オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

ホップ、ステップ、アワワワワ。

オジさんの科学vol.033 2018年9月号

(2018年9月に配信した文章を、2020年4月に微修正しアーカイブしました)

 

 子どもの頃は夏休みが終われば、夏も終りでした。東北の夏休みは短いのです。東京より1週間ほど前には、2学期が始まっていたと思います。だから8月31日の「今日で夏休みも終わり」というニュースに、いつも毒づいていました。
「もう、とっぐぬ終わってんべ」と。

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 9月に入りました。さすがに猛暑日は無いけど、まだまだ真夏日は続きます。熱帯夜だからエアコンは点けっぱなしです。
 スーパーの店頭には、まだトウモロコシがたく
さん並んでいます。冷やし中華もまだあります。まだまだ夏です。ということで今月は、まだ間に合うよねビール関連ネタです。

 オジさんたちは、仕事をするふりで疲れた会社帰りに、居酒屋でビール。ハーフを終わってゴルフ場でビール。風呂上がりに家でビールです。ぐきゅっっうぐっ、プファァァァ~。
 先日、新宿の屋上ビアガーデンに、高校の同級生のオジさん6人組で繰り出しました。飲み放題のメニューには、ワインも日本酒もハイボールもチューハイもホッピーもあります。でも「ビア」ガーデンです。そして「とりあえずビール」です。

 

ビールと言えば、あふれ出る泡、泡、泡。そもそも液体の表面に泡が盛り上がる飲み物なんて、ビール以外に思いつきません。シャンパンやサイダー、コーラの泡は、すぐに弾けてしまいます。なぜビールの泡だけが残るのでしょうか。

 

 国立研究開発法人産業技術総合研究所ナノ材料研究部門とキリン株式会社の研究チームは、ビール表面の泡の構造を調べた。

 

 ただの水を掻き混ぜても泡立たない。これは表面張力あるから。ここに洗剤などに含まれる界面活性剤を入れて、表面張力を弱めると泡が出来る。でもビールに界面活性剤は入っていない。

 

 ビールの泡は、とても小さく密集している。一つひとつの泡は、ビール液の膜の中に、アルコール発酵の過程で出来た二酸化炭素が入っている。
 大麦を発芽させた麦芽を乾燥させ水と混ぜ、ビール酵母で発酵させる。そしてホップで味をつける。元々ホップは保存料だったが、独特の苦みと爽やかな風味により、今ではビールに欠かせない原料となった。

 

 これまでも、麦芽が元になったタンパク質や、ホップが泡の形成に関与していると考えられていた。そこで研究チームは、レーザー光線を使って泡の表面に存在する分子を、直接調べてみた。飲みごろの3℃に冷やしたビールを使ったそうです。

 

 市販のビールに相当する5%ぐらいのアルコール濃度だと、ホップに含まれる成分がビールの液面に集まってくる。アルコール濃度が高すぎるとホップの成分は液面に集まらず、濃度が低いとそもそも溶けないという。

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 泡の膜を作るビール液が気体と接する面に、ホップの成分が多く集まることが判った。膜の断面を見ると内側の二酸化炭素との境界面や、外側の空気との境界面にホップの成分が多い。
 ホップの添加量を増やすと泡の持続時間も延びることも判明した。
 ホップが、麦芽のタンパク質と結びついて泡を守っていることが分かった。

 

 ホップの様に渋いと思っているオジさんたちに、ビールはお似合です。吹けば飛ぶような立場でも、結束してしぶとく残る泡なのです。
 ホップなオジさん6人組で行った新宿のビアガーデンは、若者たちでかなり盛り上がっていました。何百人と居た客の平均年齢は、20代だったと思います。みんな飲みまくっていました。

 

 筑波大学医学医療系の研究グループは先月「飲み放題は大学生の飲酒行動にどう影響するか」という研究を発表した。

 関東の31大学の学生533人を対象に、飲み放題に関する調査を行った。95.8%の511人に、飲み放題の利用経験があった。そして飲み放題の時の飲酒量が、飲み放題ではない時に比べ、男子学生で1.8倍、女子学生も1.7倍になることが判った。

 

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 飲み放題利用時の男子学生の平均アルコール摂取量は85.9g。ビールに換算すると約2.2リットル、日本酒だと4.3合、ウイスキー水割り8.6杯になる。女子学生は63.7gで、ビールで1.6リットル、日本酒3.2合、ウイスキー水割り6.4杯になる。
 また、男子学生の39.8%、女子学生の30.3%が、飲み放題時のみHED(一時的多量飲酒)という危険な飲酒をしていることが判った。

 

 HEDとは、世界保健機構(WHO)の定義によると1回の飲酒機会で60g以上のアルコールを摂取した場合をいう。ビールだと1.5リットル、日本酒3合、ウイスキー水割り6杯、ワイン小グラスで6杯、チューハイ350ミリリットル3缶、25度の焼酎ならロックで300ミリリットル分だ。

 

 理化学研究所などのグループによる日本人の全ゲノム(遺伝子)解析の報告が、今年4月に発表された。それによると日本人は何らかの理由により酒に弱くなるように進化したらしい。日本人は世界でも稀にみるほど、酒に弱い人種なのだ。
 WHOの基準より少ない量でも危ないのだ。

 

 学生だけの話ではありません。意地汚いオジさんたちも気を付けましょう。そして美味しいビールを適量飲みましょう。飲み過ぎて後で泡を食らったりしないように。

                                                                                                         や・そね

<参考資料>

プレスリリース

              ・「ビール表面の分子と泡の安定性に相関」
     2018年8月10日 国立研究開発法人産業技術総合研究所、キリン株式会社

              ・「飲み放題は大学生の飲酒行動にどう影響するか」
     2018年8月29日 筑波大学

            ・「全ゲノムシークエンス解析で日本人の適応進化を解明-アルコール・
     栄養代謝に関わる遺伝的変異が適応進化の対象-」
     2018年4月25日 理化学研究所大阪大学慶應義塾大学医学部、
     日本医療研究開発機構

HP

              ・「ビールをうまくするあの泡には、さえた苦みのホップが集まってくる」 
     2018年8月23日 サイエンスポータルニュース速報

              ・ウィキペディア「ビール」