オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

海の虫捕り、山の貝獲り

オジさんの科学vol.091 2023年7月号

 小中学生は、もう夏休みに入っていると思う。夏休みといえば、自由研究だ。自由なテーマで研究すればよかったのか、研究するもしないも自由だったのか、記憶が定かではない。プリント類は提出間際に慌てて書き込んでいたが、自由研究は準備や観察、実験などで大変だった。

 自由研究の定番と言えば、昆虫採集。自然が少なくなったとはいえ、まだまだ昆虫は身近な存在だ。今朝も近所の公園で、セミの抜け殻を5つも発見した。最近の昆虫標本には、採集地に「コーナン」や「道の駅」と記載されているとかいないとか。

 

 ところで、海水浴に行ったついでに海の昆虫を採ることはできない、って知ってた?

 

 昆虫が出現したのは、4億年以上も前。恐竜よりもずっと早い。甲殻類の仲間なので、エビやカニとは親戚関係にある。イナゴの佃煮の食感は、小エビの佃煮にそっくりだ。

 地球上の昆虫は、100万種類以上。これは現在知られている生き物の中で最も多い。陸上では、大繁栄している。

 しかし、海に生きる昆虫は、ほとんどいないのだ。池や川の水の中には、ゲンゴロウやミズスマシ、タガメなどがいるのに。

 クジラやイルカやシャチなど、海に帰った哺乳類はたくさんいる。爬虫類もウミガメやウミヘビ、ウミイグアナなどが棲息する。

 

これまで、昆虫が海にいない理由として「高い塩分濃度に適応できない」「水圧で気管が壊れる」「魚に食べられる」などが挙げられてきた。しかし、どれも説得力があるとは言えなかった。

 現在最も有力なのは「甲殻類が頑張っているので、昆虫が海に戻るスキがない」という仮説。甲殻類と昆虫は、エサや棲む場所などで競合する。甲殻類という強い先住者がいるので、昆虫は潜り込めないという説だ。

 

 今年4月、東京都立大学杏林大学の研究チームが、『昆虫界の大問題=「昆虫はなぜ海にいないのか」に関する新仮説』を発表した。

 研究チームは、「外骨格」に注目した。甲殻類も昆虫も、外側を殻で覆って体を支えている。甲殻類の外骨格は、海水にふんだんに含まれるカルシウムによって硬くなっている。そのため重い。一方で、昆虫は、特殊な酵素によってカルシウムを使わずに軽くて硬い外骨格を作ることに成功した。昆虫が飛べるのはそのためである。そして大繁栄。しかし、この反応は、酸素が無いと働かない。

 つまり、甲殻類がカルシウムの殻を簡単につくれる海は、酸素不足で殻をつくりづらい昆虫にとって不利な場所なのだ。

 池や川の場合は、酸素も少ないがカルシウムも少ない。だから甲殻類も殻を作るのに苦労する。したがって昆虫を圧倒して排除することができない、と研究チームは考えている。

 

 海では、昆虫採集が、できません。潮干狩りを楽しんでください。

 では逆に、山に貝はいるのでしょうか?

 海で虫捕りはできませんが、山で貝獲りはできます。

 

 陸上にも巻貝の仲間がたくさんいる。「陸貝」と呼ばれる。そう、カタツムリの仲間だ。現在、日本には約800種ほど棲息している。ウチのマンションの階段でさえ見かける。海に棲む貝から進化したものだが、肺呼吸なので水の中では溺れてしまう。

 

 カタツムリは、山の中だけでなく、雑木林、竹林、公園、市街地などの木の幹や葉の上、落ち葉の下、朽木の陰、苔むした石垣、コンクリートの壁、側溝や電柱、ガードレールなどいたるところで見つけることができる。採集場所や種類などをちゃんと調べれば、自由研究になりそうだ。

 

 2015年に岡山県でカタツムリの新種が発見された。発見したアマチュア研究家の多田昭さんに因んで、「アキラマイマイ」と名付けられた。このカタツムリは、岡山県南部や瀬戸内の島々にのみ生息する。市街地など身近なところにいたのだが、これまで見過ごされてきた。カタツムリ採集が、大発見につながる可能性もあるのだ。

 

 カタツムリは昆虫より長生きで、3~5年は生きるという。観察日記もありかもしれない。多くのカタツムリは、植物食の雑食だと思われている。しかし、野外でどんなものを食べているのか、詳しくは判っていない。色々な野菜で、何を食べるか実験することも出来そうだ。

 

 さらにもうひとつ、山で貝を採る方法がある。貝の化石掘りだ。オジさんの地元の仙台には、竜ノ口渓谷という貝化石が簡単に見つかる場所がある。広瀬川の支流で市街地にほど近い。子供の頃は、ここに何度も足を運んだ。

 

 夏休みの自由研究、今もあるのだろうか。オジさんは父親に色々と手伝ってもらった。普段はとても怖かった。勉強を教えてもらう事などもなかった。でも、自由研究だけは、一緒に付き合ってくれた。竜ノ口渓谷に連れて行ってくれたのも父親だった。

や・そね

<参考資料>

 

プレスリリース

『驚異の新種! アキラマイマイ 〜「晴れの国おかやま」を象徴するかたつむり〜 』

2015年1月13日 国立科学博物館岡山大学

 

『昆虫学の大問題=「昆虫はなぜ海にいないのか」に関する新仮説』

 2023年4月18日 東京都立大学杏林大学

 

研究論文

T., Hashimoto, K. & Everroad,R.C. (2023) Eco-evolutionary implications for a possible contribution of cuticle hardening system in insect evolution and terrestrialisation. Physiological Entomology, 1–6. Available from: https://doi.org/10.1111/phen.12406

 

書籍

脇司 2020年 『カタツムリ・ナメクジの愛し方 日本の陸貝図鑑』 ベレ出版