オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

山火事に挑む ~ロバ大隊と音波消火~

オジさんの科学vol.125 2026年5月号

 

山火事に挑む

~ロバ大隊と音波消火~


 大船渡市や大槌町で猛威を振るった山火事。アメリカ史上最悪と呼ばれる山火事が、ハワイやロサンゼルスで相次ぎ、世界に発信されました。ヨーロッパでも2025年は過去最悪の被害となり、EU全体で東京都に神奈川県と千葉県を足したより広い面積が焼失したそうです。

 今回は、多発する山火事と闘うユニークな取り組みを紹介します。

 

 モノが燃えるためには、「熱」と「酸素」そして「可燃物」が必要です。一度火が付くとさらに温度が上がり、連鎖反応で燃え広がります。

 しかし、どれかが欠ければ火事は広がりません。

 そこで、水をかけて熱を奪い、可燃物の温度を下げる「冷却消火」。不燃シートや消火器の泡、二酸化炭素などで火元を覆い、酸素の供給を断つ「窒息消火」。江戸時代の火消しが延焼する建物を取り壊すように、可燃物を取り除く「除去消火」などを行います。さらには、火事によって発生し、次々と化学反応を引き起こす物質を、別の化学反応で取り除く「抑制消火」という方法もあるそうです。消火の基本はこの4つです。

 大槌町の山火事のニュースでは、水が足りなくなり、スコップなどを使って下草を叩いての消火作業を行う様子もニュースで流れていました。

 

 スペイン各地でも多くの山火事が発生しています。2025年は、8月までに埼玉県ほどの面積が焼けてしまったそうです。その背景には、暑さや干ばつだけでなく、過疎化という事情もあるそうです。人や家畜が減り、草木が伸び放題になっているからです。

 対策として、アンダルシア州にあるドニャーナ国立公園では、ロバたちが活躍しています。彼らは「ドニャーナ山火事予防ロバ大隊」です。乾燥したかたい草や枝を食べることで可燃物を取り除いています。

 

 ロバたちは、5頭ひと組。3月から11月にかけて戦術計画に従って行動します。毎日担当エリアに赴き、パトロールをします。その間に縦40m、横15mほどの帯状の範囲を食べ進みます。それぞれ1日に30Lの水を飲み干し、7時間の活動を終えるそうです。仕事終わりに、生ジョッキを飲み干すサラリーマンのようです。

 エリア内の可燃物は、すっかり食べつくされて、火災リスクは大幅に軽減します。村の周囲に可燃物が少ないエリアが形成され、火災の拡大が抑制されるのです。

 

 ロバは、乾燥した荒野や山岳地帯などの過酷な環境も生き抜いてきたことで、他の家畜が無視するトゲのある低木やガサガサに乾いたかたい雑草を好んで食べます。そのため「プロの草刈り機」と呼ばれるそうです。

 また、斜面も得意なのだそうです。同じように斜面が得意なヤギの食事量の10倍も食べるそうです。さらに、ヤギの3倍も重いので、動き回る時に植生を効率的に潰していくそうです。

 

 現在、大隊には18頭ほどが所属しているようです。ドニャーナ国立公園では、過去9年間山火事は一度も記録されていません。そしてこの活動は、スペイン各地に広がりつつあるそうです。

 

 音を使って山火事を防ごうという試みが進められています。

 米国のスタートアップ企業「ソニック・ファイア・テック」が、山火事防御システムの開発しています。元NASAの音響エンジニアも関わっているそうです。

 「音波によって速く振動させた酸素を可燃物は利用できなくなる。それによって燃焼反応を阻止する」という仕組みです。

 

 音波によって消火しようという研究は、20年近く前から進められていたようです。手術室やデータセンターの様に精密機械が置かれている場所、美術館や図書館などでは、水や薬剤による消火では貴重な機材や資産が失われる可能性があります。また、宇宙ステーションでの応用も期待されていました。

 

 しかし、狭い密閉空間で強力な音波を放射すると、壁や天井に音が跳ね返って乱反射(エコー)を起こし、火元にエネルギーを集中させにくくなります。また、大きな音の騒音被害も問題でした。

 

 ソニック社は、屋外に向けて使用する、そして超低周波音を用いる、と発想を転換しました。従来の試みでは、30~60ヘルツの音波が用いられていました。ヒトの可聴域は20~20,000ヘルツと言われています。同社は、ヒトには聞こえない20ヘルツ以下の帯域を使っています。

 まだ、燃え盛る木々を消火できるほどの効果は期待できませんが、最大約7.6m離れたところからの消火を実証しています。近づいてくる山火事から植栽や壁、屋根に飛び火する炎を消そうという試みです。

 

 システムは、センサーが炎を検知すると自動的に作動します。電動モーターを使って駆動されるピストンを使って音波を発生させ、建物の屋根と軒下に設置された金属製のダクト内を伝播させます。音を使った一種の防御シールドをつくりだすそうです。

 

 ソニック社のデモンストレーションを見る限りでは、威力や効果はまだまだだと感じます。同社は、米国カリフォルニア州の2つの自治体の消防本部と協力して技術の実証を進めているとのこと。一般の住宅とも契約を結んでおり、今年前半までに50件の試験的な設置を目指しているそうです。

 

 7000年も前に家畜化されたロバから最新鋭の音響装置まで。山火事との戦いには、様々な試みがなされています。

や・そね

 

 

参考資料

山火事予防にロバ、どういうこと? スペインで活躍 

              『ナショナルジオグラフィック』News 

          2026年4月24日 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/26/031800154/

『令和8年全国都道府県市区町村別面積調(1月1日時点)』 国土地理院

消防テクノロジー最前線 『Newton』 2026年4月号

音波消火 『Natureダイジェスト』 2026年5月号

音波を使って炎を消す画期的な消火器が実用化に向けて前進(アメリカ) 

          不思議と謎の大冒険サイト『カラパイア』 

               2026年4月15日  https://karapaia.com/archives/596415.html

Sonic Fire Tech HP https://www.sonicfiretech.com/

ミツバチさんも現場判断

オジさんの科学vol.124 2026年4月号

ミツバチさんも現場判断
~四角い土台で、どう巣をつくる~

 

 イベントでは、たくさんの現場判断が必要になります。本番前日、深夜のトラブル。上司も得意先も連絡つかず。その場で判断して、「ありもの」を使って、何とかするしかありません。グルングルン、頭フル回転です。

 現場判断をするのは、ヒトだけではないようです。4月1日に山梨大学は、「ミツバチの現場判断力を発見した」と発表しました。

 

 ミツバチの巣は、きれいに六角形が並んでいます。立体的に考えると六角柱の空間が隙間なく立っている状態です。「ハニカム構造」といい、少ない材料で最大限の強度が実現できます。
 では、ミツバチはいったいどのようにして、こんなに見事に六角形をつくることができるのしょうか。
 材料は、ミツバチが腹部から分泌する蜜蝋(ミツロウ)。保水力や防水性に優れ、殺菌性もあるため、革製品のワックスやハンドクリームなどにも使われます。食べても害はないそうですが、消化されません。

 

 六角形の巣穴ができるメカニズムとして、これまで主に2つの仮説がありました。1つ目は、ミツバチが円筒状のたくさんの部屋(短いストローの束の様なもの)を作ると、ミツバチの体温によって蜜蝋が柔らかくなり、その表面張力で自動的に六角形に変形するという「表面張力説」。
 2つ目は、ミツバチが蜜蝋の特性を活かして作り上げるという「建築家説」です。

 

 表面張力説に対しては、ミツバチの体温では蜜蝋が十分に柔らかくならないために六角形への変形は起こらない、という反論もあります。
 一方、山口大学などの研究によって「ミツバチは、蜜蝋を付着させるだけではなく、掘削も行い、六角形を作り上げている」というモデルが提唱されています。また、神戸大学などの研究から、「六角形が規則正しく並べられない時に、ミツバチは五角形と七角形の部屋を作ることで解決している」ということも判っています。

 

 建築家説が有力になっていました。そこで、さらに今回の研究では、「六角形が作りにくい環境を用意したら、どんな巣が出来るのだろうか」という意地悪な実験をしました。

 

 通常、養蜂を行う時には、巣作りの土台となる「巣礎(スソ)シート」を用意します。巣礎シートは、蜜蝋で作られており、規則正しく六角形の土手が並んでいます。六角形の一辺の長さは約3mm、1mm程盛り上がりがあり、ミツバチはこの上に巣をつくります。

 

 ところが研究チームが用意したのは、正方形が並んだ巣礎シートでした。「図面の間取りと違う基礎工事をしちゃったけど、さあどうする?」って感じです。
 蜜蝋の土手の幅は1mm、凹んだ正方形の一辺の長さが2.4mm、4mm、6mmのシートを用意しました。また正方形が互い違いに並んだ「レンガ状」と、「格子状」に並んだものの2種類の計6種類で実験しました。

 

 その結果、2.4mmと4mmの場合、ミツバチは「こんなもん使えん!」と巣礎シートの蜜蝋の土台を全て取り壊し、シートを更地にしてから壁を建て始め、通常の六角形の巣を作り上げました。
 一方6mmの場合は、「しょうがないなぁ」と正方形の土台を利用して巣作りしました。レンガ状の土台の場合は、丸みを帯びた巣穴がレンガ状に(つまり通常の六角形の様に互い違いに)並びました。
 格子状の土台の時は、わずかに角ばった六角形の様な巣穴が碁盤の目の様につくられました。巣穴どうしの角にひし形の様な隙間が出来て、蜜蝋の薄い膜で覆われていました。

 ミツバチは、用意された巣礎シートの正方形の凹みが小さすぎて中で作業できないと考えた場合は、更地にした。凹みがある程度大きければ、少々居心地が悪くても妥協して巣をつくった。研究チームは、このように推論しました。
 「この建築方針の切り替えは、巣作りにおける労力対効果(タイムパフォーマンス・スペースパフォーマンス)を、ミツバチが意識した結果なのかもしれません」と研究チームは言っています。ミツバチは、現場で時間・体力・材料を検討し、判断した可能性があるようです。
 ミツバチは本能で動く作業員ではなく「柔軟で知的な建築家」である、とも言っています。

 

 イベントでは、多くの場合、「現場判断を間違うこと」より「現場判断が遅れる方」がリスクだと考えます。少々不格好でも実施できないよりはマシなのです。現場判断には瞬発力も必要なんですよねぇ。エイヤー。

や・そね

 

<参考資料>

「ミツバチは『考えて』巣を作る? その驚異的現場判断力を発見」2026年4月1日 山梨大学プレスリリース

「ミツバチはどのようにして細緻な巣をつくるのか?-ミツロウの付着と掘削に着目したハニカム構造への学際的アプローチ-」2018年10月25日 山口大学、関西学院大学、神戸大学プレスリリース

「ミツバチと社会性カリバチは数学的に同じ方法で巣作り上の難問を解くことを発見」2023年8月2日 神戸大学プレスリリース

 

 

中学生が発見し、そして未だに解けない謎

オジさんの科学vol.123 2026年3月号

中学生が発見し、そして未だに解けない謎

 

 素朴な疑問を持ち続けることが、大きな発見につながることもある。ある時、中学生のムペンバ君は、熱い水の方が冷たい水より早く凍ることに気づいた。その後、この現象は、「ムペンバ効果」と呼ばれるようになった。

 

 1963年当時、タンザニアのマガムバ中学校の3年生だったムペンバ君たちは、学校でよくアイスクリームを作っていました。牛乳を沸騰させて砂糖を混ぜ、冷蔵庫の冷凍室で冷やして固めるのです。熱いままだと故障の原因となるため、室温近くまで冷ましてからに入れることにしていました。

 

 ある日、ムペンバ君は地元のおばさんから牛乳を買って、沸騰させていました。するとそれを見た別の少年が、牛乳に砂糖を混ぜ、沸騰させずに製氷皿に注ぎ込みました。

 多くの生徒がアイスクリームを作ろうとするので、冷凍室の場所取りは早い者勝ちでした。慌てたムペンバ君は、冷めるのを待っていては間に合わないと思い、熱いままの牛乳を冷凍室に入れました。冷蔵庫を壊す覚悟だったそうです。

 

 1時間半後に、その少年と一緒に見に行くと、ムペンバ君の製氷皿は凍ってアイスクリームになっていました。ところが、少年のものは、まだドロドロだったそうです。

 不思議に思ったムペンバ君は、なぜ熱い牛乳の方が先に凍ったのか、と物理の先生に尋ねました。すると先生は、そんなことはあり得ない、君は混乱していると答えたそうです。

 その時は、ムペンバ君も「そうだよなぁ」と思ったそうです。

 

 ところがその後、町でアイスクリーム売りをしている友だちから、「アイスクリームを作るときは、熱いうちに冷蔵庫に入れるんだ。そうすれば早く出来る」と聞きました。アイスクリーム作りを5年もやっている兄さんから教わったとのことでした。別のアイスクリーム売りからも、同じ答えが返ってきました。

 

 高校に進んだムペンバ君は、「熱」に関する物理の授業の時に、アイスクリームのことを思い出しました。「先生、熱い牛乳と冷たい牛乳を冷蔵庫に入れたら、どうして熱い方が先に凍るのですか」と質問したそうです。

 先生は「そんなことは無いと思うよ」と答えました。ムペンバ君が自分の経験から食い下がると、「君は混乱してるよ。それは世の中の一般的な物理学ではなく『ムペンバの物理学』だ」とまで言われたそうです。

 それ以来、ムペンバ君が何か間違えると、クラスの全員から「ムペンバの××」と言われるようになったそうです。計算間違えをすると「それは、ムペンバの数学だ」という風に。

 

 悔しかったのでしょう。ムペンバ君は、誰もいないのを見計らって生物学実験室で試してみました。50ccのビーカーの一つに水道水を、一方に熱湯を満たして、実験室の冷蔵庫の冷凍室に入れたそうです。1時間後に開けてみると、熱水を入れたビーカーの方に多くの氷が張っていたそうです。

 

 ダルエスサラーム大学の物理学者デニス・オズボーン博士が講演に訪れた際、ムペンバ君は質問をしました。

 クラスメートはみんな笑っていたそうです。「ムペンバの物理学だ」とからかわれました。

 博士も最初は、「え、なんだって、もう一度言ってくれないか」と聞き返したそうです。ムペンバ君が実際に試したことを聞くと、「私には、何故だかわからない。でも実験してみよう」と約束してくれたそうです。

 

 博士も、ムペンバ君は間違っていると思ったそうです。しかし、学生が疑問を持ち批判的な態度を養うことは大事だと考え直しました。笑ってはいけないと。また、日常の出来事は見かけほど単純ではない、とも思っていたそうです。

 大学の若い技術者に実験を依頼すると、「熱い状態から始めた水の方が先に凍りました」と報告してきました。また、このような現象を扱った文献も見つかりませんでした。そこで更なる実験を行うことにしました。

 

 1969年にムペンバ君とオズボーン博士は、「2つの温度の水を冷やした時、熱い方から先に凍ることがある」という内容の論文を発表しました。

 対流や水の表面の急激な熱損失が関係しているのではないかという仮説を提示しました。しかし、他にも要因があるかもしれず、より洗練された実験が必要だと結びました。

 

 これによりこの現象は「ムペンバ効果」と呼ばれるようになりました。

 その後、世界中の科学者によって研究が行われてきました。比較的簡単にできる実験であるため、多くの報告がなされましたが、結果はバラバラで、発生条件やメカニズムは依然として謎のままでした。

 

 日本でも、2010年に日本雪氷学会が中心となり、北海道大学、北見工業大学、防災科学研究所、中央農業総合センター、大阪教育大学などのチームによって、5つの異なる実証実験が行われました。その結果、たしかにムペンバ効果が起こることが確認されました。ところが同じような条件にしても起こったり起こらなかったりでした。

 「冷却に関する熱伝導、蒸発、拡散、対流などの細かな物理メカニズムは人為的にコントロールできないため、実験毎に異なる結果になったと考えられる」とまとめています。

 

 実はこのムペンバ効果を、アリストテレスやフランシスコ・ベーコン、ルネ・デカルトも知っていたようです。その他にもムペンバ効果と思われる13世紀や15世紀の記述や、各地での言い伝えがあるそうです。この謎には二千年以上の歴史があるようです。

 

 昨年3月に京都大学は、「熱的マジョライゼーション」という数学的⼿法を導⼊し、ムペンバ効果の理解に向けた統⼀的な理論枠組みを開発した、と発表しました。この理論を基にした実験的検証が進めば、熱機関や量⼦コンピュータなどの分野への応⽤も期待される、と言っています。

 今年3月には電気通信大学などの研究チームから、「量子ムペンバ効果」のメカニズムを解明した、という発表がありました。「より対称性を破った状態の方が、なぜか先に対称性を回復してしまう」という現象だそうです。

 両方とも、むずかしすぎてオジさんにはよくわかりません。

 元祖ムペンバ効果は未だ解明されていませんが、その概念は量子論の世界にまで拡張され、研究が進んでいるようです。

 

 ムペンバ君は、その後天然資源管理(ナチュラル・リソース・マネジメント)を学び、タンザニア天然資源観光省や国際連合食糧農業機関(FAO) の「アフリカ森林および野生動物委員会」で働き、2023年5月に生涯を閉じた。

や・そね

  

<参考資料>

Mpemba, Erasto B.; Osborne, Denis G. (1969), “Cool?”, Physics Education (Institute of Physics)

前野紀一(2008)「湯と水くらべ」のサイエンス 日本雪氷学会誌『雪氷』70巻593-599ページ

前野紀一、他(2012)「ムペンバ現象の検証実験」 日本雪氷学会誌『雪氷』74巻33-45ページ

「ペンバ効果の統⼀理論を構築 ―熱的緩和現象の新たな理論枠組み―」2025年3月11日 京都大学プレスリリース

「『熱い方が先に凍る』現象の量子版、その機構を解明 -スピンの量子ゆらぎが磁気秩序を“ぼかし”、対称性の回復を加速する-」2026年3月6日 電気通信大学プレスリリース

WIKIPEDIA「Erasto B. Mpemba」(2026年3月22日閲覧)

ナショナルジオグラフィック別冊『科学の謎 研究者が悩む99の素朴な疑問』(2019年11月13日)

 

 

都会の鳥は恐れない

オジさんの科学vol.122 2026年2月号

 

都会の鳥は恐れない

 

 オジさんは、鳥が苦手。近寄れない。ハトの群れが道を塞いでいると通れない。片側3車線の幹線道路の歩道を引き返し、横断歩道を渡り、反対側から回り込んで通ったこともある。話に夢中で、気がついたら足元にハトがいた。うわっっ# と声が漏れた。一緒にいた友達は、オジさんに驚いた。

 本来、野生の生き物は、人間に無防備に近づいたりしないはず。ハトの方に逃げて欲しい。

 

 都会の鳥は、人が近づいてもなかなか逃げないと言われます。本当はどうなのか。

 今年1月、国立科学博物館が、東京の都心に住む鳥は、田舎の鳥に比べて人間に対する警戒心が低く、危険を避けようとしない傾向がある、と発表しました。

 

 人が作り出した都市は、自然を大きく改変しています。生き物にとっての本来の生息地とは、大きく環境が異なります。

 都市環境における鳥の警戒心について、ヨーロッパでは多くの研究がなされてきました。都会の鳥は、本来の生息環境に近い田舎よりも、警戒心が低いという結果が多く出ていました。一方で逆に警戒心が高いという研究結果もありました。

 

 ヨーロッパの都市は、日本と比べ長い時間をかけて発展しました。また、田舎と景観や環境の違いがはっきりしているという特徴もあるそうです。日本でもヨーロッパと同様の傾向があるのか、今回初めて研究がなされました。

 

 調査は、東京23区内の12ヶ所の緑地と茨城県南部の農村地帯18ヶ所で行われました。

 対象とした鳥は、東京都心で繁殖しているスズメ、ハシブトガラス、ムクドリ、キジバト、シジュウカラ、ヒヨドリ、ハクセキレイの7種です。

 学習途上にある幼鳥を排除し、成鳥のみからデータを得るために、繁殖期の初めにあたる3月中旬から5月上旬に実施されました。

 

 人がゆっくり歩いて接近した時に、飛び立って逃げる距離(逃避開始距離)を調べました。さらに、鳥が何羽一緒にいたのか、どこにいたのか(地上高)、逃げ込む場所(やぶ、高木、建物など)までどれだけあったかなども考慮し、統計的に解析しました。

 

 結果として、東京の鳥は人が近づいてもなかなか逃げないことが判りました。スズメの場合、茨城で調べた115羽の逃避開始距離の平均は11.1mでした。一部は20m以上離れているのに逃げてしまいました。一方東京の82羽の平均は4.2mでした。10mを超えた例はほとんど無かったそうです。
 7種全てにおいて、東京の方が短く、半分かそれ以下の距離を示しました。

 この距離の差は、ヨーロッパの事例に比較して大きいそうです。東京の鳥はヨーロッパの都市に棲む鳥よりも警戒心の低下が激しいことが判りました。

 

 対象とした7種の鳥のうち、スズメやハシブトガラス、ムクドリは、少なくとも100年程前には既に東京に生息していました。キジバトは1950年代、シジュウカラは1960年代、ヒヨドリは1970年代前半、ハクセキレイは1970年代後半に東京に定着、繁殖するようになったそうです。

 このことから、東京に定着してからの時間と、警戒心の間に相関はみられないことが判りました。研究チームは、「警戒心の低下は比較的短期に起こったもので、世代を経て獲得された遺伝的な変化ではないことが示唆された」と言っています。

 

 人から逃げるという行為には、鳥にとってエネルギーを消費し、他の行動を中止しなけらばならないなどのコストを伴います。捕食されるなどの危険を回避し、安全を確保するというメリットが十分になければ、なかなか逃げないと考えられます。

 東京の鳥が、なかなか逃げない理由には次の二つが考えられます。ひとつは、人が近づいてきても襲われるリスクは少ないと学習したという事。もう一つは、少々のリスクをとっても、エサにありつけるというメリットを優先したという可能性です。今後、鳥の警戒心を下げている直接の要因を明らかにしたい、研究チームは言っています。

 

 さらに、人以外の捕食動物に対する都会の鳥の警戒心全般は、下がっているのか。学習による後天的な警戒心の変化と共に、都市に生息する動物集団の遺伝的な進化は起こっているのか。などなど新しい課題もみえてきました。

 アーバンベアに対しても、同様のことが言えます。人と野生動物の関わり方や距離感を考えなければならない時、東京の鳥からも様々な知見が得られると期待されています。

 

 しかしながら、オジさんの鳥に対する警戒心が高い理由は、自分でもわからない。生理的にダメなのだ。焼き鳥は大丈夫なのに。



 

 

 

 

 

 

や・そね

 

<参考資料>

「都市の鳥はリスク回避しない傾向を持つ~大都市東京で野性鳥類の警戒性の低下を実証」

2026年1月8日 国立科学博物館プレスリリース

都会の鳥は恐れない

オジさんの科学vol.122 2026年2月号

 

都会の鳥は恐れない

 

 オジさんは、鳥が苦手。近寄れない。ハトの群れが道を塞いでいると通れない。片側3車線の幹線道路の歩道を引き返し、横断歩道を渡り、反対側から回り込んで通ったこともある。話に夢中で、気がついたら足元にハトがいた。うわっっ# と声が漏れた。一緒にいた友達は、オジさんに驚いた。

 本来、野生の生き物は、人間に無防備に近づいたりしないはず。ハトの方に逃げて欲しい。

 

 都会の鳥は、人が近づいてもなかなか逃げないと言われます。本当はどうなのか。

 今年1月、国立科学博物館が、東京の都心に住む鳥は、田舎の鳥に比べて人間に対する警戒心が低く、危険を避けようとしない傾向がある、と発表しました。

 

 人が作り出した都市は、自然を大きく改変しています。生き物にとっての本来の生息地とは、大きく環境が異なります。

 都市環境における鳥の警戒心について、ヨーロッパでは多くの研究がなされてきました。都会の鳥は、本来の生息環境に近い田舎よりも、警戒心が低いという結果が多く出ていました。一方で逆に警戒心が高いという研究結果もありました。

 

 ヨーロッパの都市は、日本と比べ長い時間をかけて発展しました。また、田舎と景観や環境の違いがはっきりしているという特徴もあるそうです。日本でもヨーロッパと同様の傾向があるのか、今回初めて研究がなされました。

 

 調査は、東京23区内の12ヶ所の緑地と茨城県南部の農村地帯18ヶ所で行われました。

 対象とした鳥は、東京都心で繁殖しているスズメ、ハシブトガラス、ムクドリ、キジバト、シジュウカラ、ヒヨドリ、ハクセキレイの7種です。

 学習途上にある幼鳥を排除し、成鳥のみからデータを得るために、繁殖期の初めにあたる3月中旬から5月上旬に実施されました。

 

 人がゆっくり歩いて接近した時に、飛び立って逃げる距離(逃避開始距離)を調べました。さらに、鳥が何羽一緒にいたのか、どこにいたのか(地上高)、逃げ込む場所(やぶ、高木、建物など)までどれだけあったかなども考慮し、統計的に解析しました。

 

 結果として、東京の鳥は人が近づいてもなかなか逃げないことが判りました。スズメの場合、茨城で調べた115羽の逃避開始距離の平均は11.1mでした。一部は20m以上離れているのに逃げてしまいました。一方東京の82羽の平均は4.2mでした。10mを超えた例はほとんど無かったそうです。
 7種全てにおいて、東京の方が短く、半分かそれ以下の距離を示しました。

 この距離の差は、ヨーロッパの事例に比較して大きいそうです。東京の鳥はヨーロッパの都市に棲む鳥よりも警戒心の低下が激しいことが判りました。

 

 対象とした7種の鳥のうち、スズメやハシブトガラス、ムクドリは、少なくとも100年程前には既に東京に生息していました。キジバトは1950年代、シジュウカラは1960年代、ヒヨドリは1970年代前半、ハクセキレイは1970年代後半に東京に定着、繁殖するようになったそうです。

 このことから、東京に定着してからの時間と、警戒心の間に相関はみられないことが判りました。研究チームは、「警戒心の低下は比較的短期に起こったもので、世代を経て獲得された遺伝的な変化ではないことが示唆された」と言っています。

 

 人から逃げるという行為には、鳥にとってエネルギーを消費し、他の行動を中止しなけらばならないなどのコストを伴います。捕食されるなどの危険を回避し、安全を確保するというメリットが十分になければ、なかなか逃げないと考えられます。

 東京の鳥が、なかなか逃げない理由には次の二つが考えられます。ひとつは、人が近づいてきても襲われるリスクは少ないと学習したという事。もう一つは、少々のリスクをとっても、エサにありつけるというメリットを優先したという可能性です。今後、鳥の警戒心を下げている直接の要因を明らかにしたい、研究チームは言っています。

 

 さらに、人以外の捕食動物に対する都会の鳥の警戒心全般は、下がっているのか。学習による後天的な警戒心の変化と共に、都市に生息する動物集団の遺伝的な進化は起こっているのか。などなど新しい課題もみえてきました。

 アーバンベアに対しても、同様のことが言えます。人と野生動物の関わり方や距離感を考えなければならない時、東京の鳥からも様々な知見が得られると期待されています。

 

 しかしながら、オジさんの鳥に対する警戒心が高い理由は、自分でもわからない。生理的にダメなのだ。焼き鳥は大丈夫なのに。



 

 

 

 

 

 

や・そね

 

<参考資料>

「都市の鳥はリスク回避しない傾向を持つ~大都市東京で野性鳥類の警戒性の低下を実証」

2026年1月8日 国立科学博物館プレスリリース

湖底に眠る宿場町

オジさんの科学vol.121 2026年1月号

湖底に眠る宿場町

 「宝の山よ」と謡われる福島県会津磐梯山」。麓に大学の研究所だったか合宿所だったがあった。そこに同期10人で寝泊まりしてフィールドワークの実習(巡検)をした。猪苗代スキー場にも何度か行った。子供が小学生だった頃に、家族で裏磐梯五色沼のハイキングコースを歩いたこともある。五色沼には、赤や青、緑などの様々な色の沼や小さな湖が点在する。

 

 海洋研究開発機構JAMSTEC/ジャムステック)などの研究チームは、昨年12月に「湖底に眠る宿場町を地球科学的手法で3D復元」したと発表しました。
 湖底に眠る宿場町とは、五色沼の隣にある「桧原湖」の底にある「桧原宿」のことです。まるでドラクエに出てくるような設定です。

 

 桧原湖五色沼は、1888年明治21年)の磐梯山の噴火によってできました。山がごっそりと崩れ去り(山体崩壊)、土石流で河川がせき止められ、つくられました。桧原湖は、約10㎢の細長い湖です。

 そして桧原宿は、この時に水没しました。江戸時代に会津若松と米沢を結んだ米沢街道の、会津領の国境近くに位置した宿場町でした。

 

 研究チームは、「マルチビーム音響測深」という技術を使い、130年以上も前に沈んだ湖底の街並みを3次元的に再現し、立体図を作成しました。船に搭載したソナーから音波を発射して、水深を測定します。多数の音波を扇状に放射することで、複雑な地形や水中の構造物を高精度・広範囲に計測しました。

 

 立体図と、水没前の明治初期に作られた地籍図を照合すると、町割り、道路、水路と思われる構造が見えました。

 現在、桧原湖の湖面には、頭を出した二の鳥居が見えます。その奥には一の鳥居と桧原山神社があります。一の鳥居と二の鳥居を結ぶ湖底には、参道があり、並木も残っていました。

 街道が、町の中で直角に折れ曲がっています。住宅地や農地、水路は、小規模な扇状地の地形と水の流れを巧みに利用してつくられていることも判りました。

 「近世、近代に栄えた宿場町が自然環境に適応した合理的設計を有していたことが明らかになりました」と研究チームは言っています。

 

 湖底では、堆積物が宿場町を覆っていました。そのため、一里塚や橋などの構造物は、よく確認できませんでした。今後は低周波を湖底に照射し、堆積物の様子や埋没した構造物の位置や規模をつかんでいくそうです。

 

 今回の発表は、2つの観点から興味深いと思います。

 一つは、「災害遺構」の調査という点です。自然災害の跡は、時と共に変わってゆきます。当然のことながら被災地は復旧されます。かつての災害の痕跡は、消え去る場合が少なくありません。

 過去の災害を記憶に留めて後世に伝えることで、防災・減災に役立てようと残すものを、災害遺構(被災遺構)と呼びます。

 

 建物、防潮堤などの構築物、断層や巨石などの自然物、石碑、写真、資料などの記録、活動、語り部、慰霊祭などの活動、などの総称です。 例えば、東日本大震災で残された陸前高田市の「奇跡の一本松」も災害遺構と言えます。仙台平野に並ぶ古墳群は、弥生時代東日本大震災級の津波が押し寄せてきた淵に作られた古代人の災害遺構だとする研究もあります。

 

 磐梯山噴火による犠牲者は477名にも上り、近代以降で日本最大級の火山被害と言われています。桧原宿も「災害遺構」と考えられます。

 

 二つ目は、「水中遺跡」の研究としての観点です。

 古い建物は取り壊され、新しく建て替えられます。かつての都も、今は畑になっていたりします。地上では、遺跡の保存よりも、そこに暮らす人々の生活が優先されます。

 一方で、湖底や海底などは、人の手が加わりません。また、酸素が少ないことから遺跡や遺物が当時のまま残っていることが多いといわれます。近年探索や再現、保存、分析などの技術が進歩し、これらを研究する「水中考古学」が発展しています。

 

 日本でも、様々な調査が行われています。日本初の水中遺跡は、諏訪湖の湖底にある「曽根遺跡」です。縄文時代の石の矢じりなどが発見されています。琵琶湖の湖底には100以上の遺跡が沈んでいると言われます。

 また、長崎県松浦市鷹島沖の海底では、740年以上前の元寇(げんこう)で沈没したモンゴル軍の軍船が3隻発見されました。これにより、これまで文献のみで語られてきたモンゴル軍の実態に迫ることが出来ると期待されています。

 今年に入り、戦艦大和と共に沈んだ駆逐艦「朝霜」らしきものが海底で発見された、というニュースもありました。

 

 世界6位の長さの海岸線を持ち、水と密接にかかわる日本には、数多くの水中遺跡や遺物があると考えられています。1万5千年ほど前までの最終氷期と呼ばれる時代、海水面は今より100m以上低いところにありました。その時代の人々の村や生活の跡が、きっと海中に残されているはずです。

 

 水中探索というと、沈没船探しのトレジャーハンターを思い浮かべるかもしれない。しかしそれだけではない。水の底には、人類の宝が眠っている。

 

<参考資料>

「湖底に眠る宿場町を地球科学的手法で3D復元 ―1888年磐梯山噴火で沈んだ「桧原宿」を科学が甦らせる―」2025年12月22日 海洋研究開発機構京都大学東海大学北塩原村高知大学プレスリリース

「水中遺跡ハンドブック」 2022年3月 文化庁文化財第二課

 

斎野裕彦2024「仙台平野における 弥生津波伝承と古墳前期首長墳の築造位置」  第3回 日本災害・防災考古学会研究会資料・予稿集 142-157, 2024-09-24

 

ウマクイズ解答編


あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

オジさんの科学2026年新春特別号ウマクイズの答えです。


第1問

ヒトとウマには、他の動物にはない共通点があります。それは、以下のうちどれでしょう。

1. 一夫一妻制 2. 全身で汗をかく 3.瞳孔が丸い

答え:2

ウマもヒトも数少ない全身で汗をかく動物です。それによって体温を低下させて長時間の運動を可能にします。ウマの汗は、大量にかくと石鹸の様に泡立ちます。ウマは、リーダーのオスと複数のメスで群れを作ります。ウマの瞳孔は横長です。

 

第2問

英国ウェールズ地方で毎年6月に開催される「人対馬ラソン」。数百人と数十頭が21~24マイル(約34~39km)の山岳路で競います。これまで実施された44大会の優勝回数は以下のうちどれでしょう。

1.馬の全勝 2. 馬の39勝5敗 3.馬の25勝19敗

答え:2

2004年第25回大会で初めて人が勝利しました。その後2007年、2022年、2023年、2025年に人が勝利しています。馬はすごいが、人も結構すごい。両者とも全身で発汗できるため体温維持が図れます。そのため長距離移動に優れています。

 

第3問

鉄腕アトムは10万馬力です。さて10万馬力とは、F1マシン何台分の出力にあたる?

 1.F1マシンのエンジンとほぼ同じ(1台分) 2.約10台分 3.約100台分

答え:3

現在のF1マシンのエンジン馬力は、ハイブリッドシステムを含めて約1,000馬力です。10万馬力は、この約100台分に相当します。

 

第4問

オリオン座の三つ星の下にある真っ黒な「馬頭星雲」。有名な暗黒星雲です。これは何の影響で黒く見えるのでしょうか。

 1.暗黒エネルギー(ダークエネルギー)2.暗黒物質ダークマター) 3.塵やガス 

答え:3

非常に温度の低い塵やガスが後方の光を遮っているため、真黒に見えます。ここは、星の赤ちゃんが生まれる場所でもあります。太陽も46億年前にどこかの暗黒星雲の中で生まれました。

 

第5問

ウマは奇蹄目というグループに分類されます。奇蹄目では無い、仲間外れの動物は?

1.カピバラ 2. サイ 3. バク

答え:1

奇蹄目は、奇数の蹄を持つ動物。ウマとサイとバクの仲間が、これに属しています。偶数の蹄を持つウシやラクダ、カバ、シカ、ヤギ、キリン、イノシシの仲間、そしてクジラの仲間などはクジラ偶蹄目というグループになります。