オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

世界のタムじいさん

 リオ五輪が終わり、睡眠不足から解放された人も多いだろう。スポーツを観るだけで疲れてしまった。
 8月11日が山の日として今年(2016年)から施行された。8月の祝日は、ありがたい。年老いたオジさんたちにとっては、体力回復の日だ。
 一方で体力が有り余っている中高年も多いようだ。山ガールだけじゃなく、山オジさんや山オバさんも増加しているらしい。

 先日、同僚が富士山に登った。彼は50歳半ばにして山に目覚めた。夏は暑いからゴルフをお休みして、登山にしたのだそうだ。
 ところが帰ってきたら「もう二度と行かない」と言っている。ご来光を見るツアーで仮眠しか取らずに夜に登ったらしく「しんどくて寒かった」そうだ。
 2015年の8月中旬の富士山頂の最低気温は1.7~5.0℃。東京の真冬並みである。準備も装備も大切だ。
 ボクは未だ富士山に登ったことが無い。いつか寒さ対策をしてご来光を見に行こう。

 富士は日本一の山。今回は世界一大きな山の話をします。太陽系最大級の超巨大火山とも言われている「タム山塊」の話です。

 生まれたのは1億4500万年前。かなりのご高齢である。「タムじいさん」と呼びたい。すでに現役の火山ではない。
 産声を上げたのは、中生代ジュラ紀から白亜紀へと替わりつつある頃。恐竜が全盛期の時代だ。
 かつて、海の上に顔を出していた時期もあるようなので、ステゴザウルスやイグアノドンが、歩く姿を見かけたかもしれない。始祖鳥の羽ばたきは見ただろうか。
 じいさんが居るのは、日本の東約1,600kmの太平洋の中。東京から那覇まで位の距離。日本のお隣さんだ。

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  タムじいさんはとにかくデカい。面積は31万k㎡。本州に北海道を足した面積とほぼ同じくらい。富士山の裾野は1,200k㎡程度なので、250倍以上になる。
 でも、高さは富士山くらいだ。太平洋の底に張り付いた様な平べったい山なのだ。山頂から麓までは2~400kmもある。富士山から都心までは100km弱。名古屋が160km、大阪で300km程度、仙台までは約380kmである。
 タムじいさんに麓から歩いて登るのは大変である。とにかく道程が長い。富士山に登るのに仙台から歩くようなものだ。
 山頂近くまで車かケーブルカーで行きたい。または、山頂が海面下2,000m程の所にあるので、船で真上から降りた方がいいかもしれない。防寒だけでなく、防水対策もして。

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 タムじいさんの大物ぶりが知れ渡ったのは2013年。
 米国テキサスA&M大学のウィリアム・セーガー博士のチームによって単一の火山としては世界最大であることが発表された。 
 タムじいさんの名前はこの大学にちなんでつけられた。テキサスの頭文字のTにAとMで「TAM(タム)」なのだ。

          

 タムじいさんは、地球の奥深くのマントルから、莫大な量の熱いマグマが噴き出して生まれた。
 これまでタムじいさんはたくさんの火山の集まりだと考えられてきた。セーガー博士たちは、科学掘削船を使い海底をボーリングして溶岩を採取したり、水中音波で海底の構造を調べたりした。方々で採った溶岩の成分が同一なので、単一の火山であることが判った。
 しかも背は高くないが、自分の重さで海底にめり込んでいることも判った。その深さは20~30kmもあるらしい。タムじいさんは根が生えた山なのだ。根から測ると3万m以上の高さがあることになる。

 

 タムじいさんが居るのは深い海の底。詳しい調査はこれからだ。未調査のお仲間が海の中にいると考えられる。
 さらに、お仲間は地上にも居る。たとえば、デカン高原。タムじいさんより若い6,500万歳程。マントルから湧き出たマグマが、平たく何層にも重なりあって出来ている。
 このデカン高原、恐竜絶滅の犯人ではないか、との疑惑を持たれている。ユカタン半島に落ちたチュクシュブール隕石と共同正犯。いや最後にとどめを刺したのは隕石でも、それまでにじわじわと絶滅に追いやった張本人ではないかと。デカン高原の活動による火山ガスや塵が地球環境を大きく変えたのではないかと考えられている。
 お仲間は、海底、地上合わせて40以上と言われる。ひょっとすると、さらに大物が隠れている可能性もある。

 

 つい最近まで無名だったタムじいさん。どこにどんな才能を持った大物が隠れているかわからない。
  東京オリンピックに向けて隠れた大物を発掘しよう。

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  余談をひとつ。タムじいさんのライバル、現在太陽系で一番大きな火山と言われているのは、火星にあるオリンポス山だ。面積はタムじいさんよりちょっと小さいが、標高が2万m以上あるため、体積は25%ほど大きいと考えられている。

 

オジさんの科学vol.008    2016年8月号                  2016.08.29 や・そね

 

 つい最近、タムじいさんは単一の火山ではなさそうだと発表された。発表したのは名づけの親、セーガー博士だ。2019年7月17日、ナショナルジオグラフィックのニュースに載った。タム山塊の磁気を調べると磁場逆転の縞模様が発見された。これは一気に噴き出た火山にはできない。造られたメカニズムは分からないが、海洋プレートが集積したものらしい。世界一の火山には、ハワイのマウナロアが返り咲いた。

 (2019.07.22改)