オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

お世話になります。ニワトリさん。

オジさんの科学vol.089 2023年5月号

 

 

 今年は、吉野家の親子丼の販売が見送りになった。鳥インフルエンザが招いた卵不足によるものだ。ガストはオムライスの販売を休止し、バーミヤン天津飯と天津チャーハンの提供をストップした。スーパーでも卵は、高騰している。

 ニワトリさん親子には、日頃から大変お世話になっている。朝のTKGは、手早くタンパク質が摂れて便利。昼はフライドチキンを食べて、夜は焼鳥屋で一杯。

 世界で飼われている家畜で最も多いのがニワトリだそうだ。鳥なので、家禽だが。年間に世界中で650億羽も食べられるという。

 

 ニワトリの祖先は、中国南部から東南アジアに生息するセキショクヤケイ(赤色野鶏)といわれる。飼われ始めたのは、8,000年前とされる。イヌやネコよりもずっと最近だ。当初は「太陽(朝)を呼ぶ」神聖な生き物とされていた、と考えられている。

 古事記の中に、スサノヲの蛮行に怒ったアマテラスが、天の岩屋戸に隠れる話がある。すると世界が真っ暗になる。そこでアマテラスを呼び戻そうと、ニワトリを集めて鳴かせるシーンが出てくる。ウソの夜明けを演出した訳だ。

 

 

 ニワトリが日本で飼われるようになったのは、いつ頃なのか?日本最古のヒヨコの骨を発見した、と北海道大学東京大学などの研究グループが4月に発表した。

 これまでも、弥生時代には日本に持ち込まれたと考えられていた。しかし弥生時代のニワトリの骨はほとんどが雄で、国内で繁殖させることが出来たかどうかが分かっていなかった。

 

 研究グループは、奈良県の唐古・鍵(カラコ・カギ)遺跡から見つかった、キジ科とみられる雛の骨を分析した。形からはニワトリのものかどうか特定できなかったため、骨に残されたコラーゲンを使って分析した。その結果、野生のキジやヤマドリのものではなく、ヒヨコであることが判った。また、放射性炭素年代測定により紀元前3~4世紀の弥生時代のものであることが判明した。

 

 ヒヨコがいたということは、ニワトリが継続的に飼育されていたと推測される。このニワトリが、何の目的で飼育されていたかは分かっていない。

 セキショクヤケイは体重1kg弱で、年間の産卵数も4~8個。古代のニワトリは、現代のニワトリと比べると肉量も産卵数も少なかったと考えられている。

 聖なる生き物として飼われていたのかもしれない。または、闘鶏のような娯楽用だったのかも。それとも美しい羽根を装飾品として用いたのかしら。観賞用、愛玩用だった可能性もある。

 

 唐古・鍵遺跡は、吉野ヶ里遺跡と並ぶ、日本最大級の弥生集落。直径400mの環濠に囲まれた大型遺跡で、高床倉庫や大型の竪穴住居、貯蔵穴、井戸などの遺構が発見されている。楼閣があったのではないかとも言われ、邪馬台国と関連するという説もある。
 卑弥呼も、ニワトリの羽根を身に纏い、たまにはTKGを食べていたのかもしれない。

 

 古墳時代、農耕に従事する人たちは卵を採るためにニワトリを飼っていた。そして卵を産まなくなったニワトリを食べる習慣もあったようだ。

 飛鳥時代に、肉食禁止令が発令されて以降、肉食はタブーになった。しかし鳥類は例外だった。

 江戸時代初期の料理本には、カモやキジ、サギ、ウズラ、ヒバリなど18種の野鳥が載っている。その頃のニワトリは、卵を産む家禽として飼育されていた。しかし採卵終了後のニワトリを食べる習慣は、ひっそりと続いていたようだ。

 

 1800年代以降、乱獲により野鳥が獲れなくなった。一方で養鶏が盛んになり、トリ肉が食べられるようになった。関西では「かしわ」と呼ばれ、葱鍋として食べられた。関東では「しゃも」と呼ばれた。

 養鶏の活性化により、卵の価格も低下した。それに伴い卵料理も一気に増えた。『万宝料理秘密箱 卵百珍』という料理本には、103種類もの卵料理が掲載されている。「金糸卵」「銀糸卵」「茶巾卵」「卵素麺」「卵田楽」と美味そうなレシピが並んでいる。「家主貞良卵」は、まさにカステラだ。

 

 現代の日本人は、年間で一人平均約340個も卵を食べている。トリ肉を使った料理も数知れず。世界中の人たちが、卵とトリ肉を食べている。ニワトリいなければ、人類のタンパク源は確保できない。

 

 ところで、オムライスを食べていて疑問に思ったことがある。例えば、親子丼からトリ肉を抜くと、これはまごうことなき玉子丼である。一方オムライスは、中身がチキンライスであっても、そうじゃなくてもオムライスと呼ぶ。チキンライスが中身の場合は、本来親子ライスと呼ばなければならないのではないだろうか。

 ニワトリさんには、親子でお世話になっているのだから。

 

<参考資料>

プレスリリース

『ニワトリの起源を探る ~遺伝情報彼わかる人とニワトリの歴史~』 

2021年1月22日 名古屋大学

『日本最古のニワトリの雛を発見 ~弥生文化におけるニワトリの飼育の解明~』

            2023年4月20日 北海道大学東京大学田原本町教育委員会

 

書籍

三浦佑之 『口語訳 古事記 [神代篇]』 文春文庫 2006年

安藤優一郎 『大江戸の飯と酒と女』 朝日新書 2019年

 

WEB

田原本町 「唐古・鍵 総合サイト」

http://www.town.tawaramoto.nara.jp/karako_kagi/iseki/about.html

日経電子版 トピックス「卵不足」(2022年12月23日~2023年5月11日)

人文科学オープンデータ共同利用センター『万宝料理秘密箱 卵百珍』

http://codh.rois.ac.jp/edo-cooking/tamago-hyakuchin/?utm_source=pocket_saves

 

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