オジさんの科学vol.125 2026年5月号
山火事に挑む
~ロバ大隊と音波消火~

大船渡市や大槌町で猛威を振るった山火事。アメリカ史上最悪と呼ばれる山火事が、ハワイやロサンゼルスで相次ぎ、世界に発信されました。ヨーロッパでも2025年は過去最悪の被害となり、EU全体で東京都に神奈川県と千葉県を足したより広い面積が焼失したそうです。
今回は、多発する山火事と闘うユニークな取り組みを紹介します。
モノが燃えるためには、「熱」と「酸素」そして「可燃物」が必要です。一度火が付くとさらに温度が上がり、連鎖反応で燃え広がります。
しかし、どれかが欠ければ火事は広がりません。
そこで、水をかけて熱を奪い、可燃物の温度を下げる「冷却消火」。不燃シートや消火器の泡、二酸化炭素などで火元を覆い、酸素の供給を断つ「窒息消火」。江戸時代の火消しが延焼する建物を取り壊すように、可燃物を取り除く「除去消火」などを行います。さらには、火事によって発生し、次々と化学反応を引き起こす物質を、別の化学反応で取り除く「抑制消火」という方法もあるそうです。消火の基本はこの4つです。
大槌町の山火事のニュースでは、水が足りなくなり、スコップなどを使って下草を叩いての消火作業を行う様子もニュースで流れていました。
スペイン各地でも多くの山火事が発生しています。2025年は、8月までに埼玉県ほどの面積が焼けてしまったそうです。その背景には、暑さや干ばつだけでなく、過疎化という事情もあるそうです。人や家畜が減り、草木が伸び放題になっているからです。
対策として、アンダルシア州にあるドニャーナ国立公園では、ロバたちが活躍しています。彼らは「ドニャーナ山火事予防ロバ大隊」です。乾燥したかたい草や枝を食べることで可燃物を取り除いています。
ロバたちは、5頭ひと組。3月から11月にかけて戦術計画に従って行動します。毎日担当エリアに赴き、パトロールをします。その間に縦40m、横15mほどの帯状の範囲を食べ進みます。それぞれ1日に30Lの水を飲み干し、7時間の活動を終えるそうです。仕事終わりに、生ジョッキを飲み干すサラリーマンのようです。
エリア内の可燃物は、すっかり食べつくされて、火災リスクは大幅に軽減します。村の周囲に可燃物が少ないエリアが形成され、火災の拡大が抑制されるのです。

ロバは、乾燥した荒野や山岳地帯などの過酷な環境も生き抜いてきたことで、他の家畜が無視するトゲのある低木やガサガサに乾いたかたい雑草を好んで食べます。そのため「プロの草刈り機」と呼ばれるそうです。
また、斜面も得意なのだそうです。同じように斜面が得意なヤギの食事量の10倍も食べるそうです。さらに、ヤギの3倍も重いので、動き回る時に植生を効率的に潰していくそうです。
現在、大隊には18頭ほどが所属しているようです。ドニャーナ国立公園では、過去9年間山火事は一度も記録されていません。そしてこの活動は、スペイン各地に広がりつつあるそうです。
音を使って山火事を防ごうという試みが進められています。
米国のスタートアップ企業「ソニック・ファイア・テック」が、山火事防御システムの開発しています。元NASAの音響エンジニアも関わっているそうです。
「音波によって速く振動させた酸素を可燃物は利用できなくなる。それによって燃焼反応を阻止する」という仕組みです。
音波によって消火しようという研究は、20年近く前から進められていたようです。手術室やデータセンターの様に精密機械が置かれている場所、美術館や図書館などでは、水や薬剤による消火では貴重な機材や資産が失われる可能性があります。また、宇宙ステーションでの応用も期待されていました。
しかし、狭い密閉空間で強力な音波を放射すると、壁や天井に音が跳ね返って乱反射(エコー)を起こし、火元にエネルギーを集中させにくくなります。また、大きな音の騒音被害も問題でした。
ソニック社は、屋外に向けて使用する、そして超低周波音を用いる、と発想を転換しました。従来の試みでは、30~60ヘルツの音波が用いられていました。ヒトの可聴域は20~20,000ヘルツと言われています。同社は、ヒトには聞こえない20ヘルツ以下の帯域を使っています。
まだ、燃え盛る木々を消火できるほどの効果は期待できませんが、最大約7.6m離れたところからの消火を実証しています。近づいてくる山火事から植栽や壁、屋根に飛び火する炎を消そうという試みです。

システムは、センサーが炎を検知すると自動的に作動します。電動モーターを使って駆動されるピストンを使って音波を発生させ、建物の屋根と軒下に設置された金属製のダクト内を伝播させます。音を使った一種の防御シールドをつくりだすそうです。
ソニック社のデモンストレーションを見る限りでは、威力や効果はまだまだだと感じます。同社は、米国カリフォルニア州の2つの自治体の消防本部と協力して技術の実証を進めているとのこと。一般の住宅とも契約を結んでおり、今年前半までに50件の試験的な設置を目指しているそうです。
7000年も前に家畜化されたロバから最新鋭の音響装置まで。山火事との戦いには、様々な試みがなされています。
や・そね
参考資料
山火事予防にロバ、どういうこと? スペインで活躍
『ナショナルジオグラフィック』News
2026年4月24日 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/26/031800154/
『令和8年全国都道府県市区町村別面積調(1月1日時点)』 国土地理院
消防テクノロジー最前線 『Newton』 2026年4月号
音波消火 『Natureダイジェスト』 2026年5月号
音波を使って炎を消す画期的な消火器が実用化に向けて前進(アメリカ)
不思議と謎の大冒険サイト『カラパイア』
2026年4月15日 https://karapaia.com/archives/596415.html
Sonic Fire Tech HP https://www.sonicfiretech.com/













