日中はインターネットを見て、働くふり。終業の音楽が流れるとすぐに席を立つ。速攻で居酒屋に行き、会社の愚痴を語り合う。
どこの会社にもいる働かないオジさん。無茶苦茶深夜残業して働いている若手からみると、理不尽な存在である。働かないオジさんがいなければ、会社の生産性は上がるのに。 能力が無いのか、やる気が無いのか、両方なのか。
そんな働かないオジさんの存在理由が証明された。いえ、働かないオジさんではなく「働かないアリ」さんでした。アリと言えば働き者の代名詞。その中で、働かないアリの必要性が証明された。
「働きアリの法則」というのがある。2割のアリは良く働き、6割が普通に働き、2 割は全く働かないという。
実際、集団で働くアリを観察すると、ほとんど働かないアリが常に2~3割程存在するそうだ。
作業効率が下がるはずなのに、このようなアリが存在する理由は謎だった。
働かないアリは、何故淘汰されないのか。
北海道大学の長谷川准教授のチームは、実際にアリを飼育した観察結果とコンピューターシミュレーションから、集団の長期的存続のためには「働かないアリが必要」であることを証明した。
観察対象はシワクシケアリ。体長5mm程で、それぞれの個体の体格差がほとんどない。研究チームはこれを30cm×22cm×6cmのプラスチックの容器で飼育した。最初は、女王アリ1匹と150匹の働きアリ、さらに幼虫と卵を入れた。
個体認識ができるように、アリの体にカラーペンで色を付けた。10色で3か所に印をつけると1,000匹まで観察できる。新しく生まれてきたアリには、1日以内にマーキングを施した。
この飼育箱を8つ用意し、1ヶ月間朝、昼、晩と観察した。
そこには、働かないアリがいた。中には1カ月の間ほとんど働かないアリもいた。
ところが働かないアリだけにすると、働くアリが現れた。
研究者たちは、すぐに働くアリと普通に働くアリ、なかなか働かないアリと個体ごとに働きだすレベルがいろいろあると考えた。周囲の環境が変化し、緊急度が増すと普段働かないアリも働きだすのではないかと。個々のアリのやる気度合いとも言えるかもしれない。
アリのやる気度合いを変えて、集団の将来をシミュレートした。
一つの集団は全て標準的なやる気度合いのアリだけに統一した。一方の集団にはやる気の低いアリも含めた、様々なやる気度合いのアリを混在させた。当然のことだが、やる気を統一した集団の方が生産性は高かった。
さらに、新たに疲労と休息というパラメータを導入した。すると、やる気を統一した集団は一斉に働き一斉に休む、という状況が発生した。一方の集団では、多くのアリが休息をとりだすとやる気のないアリが働きだした。
設定では、仕事は常に発生し続ける。重要な仕事の処理が追い付かなくなるとその集団は絶滅する。長期的な存続率は、やる気のないアリが居る集団の方が高かった。
ローテーションを組んで仕事をこなしているという解釈もありそうだが、仕事量が少ないうちは働かないアリは永遠に働かない。彼らは集団存続のためのセーフティーガードと言えそうだ。
働かないアリは、絶対不可欠なルーティンワークを途切れさせないため存在する。
幼虫に餌を運んだり、卵が細菌に感染しないように表面を拭く作業は常に必要だ。この作業を怠ると子孫を残せない。疲れたからと言ってやらないわけにいかない。他のアリが疲れて動けなくなった時に、普段働かないアリがこれらの仕事をし始める。
働かないアリの生産性は低い。しかし緊急事態が発生した時に働かないアリたちがその巣を救うのだ。
会社では、どれだけ工夫に工夫を重ね、スタッフ全員のやる気を引き出そうとしてもなかなかうまくいかない。これはリーダーの責任ではないのだ。
働き者の若者たちを集めてもその中の何割かは働かなくなる。逆に働かないオジさんたちを集めると、そこから働くオジさんが発生する。ただしオジさんの生産性は低い。
だから人事はオジさんを分散させて配置しているのかもしれない。若者に働いてもらうために。
査定の時も、働かないオジさんは居た方がいい。限られた査定原資を配分する時に、働かないおじさんの分を他の者に割り振れる。
若者たちよ、オジさんのおかげで君たちは高評価なのだよ。
いつの日か、オジさんが活躍する時が来る。
インフルエンザで所属員の多くが倒れた時、資材の大量発注で業務量が急に増えた時。東日本代震災が起こった時に、オジさんたちは頑張った。
働かないアリが巣を滅亡の危機から救うように、働かないオジさんは会社倒産の危機を救うのだ。
働かないオジさんは、ヒーローなのだ。
がんばれ働かないオジさん。
ちなみに働かないオジさんというのは、イメージが湧き易いように表現しただけです。働きアリは全てメスです。
また、アリのパフォーマンスは死ぬ直前まで変わらないそうです。
オジさんは、まだまだ頑張るぞ~。
オジさんの科学vol.005 2016年5月号 160521 や・そね