オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

白くて丸くて寒い

オジさんの科学vol.098 2024年2月号

 暖冬と言われる。地球温暖化と騒がれる。雪を待っているうちに、オープンできなかったスキー場もあるらしい。オジさんが子供の頃は、もっと寒かったし雪も多かった。

 

 学生時代は、ヒッチハイクやら野宿やらで、フラフラしていた。大学1年の冬、同期とフラフラ真冬の北海道に行った。ヒッチハイクはできないので周遊券を買った。さすがに野宿をする勇気はなかった。贅沢なユースホステル泊りは稀。列車や無人駅に泊まった。ある日、オホーツク海沿岸の無人駅に泊まろうと雪のホームに降り立った。ところが4畳半もない駅舎は、窓ガラスが無く、吹きっ晒し。手持ちのシートで窓を塞ぎ、シュラフにもぐり込んだ。翌朝、目を開くと真っ白だった。シートは吹っ飛び、顔に雪が積もっていた。ラジオは、最低気温がマイナス17℃だったと告げていた。

 

 かつて地球全体が、ずっと寒かった時期がある。今から2万年ほど前、いわゆる氷河期には、年間平均気温が今より5~6℃も低かった。マンモスがいて、人類の祖先はベーリング海峡を歩いてアメリカ大陸に渡った。

 しかし最近、氷河期も比較にならない程の寒い時期があったことが判ってきた。赤道付近の年間平均気温が、マイナス30℃以下だったと考えられている。

 

 学部のフィールドワークで塩釜漁港の冷凍倉庫に入った。マイナス30℃。あっという間に鼻毛が凍る。息をすると痛い。

 ちなみに、南極の昭和基地が観測以来記録した最低気温は、マイナス45.3℃。年間平均気温は、マイナス10℃だそうだ。



 海もすべて凍った状態になる。全体が氷で覆われた地球を宇宙から見ると、白く輝いていたはずだ。「スノーボールアース」と名付けられた。日本語では「全球凍結」「全地球凍結」などと呼ばれる。

 スノーボールアース仮説は、1992年米国カルフォルニア工科大学のジョセフ・カーシュビンク博士によって提唱された。

 

 地層に残る磁気を分析すると、地層が形成された時の緯度が判る。古地磁気学という分野だ。1986年、「南オーストラリアにある6~7億年万の氷河性堆積物の地層ができた時の緯度は、5度であることが判った」という論文が発表された。ほぼ赤道直下である。

 

 古地磁気学の専門家のカーシュビンク博士は、これを信じなかった。きちんと検証すれば、誤りを証明できると考えた。地層の褶曲による影響なども考慮し、調べなおした。すると間違いではないことが判った。なんと赤道直下に南極の様な氷床があったことを、自ら証明してしまったのだ。博士は、非常に複雑な心境になったそうだ。そしてある日、博士はベッドに横たわっているときに素晴らしいアイディアを思いついた。それがスノーボールアース仮説だった。

 

 スノーボールアース仮説は、様々な議論や反論を呼んだ。1998年に米国ハーバード大学のポール・ホフマン教授が、科学誌『Science』にスノーボールアースの決定的な証拠を発見したと発表した。世界各地で見られる6~7億年前の氷河系堆積物に付随してみられる地層の様々な特徴や謎をスノーボールアースによって説明できると言った。

 

 現在でも、詳細については議論が続いている。しかし大枠では受け入れられているようだ。では、なぜスノーボールアースになったのか。

 地球の気温は、「太陽からのエネルギー供給」、「地表の反射率」「大気の温室効果」の3つによって決まる。雲や塵で太陽が隠されると、光が地表に届かなくなり気温は下がる。地面が白い雪や氷におおわれると、反射率が増して気温が下がる。大気中の二酸化炭素などが減ると、温室効果が低下し気温が下がる。しかし、何が原因でこれらのどれが起こったのか、残念ながら確定していない。

 

 2月9日、学術誌『Science Advances』に新説が発表された。小惑星の衝突だ。衝突によって巻き上げられた塵がどのような影響を及ぼすか、様々なシミュレーションが行われた。恐竜を絶滅させた時の様な、暖かい時期には凍りつくことはなかった。一方、すでに気候が寒冷になっている場合は、スノーボール状態になる可能性が示された。


 スノーボール状態は、数百万年続いたと推測されている。では、そこからどのように脱出したのだろうか。ざっくりいうと「超温室効果」。スノーボールアースをよく見ると、ところどころにニキビが見えたはずだ。火山だ。火山活動は、気温には影響されない。

 スノーボールアースの大気は、水分がすべて凍ってしまっているため、冷たく乾いている。雨がないので火山から放出されたCO2が除去されない。COはどんどん溜まり、激しい温室効果を発揮し、気温を上昇させたと考えられている。

          



 6~7億年前のスノーボールアースは、2回あったと推測されている。さらに昔、22億年前にも起こったのではないかと考えられている。そして両方ともその前後に、地球上の酸素が急激に増大した。

 また、生物の爆発的な進化が、スノーボールアース直後に起こったとも言われる。

 大きな試練が、生物進化の引き金になったのかもしれない。オジさんも、いろいろな寒さを経験した。酔って寝込んだ雪の中からカミさんに救出してもらったこともある。社内の冷たい視線や世間の風当たりの強さにも耐え忍んだ。だから、・・・・・・・。

 

<参考資料>

書籍

『凍った地球 スノーボールアースと生物進化の物語』 田近英一 新潮社選書

『地球46億年気候変動』 横山祐典 BLUE BACKS

 

雑誌

日経サイエンス』2000年4月号 氷に閉ざされた地球

 

WEB

ナショナルジオグラフィックニュース2024.02.16

 「スノーボールアース」、小惑星の衝突が引き金だった、新説

            https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/24/021500093/

 

気象庁ホームページ 昭和基地

https://www.data.jma.go.jp/env/ghg_obs/station/station_syowa.html

 

国立極地研究所ホームページ 研究成果 

『最終氷期南極大陸の気温低下と氷床高度の見積もりを刷新』

https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20210617-3.html