オジさんの科学

オジさんがオモシロそうだと思った科学ネタを、勝手にお裾分けします。

ボクたちワンチーム。

オジさんの科学vol.047 2019年11月号

2019年に配信した文章を微修正し、2021年5月にアーカイブしました。

 
 11月2日、南アフリカの優勝でラグビーのWカップが閉幕した。この1ヶ月、ボクの周りにも“にわかファン”が多数出現した。そういう自分もスコットランドに勝った日は、うれしくてLINEをしまくった。

 チケットの販売率は99.3%、観客総動員数は170万4443人を記録した。ワールドラグビーのボーモント会長は「最も偉大なW杯として記録に残る」と賞した。

 台風19号の被災地の宮古で、泥の掻き出しをしてくれたカナダチームには、感謝の気持ちで涙が出た。

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 身長2mで体重が130kgあっても、肌や髪や目の色が違ってもWカップラグビーのすべての選手は、生物学的にはボクと同じ「種」である。世界中に77億人いるヒトは、皆「ホモ・サピエンス」だ。

 一方で同じ霊長類のゴリラの場合、マウンテンゴリラと西ローランドゴリラは異なる種とされる。チンパンジーにも、いわゆるチンパンジーの他にボノボという別種がいる。つい最近、外見からは全て同じだと思っていたキリンが、6種にも分かれていると判った。

 ヒトも数万年前までは、複数の種がボクたちホモ・サピエンスと共存していた。

 

 有名なのは「ネアンデルタール人」。2万8千年ほど前まで、ヨーロッパを中心に住んでした。かつてはボクたちの祖先にあたるのではないかと言われたが、今は別種のヒト属であることが分かっている。

 

 そして謎の人類「デニソワ人」。2008年に、シベリア南部アルタイ山脈のデニソワ洞窟で発見された。見つかったのは歯と指の骨のかけらだけ。DNA分析を行ったところ、ホモ・サピエンスでもネアンデルタール人でもないことが判った。DNAだけで存在が確認されているデニソワ人。どんな姿をしていたのだろう。彼らも3万年ほど前まで存在していたと考えられている。

 

 さらに奇妙な人類が「フローレス原人」。インドネシアフローレス島で2003年に発見された。成人女性とみられる骨格は身長1m足らず、脳は現代人の1/3ほどしかなかった。ホビットと名付けられたこの人骨は1万8千年前のものだった。ジャワ原人北京原人の一族よりさらに古い人類の子孫かも知らない、とも言われている。

 ちなみに「クロマニョン人」は、ボクたちと同じホモ・サピエンスである。

 他の人類が滅びる中、生き残ったのはボクたちだけだった。

 

 ボクたちのご先祖様は、全員が顔見知りだったかもしれない。

 ホモ・サピエンスは20万年ほど前にアフリカで生まれたと言われる。ところが、程なく長い氷期が襲来した。寒冷で乾燥した気候になりアフリカ全土が食糧難になった。

 そして、全人口が数百人程度になってしまったと考えられている。

 

 生物の個体数が極端に少なくなることを「ボトルネック」現象と呼ぶ。遺伝子のバリエーションが少なくなることで、これがあったことが分かる。ボクたちのご先祖様にボトルネック現象が起こったことは、遺伝学的に検証されている。

 では、どこで生き延びたのだろうか。氷期であっても狩猟採集民だったご先祖たちが、食物資源を確保できる土地だ。

 

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 南アフリカが「人類の避難所」であったとする説がある。

 アリゾナ大学のC.W.マリーン教授は、アフリカ大陸の南端と想定した。南アフリカの海岸沿いにある「ピナクルポイント」の洞窟から、16万4千年前の人間の活動を示す様々な証拠が見つかっている。

 

 近くの海は、寒流と暖流が交じり合って栄養に富む。タンパク質を豊富に含む貝類がたくさん採れた。また、時にはアザラシやクジラの様な海洋哺乳類も食べていた。

 ピナクルポイントの近くには、球根を持つ地中植物が多い。球根を食料にしていたのかもしれない。地中植物は他の動物に食べられることも少ない。さらに、この地域の地中植物は食物繊維が少なく、高エネルギーの炭水化物が多い。 

 

f:id:ya-sone:20210531104349j:plain 洞窟の中で集団生活をしながら、ご先祖たちは大災害を乗り切った。

 数百人と言えば高校の一学年ほど。小人数のご先祖たちが、協力して厳しい環境に立ち向かう姿を想像して欲しい。

 エモリー大学のF・ドゥ・ヴァール教授は「助け合いのパワー」という記事で「ホモ・サピエンスはその特有の協力能力によって、地球で最有力の生物種となった」と述べている。

 77億人のすべてがその遺伝を受け継いでいる。

 ラグビー日本代表が掲げたテーマは「ワンチーム」。にわかファンとともに、今年の流行語大賞にノミネートされた。 

 

 2019年10月28日付けで科学誌「ネイチャー」に、南アフリカの北隣の国「ボツワナ」がホモ・サピエンス誕生の地だった、という説が発表された。20万年前から13万年前までの間、初期の集団はここに留まっていたという。当時の気候を分析したところ、ボツワナにあった広大な湿地帯が、彼らが住むのに適していたようだ。

 

                                           

<参考資料>

『別冊日経サイエンス 人類の起源と拡散』日経サイエンス社 

『別冊日経サイエンス 人類への道』日経サイエンス

ネアンデルタール人は私たちと交配した』スヴァンテ・ペーボ 文藝春秋

『進化の教科書 第1巻 進化の歴史』講談社ブルーバックス

日経サイエンス2019年6月号「ジャンク化石の山から人類史の宝を探す」

ナショナルジオグラフィックニュース2019年10月28日「ホモ・サピエンス誕生の地はボツワナ、最新研究」

スポーツ報知2019年11月3日

ウィキペディア「ゴリラ」