先月号(2017年4月号)の配信は、ぎりぎり末日に間に合った。焼鳥片手にビールでひとり打ち上げ。
ほっとした翌日、日経サイエンスの6月号を取りだしてびっくり。あらら、なんと特集が「恐竜から鳥へ」。
先月号で、鳥の祖先は恐竜であることをお伝えした。
そこで今月号では、「自分で恐竜を鳥に進化させ、焼鳥にして一杯やりたい」というオジさんたちの夢のために、日経サイエンスの記事などからその手順をお教えしたいと思う。
①「初期の恐竜」を手に入れる
まず、今から2億3000万年以上も前、中生代の三畳紀という時代に生息していた原始的な恐竜を用意する。
既にこの時代の恐竜は、鳥の特徴である3本の指が前向きについたまっすぐな脚を持っている。これにより恐竜は速く走ることができ、生存競争で優位に立てる。その中に、綿毛のような羽毛を持った恐竜がいる。これを選んでほしい。
だが、この羽毛では風を捉えられず、飛べない。
では、どんな役割を担っているのか。
一つは、恐竜の体温を保持するためと考えられる。もう一つの理由がディスプレイだ。鮮やかな色の羽を持った恐竜もいることがわかっている。相手を驚かしたり、異性の気をひいたりするのだ。
②「気嚢(きのう)」をつくる
①を1500万年ほど進化させると、気嚢がつくられる。
気嚢とは薄い膜の袋状の呼吸器官だ。気嚢があると肺は息を吸い込むときだけではなく、吐くときにも酸素を取り込める。巨大な恐竜は気嚢を発達させ、大量の酸素を効率的に取り込むことにより、大きなエネルギーを発生させる。
鳥はこの気嚢を引き継ぐことにより、酸素が薄い高い空の上を飛行できるようになる。チベットには、エベレストの上空を飛ぶ鶴の仲間が居る。
空気袋である気嚢は、体内でかなりのスペースを必要とする。その一部は骨の中にも入り込んでいき、スカスカにする。結果として鳥の軽量化が実現する。
③叉骨をつくる
そのうちに、恐竜は左右の「鎖骨」をV字型に融合させ「叉骨」を発達させる。(鎖骨も叉骨も「さこつ」と読む)これにより前肢が安定し、獲物をつかむ時の衝撃をうまく吸収できるようになる。
鳥はこの叉骨を転用し、羽ばたく際にエネルギーを蓄えるバネとして使うようになる。
④正羽(せいう)をつくる
正羽とは中に軸がある羽。赤い羽根募金や羽根ペンに使われるような普通の羽のこと。
初期の恐竜を6~7000万年進化させる。すると綿毛の様な糸状の羽毛は長くなり、枝分かれする。そして幾つかの単純な束ができ、やがて中央の羽軸から羽枝が横に出て正羽になる。
⑤大きな翼をつくる
正羽は互いに重なり合うように生えるようになり、ついに翼を持つ恐竜が現れる。
このような偶然が少しずつ重なって飛べるようになるのだ。
原始的な恐竜を8000万年ほど進化させると、始祖鳥が誕生する。自然界では今から約1億5000万年ほど前、ジュラ紀と呼ばれる時代に出現した。
この間に鳥は、クチバシや飛行をコントロールする大きな前脳を発達させたり、前脚(翼)が折りたためるようにしたり、大人になるまでの成長速度が上げたりした。
小さくもなったようだ。大英自然史博物館展で見た始祖鳥の化石は、わずか3~40cm四方の石板の中に納まっていた。
では、どんな遺伝子を使って鳥の特徴はつくられたのだろう。
今年(2017年)2月、東北大学、東京大学、国立遺伝学研究所等の国際共同チームが「鳥の進化にあたって新しい遺伝子の獲得はほとんどなかった」と発表した。
共同チームは、ニワトリやツバメ、ペンギン、ダチョウなどの様々な鳥類とカメやワニ、トカゲ、マウス、カエル、魚などの9種類の動物のDNAを比較した。
その結果、鳥だけが共通して持つDNA配列が27万個見つかった。ところがそのうちの99.7%は遺伝子では無かった。これらは、鳥に進化する前から持っていた遺伝子の機能を制御する「スイッチ」の役割をするDNAだった。
鳥のさまざまな特徴は、ありものの恐竜の遺伝子のスイッチをオンにしたり、オフにしたりすることにより生み出されることがわかった。
今回見つけたスイッチの一つは、ある遺伝子を活性化させ、翼の風切羽や尾羽(両方とも正羽)をつりだすことが判った。同じ遺伝子を持っていても、スイッチが入らないために他の生き物では羽が生えない。
さて、始祖鳥から焼鳥までは、あと1億5000万年ほど進化が必要になる。
ニワトリのお肉を得るには、東南アジアや南アジアに生息するセキショクヤケイ(赤色野鶏)を家畜化し、最後に数千年ほど進化させればOKだ。
鳥は飛ぶという目的に向かって進化したのではない。
もちろんオジさんの焼鳥になるために進化したのでもない。
進化は偶然の結果。しかもゆっくりゆっくりと少しずつ変化を積み重ねる。そして想像もしなかった結果を生む。様々な器官が本来とは別の使われ方をするようになり、飛べるようになった。
鳥肉には「イミダゾールジペプチド」いう成分が含まれる。これが中高年の脳萎縮を抑制し、神経心理機能を改善する可能性がある、という研究結果がある。
オジさんたちは、焼鳥が好きで毎日食べているだけです。それがボケ防止につながるなんて、まったく気づいていません。
オジさんの科学vol.017 2017年5月号 2017.05.20(2019.10.21改) や・そね