居が見えます。その奥には一の鳥居と桧原山神社があります。一の鳥居と二の鳥居を結ぶ湖底には、参道があり、並木も残っていました。

街道が、町の中で直角に折れ曲がっています。住宅地や農地、水路は、小規模な扇状地の地形と水の流れを巧みに利用してつくられていることも判りました。
「近世、近代に栄えた宿場町が自然環境に適応した合理的設計を有していたことが明らかになりました」と研究チームは言っています。
湖底では、堆積物が宿場町を覆っていました。そのため、一里塚や橋などの構造物は、よく確認できませんでした。今後は低周波を湖底に照射し、堆積物の様子や埋没した構造物の位置や規模をつかんでいくそうです。
今回の発表は、2つの観点から興味深いと思います。
一つは、「災害遺構」の調査という点です。自然災害の跡は、時と共に変わってゆきます。当然のことながら被災地は復旧されます。かつての災害の痕跡は、消え去る場合が少なくありません。
過去の災害を記憶に留めて後世に伝えることで、防災・減災に役立てようと残すものを、災害遺構(被災遺構)と呼びます。
建物、防潮堤などの構築物、断層や巨石などの自然物、石碑、写真、資料などの記録、活動、語り部、慰霊祭などの活動、などの総称です。 例えば、東日本大震災で残された陸前高田市の「奇跡の一本松」も災害遺構と言えます。仙台平野に並ぶ古墳群は、弥生時代に東日本大震災級の津波が押し寄せてきた淵に作られた古代人の災害遺構だとする研究もあります。
磐梯山噴火による犠牲者は477名にも上り、近代以降で日本最大級の火山被害と言われています。桧原宿も「災害遺構」と考えられます。
二つ目は、「水中遺跡」の研究としての観点です。
古い建物は取り壊され、新しく建て替えられます。かつての都も、今は畑になっていたりします。地上では、遺跡の保存よりも、そこに暮らす人々の生活が優先されます。
一方で、湖底や海底などは、人の手が加わりません。また、酸素が少ないことから遺跡や遺物が当時のまま残っていることが多いといわれます。近年探索や再現、保存、分析などの技術が進歩し、これらを研究する「水中考古学」が発展しています。
日本でも、様々な調査が行われています。日本初の水中遺跡は、諏訪湖の湖底にある「曽根遺跡」です。縄文時代の石の矢じりなどが発見されています。琵琶湖の湖底には100以上の遺跡が沈んでいると言われます。
また、長崎県松浦市鷹島沖の海底では、740年以上前の元寇(げんこう)で沈没したモンゴル軍の軍船が3隻発見されました。これにより、これまで文献のみで語られてきたモンゴル軍の実態に迫ることが出来ると期待されています。
今年に入り、戦艦大和と共に沈んだ駆逐艦「朝霜」らしきものが海底で発見された、というニュースもありました。

世界6位の長さの海岸線を持ち、水と密接にかかわる日本には、数多くの水中遺跡や遺物があると考えられています。1万5千年ほど前までの最終氷期と呼ばれる時代、海水面は今より100m以上低いところにありました。その時代の人々の村や生活の跡が、きっと海中に残されているはずです。
水中探索というと、沈没船探しのトレジャーハンターを思い浮かべるかもしれない。しかしそれだけではない。水の底には、人類の宝が眠っている。
<参考資料>
「湖底に眠る宿場町を地球科学的手法で3D復元 ―1888年磐梯山噴火で沈んだ「桧原宿」を科学が甦らせる―」2025年12月22日 海洋研究開発機構、京都大学、東海大学。北塩原村、高知大学プレスリリース
「水中遺跡ハンドブック」 2022年3月 文化庁文化財第二課
斎野裕彦2024「仙台平野における 弥生津波伝承と古墳前期首長墳の築造位置」 第3回 日本災害・防災考古学会研究会資料・予稿集 142-157, 2024-09-24
















