オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

恐竜から焼鳥をつくるには

 先月号(2017年4月号)の配信は、ぎりぎり末日に間に合った。焼鳥片手にビールでひとり打ち上げ。
 ほっとした翌日、日経サイエンスの6月号を取りだしてびっくり。あらら、なんと特集が「恐竜から鳥へ」。
 先月号で、鳥の祖先は恐竜であることをお伝えした。
 そこで今月号では、「自分で恐竜を鳥に進化させ、焼鳥にして一杯やりたい」というオジさんたちの夢のために、日経サイエンスの記事などからその手順をお教えしたいと思う。

f:id:ya-sone:20191021105700j:plain

 ①「初期の恐竜」を手に入れる

 まず、今から2億3000万年以上も前、中生代三畳紀という時代に生息していた原始的な恐竜を用意する。
 既にこの時代の恐竜は、鳥の特徴である3本の指が前向きについたまっすぐな脚を持っている。これにより恐竜は速く走ることができ、生存競争で優位に立てる。その中に、綿毛のような羽毛を持った恐竜がいる。これを選んでほしい。
 だが、この羽毛では風を捉えられず、飛べない。
 では、どんな役割を担っているのか。
 一つは、恐竜の体温を保持するためと考えられる。もう一つの理由がディスプレイだ。鮮やかな色の羽を持った恐竜もいることがわかっている。相手を驚かしたり、異性の気をひいたりするのだ。


②「気嚢(きのう)」をつくる

 ①を1500万年ほど進化させると、気嚢がつくられる。
 気嚢とは薄い膜の袋状の呼吸器官だ。気嚢があると肺は息を吸い込むときだけではなく、吐くときにも酸素を取り込める。巨大な恐竜は気嚢を発達させ、大量の酸素を効率的に取り込むことにより、大きなエネルギーを発生させる。
 鳥はこの気嚢を引き継ぐことにより、酸素が薄い高い空の上を飛行できるようになる。チベットには、エベレストの上空を飛ぶ鶴の仲間が居る。
 空気袋である気嚢は、体内でかなりのスペースを必要とする。その一部は骨の中にも入り込んでいき、スカスカにする。結果として鳥の軽量化が実現する。

f:id:ya-sone:20191021110041j:plain

③叉骨をつくる

 そのうちに、恐竜は左右の「鎖骨」をV字型に融合させ「叉骨」を発達させる。(鎖骨も叉骨も「さこつ」と読む)これにより前肢が安定し、獲物をつかむ時の衝撃をうまく吸収できるようになる。
 鳥はこの叉骨を転用し、羽ばたく際にエネルギーを蓄えるバネとして使うようになる。 

 

④正羽(せいう)をつくる

 正羽とは中に軸がある羽。赤い羽根募金や羽根ペンに使われるような普通の羽のこと。
 初期の恐竜を6~7000万年進化させる。すると綿毛の様な糸状の羽毛は長くなり、枝分かれする。そして幾つかの単純な束ができ、やがて中央の羽軸から羽枝が横に出て正羽になる。

 

⑤大きな翼をつくる

 正羽は互いに重なり合うように生えるようになり、ついに翼を持つ恐竜が現れる。
 このような偶然が少しずつ重なって飛べるようになるのだ。
 原始的な恐竜を8000万年ほど進化させると、始祖鳥が誕生する。自然界では今から約1億5000万年ほど前、ジュラ紀と呼ばれる時代に出現した。

 

 この間に鳥は、クチバシや飛行をコントロールする大きな前脳を発達させたり、前脚(翼)が折りたためるようにしたり、大人になるまでの成長速度が上げたりした。
 小さくもなったようだ。大英自然史博物館展で見た始祖鳥の化石は、わずか3~40cm四方の石板の中に納まっていた。

 

 では、どんな遺伝子を使って鳥の特徴はつくられたのだろう。 
 今年(2017年)2月、東北大学東京大学国立遺伝学研究所等の国際共同チームが「鳥の進化にあたって新しい遺伝子の獲得はほとんどなかった」と発表した。
 共同チームは、ニワトリやツバメ、ペンギン、ダチョウなどの様々な鳥類とカメやワニ、トカゲ、マウス、カエル、魚などの9種類の動物のDNAを比較した。

 

 その結果、鳥だけが共通して持つDNA配列が27万個見つかった。ところがそのうちの99.7%は遺伝子では無かった。これらは、鳥に進化する前から持っていた遺伝子の機能を制御する「スイッチ」の役割をするDNAだった。
 鳥のさまざまな特徴は、ありものの恐竜の遺伝子のスイッチをオンにしたり、オフにしたりすることにより生み出されることがわかった。

 

 今回見つけたスイッチの一つは、ある遺伝子を活性化させ、翼の風切羽や尾羽(両方とも正羽)をつりだすことが判った。同じ遺伝子を持っていても、スイッチが入らないために他の生き物では羽が生えない。 

 

 さて、始祖鳥から焼鳥までは、あと1億5000万年ほど進化が必要になる。
 ニワトリのお肉を得るには、東南アジアや南アジアに生息するセキショクヤケイ(赤色野鶏)を家畜化し、最後に数千年ほど進化させればOKだ。

 

f:id:ya-sone:20191021110352j:plain


 鳥は飛ぶという目的に向かって進化したのではない。
 もちろんオジさんの焼鳥になるために進化したのでもない。
 進化は偶然の結果。しかもゆっくりゆっくりと少しずつ変化を積み重ねる。そして想像もしなかった結果を生む。様々な器官が本来とは別の使われ方をするようになり、飛べるようになった。

 

 鳥肉には「イミダゾールジペプチド」いう成分が含まれる。これが中高年の脳萎縮を抑制し、神経心理機能を改善する可能性がある、という研究結果がある。
 オジさんたちは、焼鳥が好きで毎日食べているだけです。それがボケ防止につながるなんて、まったく気づいていません。

オジさんの科学vol.017 2017年5月号                                                                                2017.05.20(2019.10.21改) や・そね