オジさんの科学vol.126 2026年6月号
こう見えても、と言っても見えないだろうが・・・、オジさんはバイク小僧だった。バイト先は菅生サーキット。往復はもちろんバイク。バイトを終え、学部に戻ってきたある日。ややスピードを出しすぎてカーブに侵入してしまった。路面が外側に傾いた逆バンクだったこともあり、後輪が滑りだした。とっさにカウンターを当てスロットルを開いて曲がり切った。バリバリ伝説の主人公みたいだった・・・。左カーブだった。右だったら多分コケていた。オジさんは、走りも歩きも左回りの方が得意だ。

今月、スペインと日本の共同研究チームが、「ヒトは、無意識のうちに左回りに動く傾向がある」と発表しました。
発端は、以前に行ったコロナ禍における研究だったそうです。1つの空間に何人いるとソーシャルディスタンスが保てなくなるか、参加者に歩いてもらい、2mの距離を保つことが出来る最大人数を測定しようとしました。
その解析の最中に、人々の動きを平均すると、中心の周りを回転してることに気づいたそうです。しかもその回転方向は、左回り(反時計回り)でした。
今回、まずスペインのナバラ大学の研究者たちが、半径5mの円形の囲いの中を自由に歩いてもらう実験を行いました。
<実験1>
実験の前に、参加者をテストしました。壁に向かって歩いてもらい、突き当たると左右どちらに方向転換するかを調べました。そして左折者と右折者に分類しました。オジさんは、絶対左折者です。
左折者と右折者の割合を、様々に変化させました。右折者が多ければ、右回り(時計回り)の回転が起こると予想されました。ところが、右折者を100%にしても左回りが起きました。また、参加者の密度を変化させても、左回りに回転しました。
33回の試行の内、32回が左回りでした。右回りと左回りになる確率が半々なら、ざっくり33/233として計算すると、約2億6千万回に1回しか起こり得ません。
次にスペインでは、開けた空間でも実験を行いました。
<実験2>
明確な境界が存在しない約50m×60m程の中学校の校庭が使われ、107名の生徒が参加しました。参加者には、立ち止まらずに集団も作らず、自由に歩き回ってもらいました。その結果、実験1と同程度に左回りの回転運動が現れました。このことから、左回りは境界との相互作用が主要因ではない、と確認されました。
そこで、研究チームは、スペインの歩行習慣がこの現象を引き起こすのではないかと疑い、日本でも実験を行いました。
<実験3>
スペインを含むほとんどのヨーロッパ諸国では、正面から来る人とすれ違う時、右側に避けるそうです。一方日本では、左に避ける傾向があります。このことは、事前のアンケートでも確認されました。
「車は左、人は右」と教わったオジさんは、右側を歩くようにしています。右に避けようとして、時々ぶつかりそうになります。
東京大学で行われた実験は、椅子で区切られた半径4mの円形の囲いの中で行われ、39名が参加しました。結果、日本でもスペインと同等の左回りの回転運動が現れました。
さらに日本のチームは、保育園児の運動データを解析しました。
<実験4>
先生がピアノを弾く中で、園児たち(約5歳)に部屋の中を自由に動き回ってもらいます。この様子を録画したビデオを調査しました。園児たちは、他の大人の実験よりも、安定した左回りの渦を形成していました。
このことにより、左回りは経験や学習に影響されたものではない、という可能性が示唆されました。
幼稚園児のオジさんは、勝手な行動をしがちと、よく注意されました。
無意識の集団心理があるのか?ナバラ大学の学生たちにアンケートを行いました。
<実験5>

実験には、168人の学生が参加しました。
参加者に、右の図を見せて「あなたは、この中の1人です」「Q1あなたは、左回り、右回りどちらに動きますか?」「Q2ほとんどの人は、どちらに動くと思いますか?」「Q3他人は、あなたにどちらに動くと期待してると思いますか?」という3つの質問をしました。
答えは、かなりバラバラでした。しかし、その中でも一番多かったのは、Q1~Q3すべて右回りという回答で、全体の約40%もありました。多くの人は、左回りの運動が起こるとは考えていませんでした。つまり、暗黙の了解で左回りの渦が出来るのではないという事です。
オジさんの答えは、すべて左回りでした。
研究チームは、最後に単独歩行の実験を行いました。
<実験6>
ナバラ大学で行われた実験には、209名が参加しました。参加者は、事前に利き手、利き足、利き目を調べられました。また、片目に眼帯をつけた49名にも歩いてもらいました。
それぞれに、一辺が4.6mの六角形の囲いの中を歩いてもらいました。すると、個人の動きそのものが左回りに偏っているという結果が出ました。また、左右どちらに回るかと、利き手、利き足、利き目、そして眼帯も関係がないことも判りました。
オジさんの利き手は右、利き足も右、利き目は左です。
東京大学の発表によると、「人々がランダムに歩行する際、反時計回り(左回り)に動く人が全体の65%を占めている」とのことです。

今のところ、なぜ左回転が起きるのか判っていません。また、全員が必ず左回りに動くのでもありません。研究チームは、この現象の解明に向けて、生物学的あるいは神経学的な研究が必要と考えています。VR(仮想現実)を使う実験も考えているようです。
また、空港、駅、博物館や展示会、ショッピングセンターの通路は、歩行者の快適性と流れの呼応率を向上させるために、左回りのバイアスに従うように設計できる可能性があると言っています。
スーパーの動線を左回りにしたら、売上が上がるのだろうか。駐車場への誘導路を左回りするとイライラが減るのかも。劇場や展示会の避難口は、主動線の左側にあった方が効果的かも。広場やフードコートの出入口も左回りを考えて設計するとか。
オジさんは、年老いた自分を思い描いてみた。左回りの動線の方が、コケないような気がする。
や・そね
<参考資料>
Individual locomotor bias drives counterclockwise motion in pedestrian crowds Nature Communications volume 17, Article number: 4869 (2026)
https://www.nature.com/articles/s41467-026-73713-w
「ランダムに歩行していると、多くの人は反時計回りに曲がる」2026年6月10日 東京大学、早稲田大学プレスリリース
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/hubfs/press-release/2026/0610/001/text.pdf
人間は「反時計回りに歩く」のを好む、研究で判明 2026年6月12日 ナゾロジー
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/196331#google_vignette















